AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と育成イベント終盤戦 その13
物事はパパッと纏めた方がいいだろう。
目の前で繰り広げられる光景を、一言で纏めるのであれば──乱入戦だ。
「三対一でも、やはりこうなるのか……ナースと狐はともかく、あの幼龍は敗北した側であるからな」
「厳命はしたのだけれど、どこか曲解したのかしら? 念話も届かないし、こればかりは仕方ないわね」
「あわわわわ……」
あれから数十分が経過し、表彰式が始まったわけだが──本当に何者かが現れた。
『GOAAAAAAAAAAAA!』
人ではなく虎であったが。
真っ黒なのでブラックタイガー的な名前であろうその魔物は、口に咥えた魔道具を起動して強制的に入賞者を舞台に取り込んだ。
結界が構築され試合が始まり、外部からの干渉はいっさい行えない。
育成を行った俺たち三人は、闘いを観ながら暇潰しの会話をしているわけだ。
「ねぇ、その気になったら破壊できる?」
「可能だな。だが、内部に居る者にどのような影響があるか分からぬぞ? ああいった結界は厄介なものが多くてな」
「そう……不味くなったらお願い、アレを逃がすと戦線に影響があるみたいだから」
「いいだろう。その程度のことであれば、余興程度にはなる」
あまり状況が掴めていないカナは、未だにあわあわしているんだが……大丈夫か?
ナースとは別の無精霊に“精神強化”をかけさせたが、あまり変わっていない。
「まあ、もう少しもすれば終わるだろう。貴様の幼龍も反省し、どうやら味方を始めたようであるし」
「……悪かったわよ。けどあれ、アンタが理由でもあるからね」
「ああ、そうか。大方見当はつくが、あえてこの場では究明しないことにしよう」
「…………」
自分のご主人様が嫌っており、その上で嫌悪している相手が使役する精霊。
そしてその精霊が仲良くする狐、どちらも幼龍には耐えられなかったのだろう。
「ふむ、終わったな」
「アンタの契約精霊、どんだけ異常なのよ。やっぱり、契約者がアレだからかしら?」
「なんのことだか……それよりもだ、貴様は行くべき場所があるのだろう?」
「ええ、そうよ」
ナースが放った“虚無”によって、ブラックタイガー的な魔物は無事屠られた。
結界は解除され、トラブルは解決する。
するとイアはルビを呼び、その背に乗って空高く舞い上がった。
「──それじゃあ、アンタの出番はこれでお仕舞いよ! あとはゆっくりしてなさい!」
そう言い残し、凄まじい勢いで飛んでいった……そこまで忠告しなくてもいいのにな。
俺とカナは解除された結界の中に居るナースとコルナが戻ってくる様子を見ながら、互いに状況を整理する。
「実際には支援すらできなかったが……そこは置いておこう。イアが向かった先こそが本当の戦場、何やらあの虎のような魔物の同種が暴れているそうだ」
「そ、それなら、わたしたちも!」
「だろうな。だが、『ユニーク』やら他の強者たちが向かっている……おそらく人数は足りている。そうでなければ、より大会も困難なものになっていただろう」
「は、はい。ゆ、有名な人たちがいませんでしたね」
アルカによれば、そのイベントに関わる存在と契約を交わすと四つの部門に参加できなくなるそうで。
契約せずともそのイベントには参加できるが、特殊なバフが与えられないんだとか。
「ナース!」
『はーい!』
「これから俺たちは戦場に向かい、貴様が大暴れする。俺はある理由より動けぬが、最大限のサポートはしてやろう……行くか?」
『うんー!』
特殊なバフが存在せずとも、精霊魔法はもともと精霊と共にあるための魔法が多い。
それによるバフを俺の魔力で使えば、それと同等の効果が見込めるだろう。
「カナ、移動手段はあるか?」
「あっ、大丈夫です──『ハーク』!」
現れたのは禍々しいドラゴン。
頭部が三つある、膨大な魔力を持つ龍……なぜだろう、俺には心当たりがある。
『おっきー!』
「ふふんっ。ハークはね、ものすごくすごいりゅうなのよ!」
『すごーい!』
龍、というより蛇である。
蛇龍と呼ばれたその者の名は──『アジ・ダハーカ』。
あらゆる悪の根源として創造された、ゾロアスター教における怪物だ。
ただ一つ、頭部に光の輪が付いているのが物凄く気になる。
とても神聖な力を感じるし、その影響なのか禍々しさはあるが龍から直接的な殺意が感じられるわけでもない。
「ま、魔王さん……乗ってください」
「うむ、ナースも……もう乗っていたか」
「ハ、ハークなら、すぐにイアさんに追いつけると思います。で、ですからしっかりと掴まっていてください」
『カナよ、どうすればよい』
さすが魔法に長けた龍、念話での会話を行えるようだ。
周りに影響が及ばないように風を制御しながら、空へ上がっていく。
「え、えっと……あっちの方を飛んでいる、ドラゴンを追って」
『承知した……そこの客人も、しっかりと我が鱗に触れておくことだ』
「ふんっ、言われずとも理解しておる。その必要がないだけだ」
『……なるほどたしかに。客人ほどの力があれば、心配する必要はなさそうだな』
風精霊に結界を作ってもらえば、移動中の風など簡単に抑えることができるからな。
それでもカナに怒られることをしたくないのか、ちゃんと俺の分まで展開してくれた。
『カナよ、状況は分からぬが急いだ方がよいのだな?』
「は、はい!」
『では、すぐに向かうとしよう』
カナに従順な龍は翼をはためかせ、ルビ以上の速度で空を裂いて進んでいく。
この速さなら、わりとすぐに着きそうだ。
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