自称偽善者は電脳異世界に揺蕩う(旧:AFO ~(自称)偽善者のVRMMO(?)記~)

山田 武

偽善者と四回戦最終試合 その07



 神話に語られる怪物たちが、地上を舞台に大喧嘩を始めていた。

 フェニのレーヴァティンと異なり、メルスの使用した聖武具『慈愛のラッパ』は模造品では無い本物の力。
 厳格にラグナロクを再現しようと、世界を終わらせる支度を始めている。

「万物を斬り裂け──“絶対切断”!」

「容赦がない技じゃ。刀身すべてに、その力が宿っておるのか……ならば」

 ソウが振るう棒は、的確に包丁の柄の部分だけに命中する。
 包丁を握るメルスにもダメージは及ぶが、それは持ち前の再成ふくげん能力を発揮してすぐに戻していた。

「器用だな、お前も」

「今の儂は、主様と違って菜箸で大豆を掴めるほどに繊細なんじゃよ」

「……俺だってできるし」

 軽口を叩く間も、真剣な殺り取りは続く。
 嫉妬の炎を体現するような黒い力が襲おうと、ソウは冷静に包丁の刀身に触れないように攻撃を捌いていた。

「俺だってな、(精密動作)があるんだから器用に食えるんだぞ!」

「たしかにスキルを使っている時は、それはもう器用に食べておるが……そうでないときはからっきしではないか」

「ッ! ──“絶対切断”!」

 勢いのままに再度発動した力。
 ヒラリと躱したソウが居た場所を、空間ごと斬り裂いていく。

「おおっと、ついうっかり使ってしまった。なあソウ、何か言ったか?」

「儂としてはもう一度言っても構わんが、可哀想になった故に止めておこう」

「……器用云々の話をしたのは俺が先だ。そのまま話題を逸らすなら、見逃そう」

 予め使われていた魔導“果てなき虚構の理想郷”によって、斬り裂かれた空間の歪みからナニカが生まれるということもなく、ゆっくりと空間が戻っていく。

 だが、そこに纏わりつく黒炎。
 たしかに空間へ傷ができたと示すように、炎がその場で燻っていた。

「主様、いつまで引き延ばすのじゃ? 神気も籠められていない戦いを続けても、儂が終わることはありえぬぞ」

「だから、眷属の力を借りるって言ったんだろ? そりゃ俺だって、神気があればソウが相手でももう少し有利に闘えるさ。それは理想じゃなくて、ただの事実。けど……なんでもできるようにしたいだろ?」

「正直、挑発されているのか馬鹿にされているのか分からぬ……が、主様の表情が明るいので、肯定的に受け入れておこう」

「ははっ! そんな小さなことで怒るなよ。とにかく、この闘いはすぐに終わらない。違う道を一から歩むってのは、開拓から始めなきゃならないんだしさ」

 ソウを倒す方法として、己の持つすべての力を費やす──覇道を選んだ。
 今回は別の方法を、眷属たちの力を借りてソウに勝とうとしている。

 まだ誰も可能としていない、誰かと手を取り合っての『最強殺しジャイアントキリング』。
 その道を拓くために、どれだけの時間を費やそうと成し遂げようという意志がメルスにはあった。


「永久の眠りは悠久の忘却。救いを拒みし茨の姫よ、汝の希望はここにあり。汝が望みし夢幻の果てを、今ここに現界しよう。鋭き棘にて拒絶せよ──“茨眠礼装ソウルドルンレースヒェン”」


 礼装の色は黒から緑へ。
 生えていた多様な生物の特徴は、茨で編まれたモノに変化していく。
 そして咲き誇る鮮やかな薔薇たち、その一つ一つから魔力が放出される。

「ソウー、なんか少しずつ礼装に装飾が増えてくるんだけどー」

「主様の装備は奇怪じゃからのう。転移者や転生者の能力と同等の奇妙さじゃ」

「……“時空加速アクセル”」

 メルスが魔法を発動した瞬間、咲いていた薔薇の色がすべて時空属性を象徴する色へ変色する。
 そして、放出していた魔力のすべてが魔法へ変換され、メルスが進む時間の速度を目まぐるしいものへ変えた。

「ソウ、返事できるか?」

「……可能ではあるが、少々聞き取りづらくなったぞ」

「ああ、俺からもソウの声がだいぶスローなものに聞こえるな」

 互いに思考速度や聴覚の強化などを自在にできるので、片方が異常な速度で空間を駆け巡っていても会話が成立する。
 当初はその速度に馴染めず不安定な動きが多かったメルスだが、すぐに適応すると超高速での戦闘を仕掛けていく。

「どうやらこの薔薇、魔法を自動で使ってくれるみたいだ。しかも、一つ一つ別々の魔法として」

「ふむ、なんと便利な能力なんじゃか。儂には必要ないがのう」

「魔導や合成魔法は無理みたいだから、あんまり融通は効かないみたいだけど」

 一瞬の内に思考詠唱を用いたのか、薔薇はすでに一つを残してさまざまな色で輝く。
 何が発動するのか、それを知ることはソウにはできない。
 ──開けてからのお楽しみ……嬉しくないビックリ箱であった。

「はてさて、この綺麗な薔薇にはどんな魔法が籠められているのかな? 早く当てないと痛い目を見ちゃうぞ」

「……まだ魔法だけで儂を殺る気かのう? 先の魔導剣が一番の危機じゃったぞ」

「何事も試して合点だ。ソウ、お前だって俺がお前を殺すことを想像してなかったんだ。可能性は無限大だ」

 その言葉に呼応し、強く光る一輪の薔薇。
 発言とは裏腹に、ソウはその現象を強く警戒するのだった。


「自称偽善者は電脳異世界に揺蕩う(旧:AFO ~(自称)偽善者のVRMMO(?)記~)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く