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山田 武

偽善者と育成イベント序盤戦 その12



 気長に探す、それはいったいいつまでのことを指すのか?
 五分、十分、一時間、一日? ……いや、そんなに待てなかった。


「……へー、そうなのか」


 現在、俺は図書館らしき場所で速読を行っていた。
 ナースの回復を待つのは決定事項なので、それができるのであれば何をしてもいいと今さら気づいたからだ。

 歩いていない者たちを探すよりも、このエリアにしか置かれていない書物を読み漁っておいた方が賢明だと思った。

 ──そして、それは正解だったのだろう。
 ある本に記されたある文面、それを口に出して読んでみる。


「『──年に一度、世界中の使役者たちが集まり行われる大規模な祭り。神の目に留まった者へ祝福が与えられる』ねー。なんとも胡散臭い話だよ」


 そりゃあ本当にあったのであれば、イベントフラグだと素直に喜べたが……これ、間違いなく仕込みだろ?
 休ませた神の復活に繋がるようなことを、運営神がやるはずもないし……何かしら、アイツらの利益になることがあるのだろう。


「『武を競う武闘会、魅を競う品評会、技を競う展覧会、智を競う問答会』……最後のだけ、名前に無理した感じがあるよな」

 クイズ大会、とかそういう言い方ができなかったのだろうか。
 とにかく、使役した生命体を四つの部門に分けて競わせるのが今回のイベントの目的みたいだな。


「この場合、ナースは武闘会しか参加できないよな。球体が品評会には出れないし、魔力しか使えないから物理的な課題が出たら無理だし。最後に至っては……言動がアレだし」


 間違いなく、あの口調が素である。
 というか、アレに嘘偽りが言えるのであれば、俺は言語を介する生命体すべてを疑う必要性を問わねばならないだろう。
 ……もちろん、眷属は例外だが。


「ただ、どういう形だろうとちゃんとフォルムチェンジしてくれれば、いちおう品評会には出れるんだよな。……本当に、男以外ならどんな形でもいいんだよ」


 精霊にも性別はある。
 下級精霊のうちは無性だが、中級になるとその自覚が芽生え、上級になるとステータスにも性別が表示されるようになる。

 ──ナースは女だ。
 俺の【色欲】が導士と相まって、無性だったナースはほぼ確実にそうなることが決まっていたわけだな。


「そもそも、無属性の精霊はどういうフォルムになるのか分かりづらいんだよな。これは有名な四大属性みたいに、イメージしやすいヤツがいないからだけど」

 火属性なら蜥蜴サラマンダー、水属性なら乙女ウンディーネ、風属性はシルフ、土属性はノーム……あれ? 火属性だけ仲間外れだな。

 と、とにかく、こうして現実でもしっかりと伝わっている四大属性。
 光と闇の精霊の詳細は省くが、この世界ではどのようか形かというのも、人々の中ですぐにイメージできる。

 だが、無精霊だけは存在しない。
 そもそも存在が希薄で、分かりやすい形でイメージができない属性だからだ。
 そのためなのか、無属性精霊たち自身も、自分の姿というモノを定めることが上手くできない。


「……そう考えると、俺がナースにやってたのは酷な注文だったか。いや、それでもやってもらうけどさ」


 女性になーれ♪ なんて誘導以外はいっさいしていない。
 だからこそ姿はまだ定まっていないし、現在はおねんねをしているわけだし。


「あとは……これくらいだな」


 町に関するガイドマッ……資料だ。
 イベントエリアなので、運営が設計したエリアなんだろうが、彼らは彼らなりに創意工夫を凝らした世界を造ってくれた。


「2Pカラーとしか思ってなかったが……そこはエリアに拘ったせいか。まったく、どこに苦労しているんだよ」


 ゲーム業界の苦悩を、凡人かつ学生の俺にはまったく理解できない。
 しかし彼らには彼らの遊び心があり、プレイヤーが楽しめるようにしてくれたんだ。

 森や草原、山や空の美しさ……ナースとこれまで視てきた場所だけでも、現実では感じられない綺麗さを誇っていたわけだし。


「ナース、早く起きないかなー」


 楽しめるものも、楽しめない。
 今の俺が頼れるのはナースだけ……さて、魔力的にはもう充分だったよな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 再び歩を進めると、ようやく知り合いを見つけることができた。
 アチラから声をかけてきたので、俺もまた気軽に返事を行う。


「あっ、居たんだ」

「居たんだ……じゃ、ないわよ」

「じゃあ訂正して……あっ、居るんだ」

「何も変わってないじゃない……」


 竜人のプレイヤー、召喚師のイアである。
 よくよく考えずとも、彼女は職業柄すでに複数の従魔を揃えていた。
 このイベントでわざわざ育成せずとも、強い魔物がいるんだから困らないだろう。


「他の奴らは元気にしてるか? シャインはちゃんと見たが、お前ら会場のどこに居たかなんて把握してなかったからなー」

「ええ、一人で無双プレイをしてドヤ顔を決めていた主様を鼻で笑っていたわ。他のみんなは強い魔物を探しているわよ」

「オ、オブリもか……」

「なんでオブリちゃんだけ心配しているか、それは訊かないでおくわ。それよりメルス、代わりに訊きたいことがあるの」


 前回、そんなことを言って俺に魔本を要求してきたことは記憶に新しい。
 今回はいったい、どんな話なんだが……。



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