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山田 武

偽善者と育成イベント中盤戦 その16



「ふわぁぁぁ……朝か」


 睡眠不要な体ではあるが、思考の一部を索敵に使って残りは意識を遮断していた。
 精霊たちに何かあったら教えてくれるように頼んでいたし、実際何も無かったから問題なかったがな。


(──“精霊召喚サモンエレメンタル・『ナース』”)


 寝ぼけ眼で魔法を発動し、別の場所でのんびりとしているであろう精霊を呼びだす。
 目の前に小さな魔法陣が描かれ、そこから球体が勢いよく突っ込んできて──


『けいやくしゃー!』

「やかましいぞ、ナース。それより調整の方はどうなっている」

『ばっちりー!』

「……ならばよい。今日もまた、祭りの始まりだ。登録に向かうぞ」


 おー! と威勢だけはいいナースの返事を聴きながら移動を開始する。
 出る時はともかく、入る時であればバレても問題ない……それよりも、気にしなきゃならないことに警戒しないとならないが。


「さぁ、行くぞ──“水鏡転陣ミラーポーター”」


 指定した一定量の水がある場所へ転位するという、縛りが設けられた中でも使える数少ない魔法。
 それを用いることで、俺たちはイベントエリアにある町へ向かうのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 これまでもそうだったのだが、登録はあえて遅れてやっていた。
 人数がどれくらいなのか知りたかったのもあるし、個人的事情おとこのロマンによるものもある。

 まあ、実際には当日参加登録ができない者のため、前日から登録は受け付けが始まっているので、使役された存在がその日その場所限定で活動できるようにしているらしい。
 ……こっちの世界の調教系育成職からすれば、それの方が普通かもしれないが。


「今回は魅力か……武闘会は最後の最後まで取っておかれたようだな。早めに回すようにしておいて正解だった」

『なんのことー?』

「気にするでない。貴様は次の競技に向け、準備を整えておくことだ。技とも少し似ているが、魅力とはただ力強さだけで決まるものではないのだからな」

『はーい!』


 地球でも剪定せんていという言葉がある。
 あるべき姿をゆがめ、そのひずみの中にある美というモノを感じるための儀式らしい。

 魅力本来の意味とは違うが、要するにそういうことだと俺は思う。
 誰かの価値観に技術や能力を歪め、美しいと思えるように整える……生まれてそのまま美しい感じられるものに関しては、俺が口出しするといけない気がするので止めよう。

 ただ一つだけ言えば、地球の場合は確実に祖先は猿だ……だいぶ変わってるよな?


「ふむ……しかし、魅力か」


 改めて思う、魅力ってなんだろう。
 少しナースの方を確認し、そこに魅力があるのか……考え、すぐに止めた。
 価値観は何より、人それぞれだしな。


『むー、けいやくしゃー!』

「どうした急に」

『けいやくしゃー、ひどいー!』


 肉体……というより見た目はまったく変わらないのに、どうしてそういう直感は冴え渡るのだろうか?
 なんだか眷属たちみたいに、俺の考えていることが分かっているようだ。


「貴様の魅力を、真の意味で俺は理解していない。貴様との契約はつい先日のことだ、それを忘れたか」

『おぉー』

「だから言ったのではないか、俺の想定を超えろと。それはきっと、貴様の魅力としての証明ができるはずだ……その、期待しているのだからな」

『けいやくしゃーーー!!』


 いつもの三倍増し、ぐらいの勢いでナースが突っ込んでくる。
 いや、どこにそうなるトリガーがあったのかまったく分からないんだが……。


「──ずいぶんと楽しそうね」

「まあ、な。契約者として、それなりのアフターケアが必要……だろ、う……ん?」

「ふーん、アフターケアね……なら、眷属って契約を交わした人にも、そんなサービスがあるのかしら?」


 ゴゴゴゴッと俺の背後に、禍々しい魔力の波動が感じられる。
 まあ、禍々しいというか荒々しいな気もするが……俺がそう思える魔力の持ち主など、プレイヤーにはそういない。


「(ナース、念の為だが転移させるぞ。魔力で分かるであろう? 危険だ)」

《う、うんー……だいじょうぶー?》

「(安心しろ、俺は貴様の契約者だ。こんなところで終わる者ではない)」

《お、おぉー》


 念話でそう説明し、ナースを避難させる。
 何かあればすぐに呼ぶことができるし、この場に居ても得なことなど……考えれば少し浮かぶが、俺には無いからゼロと同意だ。


「話し合いは終わった? アンタの念話って特殊すぎて、何を話しているかまでは傍受できないのよね」

「眷属同士で組み上げた、最高レベルの秘匿技術だからな。正規の方法以外で解読するのは難しいらしい」

「……そんなレベルじゃなかったわよ」


 戦争時も、そうした暗号によって勝敗が決まることがあったらしいし……情報とは使い時以外はしっかりと隠しておかないといけないわけだ。


「さぁ、アルカ様。ただの精霊使いでしかない俺にどんな用かな? 悪いことは、なーんにもしてないと思うんだが……」

「ティンスとオブリの話を聞かず、ユウからも逃亡したそうじゃない? 逃がさないように『檻』を用意していたら、何者かによって一時的に機能しなくなることがあったわ」

「そりゃ怖い。きっと、主人公みたいな奴が邪魔だと感じて何かしたんだろ」

「主人公ねー……」


 わざわざ沈黙するアルカ。
 分かっててやってやがるよ、絶対。


「悪いが俺にはやるべきことがあるんだ。すまんが何がやる言いたいことがあるなら、それを済ませながらにしてくれないか?」

「ええ、それでいいわよ」


 何をしたいのか、まったく分からない。
 うーん……何を話すつもりなんだろうか。



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