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山田 武

偽善者と育成イベント終盤戦 その11



 七大属性に聖属性を加えることで、その一撃はあらゆる現象を消し去るまでの膨大なエネルギーを宿した。
 ナースに向けられたそれは、確実に命を奪うだけのパワーを秘めている。

 では、そうでなければどうだろうか?
 たとえばそう、属性が一つでも失われてしまえばどうなるのか。


『むこうかー!』


 ナースは本物のコルナの存在に、気づいてはいなかった……だが、偽物には気づいていたためそれ・・を使用していた。
 それとはカウンターと同じく手に入れた、新たな力の一つ──相殺。

 無属性の上級精霊たるナースにとって、自身の属性たる無属性に限れば──干渉することなど至って簡単なことだった。
 陽炎のようにコルナの偽者が消えた時点で準備を始め、同様のミスが無いように周囲すべてに行使したのだ。

『そりゃー!』

「むぞくせいのせいぎょが……きゃぁっ!」

『とりゃりゃりゃー!』

 聖気を基とした一撃、そう評したがまだ説明には続きがあった。
 聖気を軸に六大属性を均等に注ぎ込み、無属性が調和が取れるように聖気と他の属性を制御する……それこそが、コルナの生みだした一撃の正体だ。

 無属性は染まらぬ魔力、故に別の属性との間を取り持つことができる。
 ほとんどの者は知らないが──二種類以上の属性を使った魔法には、必ずと言っていいほどに無属性の魔力によるバランスが必要となっていた。

 そしてそれを崩されたコルナ。
 強引な干渉もあってか、制御不可能な状態となりその場で暴発する。

 最後の一撃として使うはずだったそれは、かなりの力が注がれていた。
 あとから無属性の魔力を再注入しても間に合わず、発動者であるコルナを傷つけ遠くへ吹き飛ばす。

 追撃するように放たれた、三つの小さな虚空属性の魔力弾。
 大きさなど関係なく、触れた途端敗北は必須──コルナはすぐに回避行動を取って、そのすべてを避ける。

「や、やるわねナース。けど、まだあきらめてなんかないんだから!」

『おー!』

「な、なによ、まだやるきなの?」

『うんー!』

 すでに準備は整っていた。
 コルナはこの一撃で決めていなかった、故にこの後の展開が成ったのだ。


『あっしゅくー!』


 膨らませていた魔力がゆっくりと縮こまっていった。
 密度が高まり濃くなっていく魔力濃度、そのため内部での魔法やスキルの行使がとても難しくなっていく。

「…………」

『ナースのかちー!』

「…………」

 すでに無効化スキルは使えない。
 転移による回避もできないため、コルナに逃げ場はなかった。

「……ねぇ、ナース」

『なにー?』

「あなたはどうして、そんなにつよいの?」

 魔力が使えない今、物理攻撃が通用しないナースを止める方法はなかった。
 諦念からだろうか、それとも喋らなければ恐怖に打ち勝てなかったからだろうか……コルナはナースに話しかけ、時間を潰す。

『ナースにはーけいやくしゃがいるー、だからーさいきょうむてきー!』

「けいやくしゃ……あのおとこのひとのことね。けど、それならカナだってつよいんだから。わたしいがいにも、いっぱいいーっぱいともだちがいるのよ!」

『うーん、けいやくしゃにはーいないー』

 もしメルスがこの話を聞いていたのであれば、おそらく否定せずただ黙って血涙を流していただろう。
 だが、魔力を圧縮しだしてからはメルスもこの場を覗けていない……現在そこは、ある種の密室となっていたのだ。

『でもー、ナースがいるー!』

「そうね、わたしをたおしたんだもん。あなたはあのおとこのひとをまもれるぐらいにつよいせいれいよ」

『ほんとー?』

「ええ、わたしがほしょうするわ」

 精神が未熟な子供同士の会話ではあるが、実力はたしかに伴っている。
 聖獣であるコルナが認めるのであれば、大半の生命体はナースの足元に及ばないことへの証明となるだろう。



 魔力の圧縮は続き、間もなくコルナの居る場所が完全になくなる。
 ナースは魔力同化と魔装スキルを所持しているため、その影響下には含まれない。

 初めは先の思いもあったコルナだが、やがて感情は解れリラックスしていた。
 死という恐怖は、すでに経験済み……ただ起きるということだけを受け入れれば、気にせずにいられる。

 なので、最後の時間までナースと楽しく話すことを選んだ。
 ここで繋ぎ止めなければ、断ち切られてしまうかもしれなかった……主であるカナとの出会いが、コルナにこの選択をもたらした。

「あーあ、まけちゃったわ。ねぇナース──わたしたち、ともだちにならない?」

『ともだちー?』

「ええ、そうよ。なにかなやみがあったらそれをはなしあって、かいけつできるの。とってもすてきでしょ?」

『おぉー! ともだちー!』

 ナースはメルスに言われていた、一人は友が居た方がいいなと。
 実際の意図とは少しズレているのだが、それを受けて友達というものがどんなものだったかを知っていたナースは、興奮して嬉しそうに揺れる。

『ならー、はなしーきいてくれるー?』

「ええ、いいわよ……このたいかいがおわってあえたらね」

『うんー!』

「またあとであいましょ、ナース」

『コルナもー!』

 そして、すべてが虚無へと還る。


≪試合終了! 勝者、ナースちゃん! 武闘会の優勝者が、今ここに決まったぞ!≫


 歓声の中、ナースは状況を把握する。
 友となったコルナは主であるカナという人族に慰めてもらっていた。

「──ふんっ、まあまあだな」

 そして、自身の契約者。
 誰でも無かった自分を拾い上げ、ここまで育ててくれた親のような存在。

 その顔を見たことで込み上げてくる感情を胸に、ナースは勢いよく彼の下へ向かった。


『けいやくしゃー!』


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