AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と育成イベント序盤戦 その17



「経験を一つ積んだな、ナース。虚空の力を過信した結果がこれだ」

『けいやくしゃー!』

「……チッ、俺より適性があるな。威力がこのままでは抑えきれん」


 ボス系の亀が背負う甲羅といえば反射、創作物では常識とも言えよう。
 一定以下の威力という制限がないのか、最強火力を誇る虚空属性の魔力を反射した亀は未だにのんびりとしている。

 だが、ナースはピンチに陥ってしまったわけで……そこは契約者である俺の出番だ。


「【強欲】が使えればよかったのだが……仕方がない──“精霊壁エレメントウォール”」


 精霊の好む魔力で造り上げた防壁が、撥ね返ってくる球体の前に斜めにそびえる。
 その波動を好んだ精霊たちは防壁に集い、自主的にそこを守るために防御してくれるという他人(精霊)任せな防御魔法だ。

 報酬となる魔力は多めに支払ってある。
 精霊たちはそれを吸いながら、自分たちに使える最大級の防御を行ってくれるだろう。


「ったく、逃げるぞナース」

『えー?』

「貴様の成長速度を見誤った。今の俺では、あの魔法を完全に防ぐことはできない」

『えへへー』


 嬉しがるな、本当にヤバいから。
 そんな防げないような魔法が、今俺たちに向けられているんだぞ。


「……長くは持たないんだ。とりあえず、この射線から逃げ──急げ!」

『うん!』


 会話の最中もミシミシ言っていた防壁はすぐに壊れ、精霊たちが霧散してしまう。
 ナースに指示を出すと、最後に長音符が付かなくなるぐらいには慌てて回避する。

 そして次の瞬間、球体が物凄い勢いで俺たちのすぐ近くを通過する。


「見ろ、これが貴様の行った所業だ。自然は荒れ果て、通った先の魔力を消し飛ばす。文字通り、万物を虚に帰す力だ……驕るな、その【傲慢】さは貴様を滅ぼすことになる」

『は、はーい』


 調子に乗っていると、危険存在認定されて封印されるかもしれないし。
 世界樹が特殊な樹聖霊ユラルを危険視して追放するぐらいなんだから、虚空聖霊なんて居たら神様直々に封印を行うだろう。

 ナースも先ほどの反射には応えたらしく、状況を整理し終えた今では気分を落としてしまっている。
 そりゃあ、これまで必殺だった技が自分に向かって飛んで来たんだし……仕方ないか。


「さぁ、貴様はどうする。このまま泣き寝入りをするか? それとも──再度挑むか」

『やるー!』

「だがどうする? このままでは、貴様の攻撃はただ撥ね返るのみ。策を講じぬのは愚者の所業よ」

『……けいやくしゃー……』


 まあ、こうなるとは思っていた。
 インテリジェンスが溢れているとは思えないナースだし、このままじゃ無駄死にしてしまうか。


「虚空魔法が使える魔法は、貴様が自然と行使している“虚無イネイン”だけだ。だが、一つしかないからこそ、使い方は無限に存在する」

『?』

「本質は、虚空に存在する虚無の力にアクセスする魔法だ。それを俺たちは球体に固め、外に放っていたわけだが……別に球体でなくとも、魔法は成立するだろう」

『んー?』


 要するに、矢でも壁でも自在に変化できるのだと言っている。
 他の魔法にある“◯矢アロー”や“◯壁ウォール”も、行使する際の形状を固定することで消費魔力を抑えているだけだ。

 その制限がまったくない“虚無”は、あらゆる形になることができる。
 形状を決めることから魔法として決められているので、イメージの変更に魔力の消費はいっさいない。


「イメージしろ。貴様の魔法があの亀を、あらゆるものを反射する甲羅をも破壊する確固たる光景を」

『むむむー』

「先ほど見たように、虚空の力はすべてを虚に引きずり込む。破壊に特化したそれを──貴様の思うように操れ!」

『おーーーーー!』


 亀は未だにのんびりと、自身が害されることなんてないとたかをくくっていた。
 だからこそ、そこに隙が生まれる。
 新たな目的に意志を燃やすナースは、さっきよりも魔力を精密に操って虚空属性の力を行使しようとしていた。


『おひさまー!』


 魔法名なのか、とツッコみたくなる叫びと共に魔力は解放された。
 ふわふわと魔力は球体の形で亀の元へ向かい、やがて甲羅の上の辺りで停まる。

 反射は亀に影響を及ぼす魔法にしか反応しないようで、ただ近くにあるというだけでは発動しないようだ。


『じりじりー!』


 魔力を感知しようとしてみれば、魔力が目まぐるしい速度で甲羅へ降り注いでいるのが確認できた。
 太陽の光を継続してダメージを与えるものと定義し、魔法のイメージの基としたのか。

 だが、それだけでは亀の反射によってすぐに撥ね返されただろう。


「……なるほど、そういうことか」


 反射はたしかに機能している──が、反射以上に虚無の光が降り注いでいた。
 陽光は浴びている間、途切れることなく肌へ影響を及ぼしている。

 ナースの魔法もまた、魔力が続く限り永続的なダメージを与え、反射する暇もなく攻撃し続けているようだ。


「無効じゃない、つまり限界がある。俺だって“反射結界”を壊されたことがあるしな。さて、いくらパッシブとはいえ、いつまでも持つわけでもない……耐えられるか?」


 亀の甲羅の反射機能が限界を向かえ、その身体に虚空の属性魔力が届いたのはすぐのことであった。



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