AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と育成イベント完結篇 その06



『グアー、グアー』


 鳴き声は無かったが、風精霊に吹き込んでもらって声らしき音を出してみた。
 思いのほか上手くいったことに、我ながらあっぱれと考えてアヒルたちを方舟へ送る。


「防げ、なんとしてもだ!」


 男の声に呼応し、方舟の前に立ちはだかる複数の魔物たち。
 アヒルは滑らかな動きで宙を泳ぎ、どうかに躱そうとする……が、うち一匹が遠距離攻撃をくらってしまう。


『グアー、グアー』


 いちいち悲鳴まで用意はできなかった、そのため声はそのままだ。
 しかしその声がトリガーとなり、これまでアヒルを動かしていた“虚無イネイン”のエネルギーが解放される。

 ドゥンッ!! と体の髄まで響く衝撃が生まれ、周囲の魔物たちをすべて消し去る。
 効果範囲はとてつもなく広く、この世界にある万物がそのエネルギーを体にくらう。


「なっ!?」

「何を驚く必要がある? 俺の権能と最凶の精霊による合体魔法だ、この程度の事象は当然とも呼べる」

《ふふーん!》


 嬉しそうなナースにほっこりとするが、実際被害は尋常ではない。
 擬似上級精霊たちは一部が欠け、魔物たちは爆心地に近いほど体が千切れている。

 中心地から数百メートルの範囲内は、存在が消されていた。


「さて、そんな新型の舟がまだまだたくさん用意してある……貴様が魔物どもを用意するのと、俺がこのアヒル共を貴様に送りつけるの──どちらが早いと思う?」


 ビクッとする男。
 だが、すぐに何かを決意したような目で、魔物たちに指示を送り始める。


「構わない! どれだけの力を持とうが、君は…………」

「君は、どうしたんだ?」

「なぜ、君は平然としていられる。隠しているから分からないが、君自身の魔力もその無属性の上級精霊の魔力だって限界なはず! なのにどうして、維持できる!!」

「……やれやれ、今さらすぎる話だ」


 肩を竦め、やれやれといったポーズを取ってみる。
 俺の頭の中では、ナースも同じ仕草を取っているのだが……丸い球体のどこに肩があるのだろうか?

 男の発言からも分かるように、たしかに俺やナースの魔力は“虚無”の発動でかなりの量が減る。
 ナースは適性があるため抑えられるが、それでも総魔力量では俺に劣るため、結局はいずれ底を尽く。


「俺たちが行使する魔法、それはすでに理解しているはずだが? 神代の遺物よ」

「……“虚無”だ」

「そこまで分かってなぜ理解できない? まさか貴様、俺の契約精霊が七属性すべてを扱えるとでも思っているのか?」


 発動方法がいくつかあるこの魔法。

 一つは、七大属性の魔力を絶妙な配分で混ぜることで生まれる──いわゆる合成型。
 一つは、適正を持つ者が己の魔力を虚空属性に変換する──いわゆれなくとも変換型。

 大まかに分けたこの二つ。
 散々名前も言っていたし、俺たちが変換によって“虚無”を行使していたことなどすぐに判明する。


『グアー、グアー』


 遠くでアヒルが爆発する。
 適当に彷徨わせていた一匹だが、どうやらジャックポットを出したようだ。
 大地が振るえるなか、俺は軽く宙に浮きつつ男に語る。


「見よ、単体でこの威力! 都市国家であろうとすぐに崩壊するだろう! その力がすべて、貴様の下へ──ドカーンだ」

「っ……!」

「いやいや、なんとおそろしい。現代の舟とは、このようなことまできる素晴らしい技術とやらを秘めている。旧式の舟なぞ、木端微塵も容易かろう!」

「君は……君はぁああああああぁっ!」


 おっ、ヒット──釣れたか。
 偽物の魔王になって耐性でも付いたのか、だいぶ時間がかかった気がするな。

 一匹のアヒルが舟に辿り着く直前、それを止めて交渉を行う。


「ふむ、ではどうするというのか? 貴様がこの俺に従属する……いや、そんな馬鹿なことはあるまい。貴様のことだ、徹底抗戦あるのみと激しく戦い続けることだろう」

「殺してやる!」

「ずいぶんと威勢がいいことだ。ならばそうだな──やれ」

『グアー、グアー』


 ハッと血の気が引いた顔をしても遅い。
 アヒルが方舟に到達し、舟を巻き込んでの大爆発を繰り出す。

 こうかは ばつぐんだ!

 方舟の一部が崩壊し、ボロボロと木屑が落ちていく……そしてそんな様子を、男はとても辛い表情で見つめていた。


「虚勢を張るのは止めろ、遺物よ。貴様が継ぎし遺志など、ガラクタに過ぎぬ。救われないな、貴様も創造主も……」

「……黙れ」

「黙るのは貴様だ! 何が遺志だと語るか。貴様のやっていることが世界への復讐だというのであれば、俺は否定しない。貴様の意志で行い、終わらせるのだから。──だが、その遺志は違う! 物言わぬ亡霊に縋り、存在せぬ無念を晴らすなど愚かしさの証明にしかならぬぞ!」


 心はクールに、台詞セリフはホットに。
 少しばかり過剰な発言なのは、俺がちょうど【憤怒】しているかもしれない。

 死者は何も語らない。
 間際に何を残そうと、言葉に出した想いはそのすべてを物語れない。

 ……まあ、この世界だと霊という形で現世に残りやすいんだが、魂魄的な問題を解決できていないのであれば、死んだも同然だ。


「要するに、すべて壊れろ。継ぐべき物が無くなれば……遺志など存在できなくなる」


 そして、アヒルたちがいっせいに鳴く。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品