AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と育成イベント序盤戦 その02



 そうして向かったのは森の中。
 それまでの道中でたくさんのプレイヤーと魔物を見たが、序盤のエリアではプレイヤーが快勝する姿ばかり目撃した。


「まあ、最初の地点から強い魔物が出たら、初心者が使役する間もなく消されるか」


 そして、時に現れる最弱を最強にしたいというゲーマーの業を満たすためだろう。
 単独で動くソロプレイヤーの中には、そうしてすぐに使役して育成を行う魔物を選ぶ者も居るわけで……俺もまた、そういうことをしてみようと考えている。


「ただ、デミだけどゴブリンを育てた経験はもうあるんだよなー」


 MBC──メルスブートキャンプにより、彼らは劇的な進化を遂げた。
 鬼人キジンだけでなく、大鬼オーガ子鬼ゴブリンになった者など進化先は多様だったけどな。

 スライムは海の王様であるサンゴが居る。
 雑魚と呼ばれる二大魔物をとっくに従えているし、魔物では満足できないわけだ。


「しかしここであれば、魔物以外の存在もたくさん居る──無論、面白そうなヤツがな」


 耳を澄ませば、精霊たちが無邪気に話をしているのが入ってくる。
 瞳に精霊眼の力を発現させると、言葉を話せない下級精霊の動きを観察する。
 

「星脈の泉はどこですかーっと。神秘の力はどこですかーっと」


 前に赤ずきんと訪れた泉は、そうした特別な場所だった。
 星のエネルギー的なものが地表に漏れだして、辺りの環境を豊かなモノにするという便利な回復スポットだ。

 その力に意思が薄い下級精霊は引き寄せられ、なんらかの力の流れを視ることができる者であればすぐに気づく。


「そんな場所がこの森のどこかに……ん? この先か」


 遠くから精霊が訪れ、その地に宿るエネルギーを身に染み渡らせようとする。
 魔物のような存在は不思議とその場所を避けるため、天然の結界にもなっていた。
 ──そんな場所へ向かい、そこに集う魔物以外の存在を探しているわけだ。


「さぁ、我に従え精霊たち! 褒美はほんの少しの魔力だがな!」


 これまでは、ただ頼み込むだけだった。
 意識して話しかければ、だいたいの生物に話を通すことができる。
 そのため下級精霊はその言葉にただ従い、俺の要求を自分ができる限りの範囲内でかなえてくれたわけだ。

 しかし魔力をちゃんと渡せば、その精霊のスペック以上の力を発揮してくれる。
 ブーストされた能力は強く周りに作用し、使用者の願いを叶えてくれるのだ。

 それこそが、本来の精霊魔法。
 予め登録した術式に従って、精霊に指示を出して対価として魔力を支払う。
 使用者は事象を起こせてWin、精霊は魔力を貰えてWin──まさにWinWinな取引だ。


「って、凄い来た!?」


 眷属によって調整された俺の体は、精霊の好む魔力にでもなったのだろうか?

 精霊魔法による補正もあるんだろうが、泉の周りにいた精霊がいっせいの俺の元へ。
 なんだかその数もあって、スイ三ーみたいな感じで巨大な何かが襲ってくるように思えてしまう。


「まっ、まあ……多いにこしたことはない。次の段階に進もうか」


 精霊との契約を──する気はまだない。
 GM02も言っていたが、ソロで育成できる存在は一つのみ。
 そのため複数の精霊と契約ができるか微妙なので、別の方法を取ることにした。


「さまざまな品を揃えてみた! 精霊たち、仮初の宿を選ぶがいい!!」


 かつて造り上げたオリジナル精霊魔法──“精霊遊具エレメンタルグッズ”。
 俺自身との契約に縛りがかけられようと、精霊たちが自分で選んだアイテムとの契約までは運営のルールも及ばない。


「精霊神と聖霊神の加護もあるし、魅了する効果でもあるのか? そういうのは些細なせいか表示されないから、あんまり分かんないよなー」


 意思を持たないからこそ、複数の精霊が同じ場所に入ることができる。
 全にして一、一にして全なのが下級精霊。
 個というものを持たないからこそ、できることもあるわけだ。


「……って、ほとんど入っちゃったな。どんだけ惹きつけるんだよ、加護って」


 下級精霊だから、というのが理由だろう。
 しかしだからといって、一時的に泉の下級精霊が枯渇する程に集まるだろうか。
 百歩譲って祝福が(○○神の寵愛)であればまだしも、加護でここまでなのだから……そうなれば上級精霊でも来てくれるのか?


「残っているのは中級精霊だけか。まあ、上級精霊は自分のテリトリーを持っているから当然か……って、あれ?」


 明確な意思と強さを持つ上級精霊ともなれば、わざわざパワースポットに来なくても自分の領域を形成することができる。

 そのためこの場に残っているのは、僅かとはいえ意思を持つことで、俺のウザったらしい台詞に嫌悪を感じた中級精霊のみ……そう思っていたんだがな。


「コイツは──下級精霊、しかも無属性のヤツか。でも、いったいどうして……」


 ちゃんと無属性用のアイテムも用意していたし、現に無属性の下級精霊が入っているアイテムもある。

 だがたった一体のみ、ソイツは誘引されることなく俺から少し距離を取っていた。
 中級精霊同様に、俺を嫌悪する意思を持っているのだろうか?


「だがまあ、それでこそだな」


 そして俺は決断する。
 精霊に向けて、ゆっくりと手を伸ばし──



コメント

  • ノベルバユーザー110060

    最高です

    1
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