AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と育成イベント終盤戦 その14



 アジ・ダハーカ──じゃなくてハークの速度は凄まじく、数分もしないうちに目的地が見えてきた。
 精霊眼で観察してみれば、破壊される環境にあたふたとする精霊たちが映し出される。


「俺の下へ来い、精霊共!」

「どど、どうしたんですか?」

「詳しい説明はあとだ。それよりも今は、やるべきことがある」


 下級精霊は当然のこと、普段であれば俺を選り好む中級精霊たちも今ばかりは協力をして作業に励む。
 注がれた魔力を使って環境を守り、また同胞たちを救っていく。


『カナよ、コイツはこの場に居る精霊を救おうとしているのだ』

「そ、そうなんですか?」

「……ふんっ、使えぬ精霊が居ないかを視ていただけだ。精霊魔王たるこの俺を差し置いて、奴らを蹂躙することは許さぬ」

「そ、そうですね……ハークも手伝うことはできない?」


 カナがそう尋ねると、ハークはこれまで会話をしていた顔とは別の顔で答える。


『可能だ。カナに貰ったアレがある』

「や、やって」

『ああ、分かった』


 すると、頭部の光輪が輝く。
 ディスクのように激しく回転し、速度と共にその輝きも増していった。


『客人、はどのようにすればいい』

「あの場に居る精霊の避難を行う。場所を維持するのは不可能だ、安全な地へそちらの手で運ぶがよい」

『了解した』


 これまでで一番の輝きを見せる光輪。
 世界が光に包まれると、戦場から精霊の気配が完全に消え去った。


『カナ、あそこへ送った。あとで頼む』

「わ、分かった」

『客人よ、何人たりとも侵せぬ領域に精霊を匿った。それでよかったな?』

「ああ、それで充分だ」


 アジ・ダハーカは千の魔法を操るとされるが、この世界だと魔法の数なのか属性の数なのか分からなくなるな。
 龍なのに精霊魔法が使えているし……本当に、どっちなんだろう?


 ──なんてことを考えていると、ハークの首の一つがこちらを向く。


『客人、カナの納得がいく説明をそろそろしてほしいのだが』

「ハ、ハーク!」

「構わぬよ。だが、俺もそのすべてを知っているわけではない」

『ほぉ、魔王を騙りながら魔王でもある歪な者がそれをうそぶくか。すべてではないが、その一端を知っているはずだ』


 おっと、魔王認定が半分程度ではあるがされているようだ。
 実際二つ名としての魔王ではあるが、転職リストには有り余るほど魔王が記されているのが俺だった・・・わけで……。

 とにかく、どうやらハークはカナがラブな従魔であることは間違いないようだ。


「端的に言えば……そうだな、“目印マーク”が刻まれている者が分かるか?」

『ああ、まばらに存在しているな』

「カナの同朋である祈念者プレイヤーは、ソレらと敵対している。自身がこのイベントで見つけた者との契約なのか、それともまた別の理由があるかは知らぬがな。俺知っているのは、ソレらを倒すのは其奴ら自身ということだけだ」

『なるほど、把握した』


 要するに──育て上げた存在がそれぞれ決められた敵を倒すことでイベント以降も共に行動できる、みたいな特殊イベントである。

 ナースは元が下級精霊なのでそういったこともなかったが、あの場に上級精霊が二体居ることを考えると、上級であればそういった過程をこなさなければ従えることができずにいたのだろう。


『ふぉぉー、すごーい!』

『そうよね、あっかんだわ……』


 まあ、当の本人は聖小狐コルナといっしょにこのイベントを観戦しているようだし、わざわざそんな面倒なことをやらなくてもよかったと感じているけどさ。

 ハークは俺の理解できないレベルで把握した状況を、カナに分かりやすく説明した。
 これまた俺とは違ってすぐにそれが分かる彼女は、この状況を理解したようだ。


「カナ、コルナにはそういった敵対者はいないのか?」

「も、もう倒しました」

「そうか、もしや貴様も……」

『そうだ、客人よ。カナもまた、客人と同じく導く者である』


 カナではなくハークが答えた──彼女もまた、俺と同じく『導士』であると。
 そうでもなければ、イベントが起きる前にボスを倒すというバグに近い現象を起こせるはずもない。

 プレイヤーの中で『導士』を見るのは初めてだが、いったいどんな効果を持っているのだろうか?


「ま、魔王さんもそうだったんですか!?」

「ああ、『導士』は称号として有している」

「そ、そうですか……わ、わたし以外に持っている人を見たのは、その、初めてでして」

「俺もだ。まさかカナに、『導士』が備わっているとはな」


 などと悠長に会話をしている暇はなさそうで、戦場の至る所で爆発が起きる。
 すでに育成した存在が敵対する者を倒す段階は終わったようで、大規模レイド的なヤツが始まるようだ。


「ハーク、印はどうなっている」

『予想通り、すべてが一つの場所に集結している。アレを狙うことが、今の客人に禁じられていることなのか』

「ああ、そうだ。これも契約故にな、迂闊に手出しはできぬ」


 まあ、裏を返せばそれ以外であれば、好きにやってもいいというわけだが。
 さすが大規模レイド用のボスだけあって、かなり強いオーラ的なものを放っている。


「──では、導士にしかできぬことを始めるとしよう。まだ残された厄災の種、それをすべて取り除こうではないか」


 そんな魔物は無視しておこう。
 やるべきことは他にもあるんだ。
 たとえばそう──まだ誰も倒していない魔物の駆除、とかな。



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