AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と育成イベント序盤戦 その04


「──ふむ。まあまあだな」

『…………』

「そう言うな。俺の力があろうと、今の貴様の器ではそれを受け入れられぬだけだ。だからこそ、こうして器の強度を高めようとしているのではないか」


 簡単に言えば、レベリングだ。
 泉から出れば普通に魔物が現れるので、そいつらを殲滅してナースが進化できるまでレベルを上げている。

 ……ちなみに、名前の意味は『無い』的な部分から取ったのであって、看護士さんとはいっさい関係ないからな。


「魔力を球にして攻撃、というのもシンプルなものだ。他には何かできないのか?」

『…………』

「自分で考えろ、というのも酷な話であったか。貴様はつい先ほど、生まれたのだから。どうしても、と言うのであれば俺が見本をみせてやらなくも──」

『…………』


 挑発すると、怒りの感情が生まれた。
 ネロにやったような感情のリンクも同時進行で行っているので、自我と共にちゃんと感情も開花してくれると思う。


「ならば示してみよ。周りに目を凝らし、学ぼうとするのであればすべてに答えがある。せいぜい見つけてみるのだな」

『…………』


 本来であれば、急速なレベリングで精霊は一時的にダウンしていたであろう。
 だが俺のウザさのせいなのか、反骨精神で何度でも立ち上がって魔物へ挑んでいく。


「しかし、どうして俺の周りには頭の良い奴ばっかり集まるんだろう。……というか、俺の知能指数が低すぎるのか? だから相対的に賢く見える? ……落ち込むなー」


 予め、風精霊に助力を願って音は遮断しておいたので、この愚痴は漏れない。
 ロールというのはバレるとやり直しが効かないし、面白くもない。

 演戯が下手だからすぐにそれも知られてしまうのだが……それでも、一度目はやっていたいんだよ。


「……ん? もう、成功したのか」


 俺の視界内で、下級精霊は己と俺の魔力を用いて魔物たちと戦っていた。
 これまではただ、それを丸い形にしてぶつけるだけで倒していた。

 効率もへったくれも無いため、戦闘終了後は俺のウザい発言で時間を繋げられる程度には疲労をする。


「まだ完全ではないが、魔力の循環効率が良くなっているな。これは……魔物の流し方を模しているのか」


 たしかに、適当なことを言った気がするんだが──それは自分に頼られても全然教えられないよ、と伝えたかっただけなんだ。
 決して、森羅万象あらゆるものを教師とすれば強くなれるよ、という意味ではなかった。


「少々荒っぽいが、魔物は生まれた時から魔力の扱いを理解している。精霊はエネルギーの純粋さが力となるが、その分効率を考えないで魔力を使う」


 簡単に言えば──初めから使ったものすべてが低燃費かつ高火力だったからこそ、それ以上の変化を起こさないのだ。

 自然界では星脈のエネルギー、契約をすれば使役者の魔力が供給されるので、わざわざそういったことを考えずとも戦える。
 だからこそ、下級精霊が効率を考えた魔法の使い方をすることはおかしいのだが──


『……だー ………………ぞー』

「少し、こちらのレベルに合う言語ができている。魔力操作の精密さが増したからか? 中級精霊にはまだ成れていないから、進化以外の要因でこうなったのか」

『……、………………かー?』


 こちら側からは音が伝わるが、あちら側には届かないという便利な遮音結界だ。
 少しばかり伸びのある言葉のイメージが伝わってくるが、今の俺が返事をしてもそれはナースに伝わらない。

 風精霊へ感謝を告げて、遮音結界を解除してもらう。
 対価となる魔力は俺の魔道具に宿っている時点で支払われているし、グチャグチャに属性が混ざっている俺の魔力よりも、魔道具用に選別した純粋な属性魔力の方が気に入っているだろうよ。

 再び声が届くかを咳で試せば、すぐにナースは反応を示す。
 それが分かったので意識をロールすることに傾け、それっぽい発言を行う。


「ほお、それなりに足掻いたようだな。しかし、まだ足りない。魅せてやろう──真の制御とはこういったものだ!」


 口で説明ができないので、見て覚えてもらうことにした。
 極限まで圧縮した純粋な魔力の塊が、弾丸のような形になって木に向けて飛ばされる。

 それは抵抗を感じさせず木を貫き、勢いを保ったままどこまでも進んでいく。
 少なくとも精霊には、それが貫通力に特化した魔力の使い方に見えるだろう。


「貴様の限界はそれだ。魔力の可能性を信じる者であれば……これぐらいは容易い」

『……い』


 感嘆してくれているようで何より。
 遠くまで行った自身の魔力に干渉し、ブーメランのように軌道を歪めただけのこと。
 すると魔力はカーブして、俺の元へ帰還するわけで……目がないナースの瞳が、キラキラしている気がするのは俺だけか?


「安心するが良い。貴様には、俺という絶対に超えられぬ壁が存在する。好きなだけ俺を視て学べ。貴様が俺から盗む技術は、無限に存在するのだからな」

『……い』


 スキルを使わない魔力操作の限界を、俺はいま示してみせた。
 陳腐で平凡な人間ですら、時間をかければできる技術……精霊であればすぐにそれを習得するだろう。

 そしてそれは、成長に繋がるわけで──



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品