AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と育成イベント完結篇 その01
夜空に花火が打ち上がり、人か魔物かなど関係なく騒いでいる。
人と模した姿になっている魔物もいれば、逆に魔物のような姿を取っている人も居た。
どちらかになど境目はなく、同じ喜びを分かち合う朋としてこの場を楽しんでいる。
「──終わったな」
方舟はイベントエリアから姿を消し、魔物が生みだされることは無くなった。
空を飛ぶ浮島を担当していたカナの従魔たちも、カナの周囲で宴を楽しんでいる。
ナースとコルナも似たような感じだ。
行ってこい、と言ったら本当にナースはそちらへ行ってしまったよ。
「俺たちの闘いは、誰にも知られることのないものだ。それでよかったのだろう、知ったところで何ができる」
雌雄の時はまだ訪れていない。
悔しいが、あのままではいずれ精霊の底が尽いていた。
だからこそ、擬似上級精霊とナースを召喚して戦闘を中断させたのだ。
あのまま戦っていては追い込まれるわけだし、善戦したとしてもかなり苦しくなっていただろう。
そうあってはならない、決して。
このイベントが終わるまでは、俺は精霊たちを統べる魔王としての振る舞いを忘れてはいけないからだ。
「……ふぅ。しかしまあ、ずいぶんと盛り上がるものだ──そう思わないか、アルカ?」
「なんだ、気づいていたの?」
「わざわざ遮断して近づかずとも、精霊の通り道を遮断されれば気づける」
「そう、次からは気をつけるわ」
ちなみに俺も、精霊たちに頼んで姿を隠していたんだが……さすがアルカだな。
皆が盛り上がる宴会の中、その隅でこそこそと話し合う二人組。
本来、リア充たちであれば少しはイイ雰囲気とやらになるのかもしれないが……残念というかなんというか、アルカにそれを求めるのは難しいだろう。
「まずはおめでとう、と言うべきか? あの巨大なレイドボスを倒したこと」
「アンタ独りでも倒せたわよ。それに、結構なバフがあってようやくだったわ」
「まあ、それこそがレイドの醍醐味だしな。通常時では感じられない火力が出たり、それこそ合体技が使えたり」
「ユウがやってたわよ、合体技」
マジで!? あとで訊いておかないと……。
何はともあれ、彼女たちは彼女たちが定めて目的を果たすことができたようだ。
リヴェルや俺の手駒を派遣してはいたものの、彼ら本来の業務以外はさせなかったし、普通に周りと協力して討伐したらしい。
「ところであんた、イベント中は何をしてたのよ。何もしてない……なんて嘘、つまらないからしないでちょうだい」
「おいおい、俺にだけ情報を要求か? ずいぶんと偉くなったものだな?」
「偉いのは最初からよ。あんた、そもそも有名じゃないしね」
「……いやいや、有名人には有名だから問題ないだろ」
偽善者の知名度はたしかに低い。
言った通り有名人であれば、関わったことがあるので俺を知っている者も居る。
だが、そこまでこの世界で何かを成した者の方が少ない……そんな人々にとって、俺という存在を正しく認識している奴は、はたしてどれだけいるのだろうか?
「ところで……あの膨大な魔力、まさかあんたの仕業?」
「魔力……ああ、俺の契約精霊だ」
「あの量は間違いなく、私を超えていた。でも、精霊なら……って、たしかこのイベントで育成した子よね?」
「当然だ。速成して促成した人造上級精霊と言っても過言ではない」
かなり無茶をしたからな。
進化の過程はちゃんと踏んではいるが、それ以上に育て方が強引だったし。
「精霊か……精霊魔法も覚えようかしら?」
「普人族が、か? いろいろと怪しまれると思うぞ?」
「正規の方法で得る方法は無いの?」
「ん? それならたしか……精霊神の加護があれば、できるんだったな。けどアルカ、そもそも精霊に関する種族に会えるのか?」
今では月読森人となった森人種が生息する『迷いの森』だが、彼らが崇めていたのは今は活動を休止している月の神様だ。
通常通り、世界樹や精霊神も信仰しているとは思うが……会ったとして、簡単にその方法を教えるのだろうか?
「アンタが知らない情報の一つや二つ、当然持ってるわよ」
「ふーん……まあ、別にすべての情報を吐けと言った覚えはないからいいけどさ」
「……というか、アンタ。前に報酬として精霊魔法を賭けたゲームをしたじゃない。わざわざ遠回りなことをしなくても、アンタから奪った方が早いじゃないの」
「止めとけって。それに、精霊神の加護を受けた方が精霊に懐かれやすいぞ」
そして、今このタイミングで思いだす。
赤ずきんの少女は『精霊姫』、アルカが求める精霊に物凄く好かれた普人族だった。
報酬の一つに在った『魔封じの赤ずきん』には、その恩恵なのか精霊魔法を使えるようになるって能力もあったなー。
「──まあ、自力で発現するのを試してみるのもいいかもな」
「物凄く怪しいわね、何か隠してない?」
「精霊が感じ取れやすくするアイテムを、今度作って届けておこう。不可能じゃないんだし、アルカならきっとできるさ」
「そ、そう? ならやってみるわ」
アルカがさっさとこの場から去り、再び俺は独りとなる。
……さて、そろそろ準備はいいかな?
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