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山田 武

偽善者と赤色の旅行 その03


 そもそも、勇者と魔王なんて立ち位置が違うだけで似たような存在だ。
 どちらも強大な力を有し、どこかの種族に肩入れする……集団の象徴となって、彼らの希望を叶える。

 勇ましき者と魔の王だからな、そりゃあ大衆も上に崇めたくもなるか。


「まっ、そんなわけでとりあえず──魔族の支配領域を虱潰しに探していこう。魔王は魔族の血を引いていれば、誰でも可能性があるから一番面倒だ。だが、その分見つけられればセットで勇者が釣れるしな」

「引き寄せあう能力があるのですね」

「そういうこと。勇者、聖女、賢者にはそれぞれ別の方法で魔王を探す方法があるんだ。ただ、聖女のやり方だと今は邪神の眷属が釣れちゃうから使えない。そうなると、賢者か勇者だ。けど、それなら逆探知をした方が早く思えてな」


 賢者が塔に引き籠もりを決め込んでいるのならば、それを引っ張り出すのはひどく時間がかかると思う。
 少なくとも俺が賢者なら、絶対そうする。
 カナタ以上の迷宮が構築され、来る者をすべて拒むだろう。


「魔王にも善い奴と悪い奴がいるけど、この世界の本物はどんな奴なんだろう?」

「たとえどのような魔王であっても、メルス様のお力があれば従わせることも容易く行えるでしょう」

「……黒いな、そこだけ聞くと」

「先ほども申しましたように、私の【慈愛】はメルス様に関するものだけ。メルス様がそれを望むのであれば、私はその力を以って願いを叶えてみせましょう」


 まあ、ガーも百パーセントの【慈愛】だけで誕生したわけではない。
 むしろ、そんな純粋すぎる想いでは身を滅ぼしてしまう。


「なら、俺の願いは一つ──家族が望む限りずっといっしょにいることだ。あくまでも、強制はしたくない。けど、俺としてはずっと居たいものだな」

「では、叶えてみせましょう。メルス様の願いは私たちの願い。望むままに、望まれるがままに……」

「いやいや、そこまでしなくていい。絶対にそれ、命を賭すとかそういうパターンだろ」

「はい、それはもちろ……きゃっ!」


 かわいい声が、俺の胸の中で聞こえる。
 翼が驚いた拍子に飛び出してくるが、気にせず強く抱きしめておく。
 ここで創作物みたいな表現をするなら──彼女がどこへも飛んでいかないように……。


「……さて、それじゃあ行こうか」

「え゛っ!? この状況について、説明していただけないのですか?」

「…………察してくれ」


 少しばかりキョトンとしたガーだが、すぐにその表情を満面の笑みに変える。
 その喜びは翼がピコピコと動き、証明されていた。



 さて、百パーセントの願いの達成なんて難しい状況にある。
 しかもそれは、どれだけ自分の身を捧げようと尽きない対価を要求されてしまう。

 対象人数が多ければ多いほど、その難易度は膨れ上がり、最後には絶対不可能となる。
 今の俺は……まあ、どうなんだろうな。


「けどまあ、探し人たちともなると平和を貫くことなんて難しいんだろうな。前にジークさんが言っていたな、王の責務とはあらゆる苦難困難を取り払わなければならないって」

「そうなのですか?」

「ああ、らしいな。俺は眷属が居てくれたから関係ないけど、基本王は責任が伴う仕事のはずだからな」


 初期はリョクが、主に政治を取り仕切ってくれた。
 武具っ娘たちが自我を示してくれるようになった頃は、レンやグーも行政などをやってくれるようになる。

 そして、今ではほぼすべての眷属が大小問わず何かをやっている。
 ミントやカグですら、それなりに働いているのだ……俺って、本当ダメ人間だな。


「仕事、かー。もともと学生だった俺には、あんまり馴染みの無い言葉だよ」

「そういえば……メルス様は、まだ働いておられませんでしたね」

「まあ、やる気のないモブなんてそんなものだろうけどな。この世界じゃ職業、というか役割が与えられている……思うんだが、それは幸せなのか?」

「どうでしょう。より意義を見出みいだせる職業であれば、幸福なのかもしれません」


 逆に言えば、それができない職業ともなると不幸だというわけか。
 けど、それは価値観で決まるものだよな。


「無職な俺には、『偽善者』って役割が本当にピッタリなんだよな。空っぽな部分とか、クリソツだろ」

「メルス様は……!」

「いや、半分は冗談だから気にするな。それよりも、自分ができることを考えないとな」


 モブな俺でもできること、まあアルバイトぐらいだろうが……AFOの世界における俺の立ち位置から考えると、全然思い浮かばないんだよな。


「何でも屋、ぐらいしか浮かばないな。これなら偽善者としても働けるからピッタリだ」

「で、あれば私はアシスタントですね。もちろん、他の眷属と交代交代ですけど」

「日替わりで代わるアシスタントってのも、なんだか斬新な気がするな……」


 まあ、俺の運営する世界で……しかも俺の名を挙げて店をやれば強制的に満員御礼となるだろう。
 さすがにそれは嫌だし、考えて働かないといけないな──というか、面倒臭そうだ。



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