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山田 武

偽善者と四回戦最終試合 その06


「もう少し、魔獣になろうか」

 礼装から生みだされる多様な生物の特徴。
 歪だが、混ざり合った力はメルスという媒介を得ることで一つに纏まった。
 礼装同様に真っ黒に統一されたそれらは、翼や尾や副腕など……人間には存在しないはずの部位である。

「まさに人外だよな……ステータス的にも、見た目的にも」

「今さらじゃろう。終焉の島に居た、一癖も二癖もある者たちすべてを従えておる主様。誰が見ようと、主様は人外じゃよ」

「……まあ、別にいいけどさ。お前たちの望む未来のためなら、俺はどこまでも進もう」

 その姿も相まって、ダークヒーローのような雰囲気を醸し出すメルス。
 ソウはそんな彼を見て、少し満足そうな笑みを浮かべる。

「主様は変わられた。まだ真なる目的は教えてくれぬが、少しずつさまざまなモノを受け入れようとしている。儂や他の眷属もまた、そんな主様に応えたい……後ろで見るでもなく、前で守るでもなく、隣で共にな」

「誰かが言っていそうな台詞だな」

「やはり似合わぬか。主様のように、儂も上手い言葉が見つけられないようじゃ」

 背後に千本の刃、両手に銃を一丁ずつ握り締めるメルス。
 それに対しソウは、ただ一本の棒を構えているだけ。

 人の理から外れた主と生命の理から外れた銀色の龍は、再度ぶつかり合う。

「くらえ──“劉殺刃舞ダンス・オブ・ドラガオンスレイヤー”」

「軽いのう」

 劉殺しの力を与えられた魔法の刃は、異常な濃度を誇る銀色の龍気に砕かれていく。
 千本の刃など意にも介せず、ソウは洗練された動きで棒を振るう。

「さぁ、第二ラウンドだ──聖魔銃よ、振り分け喰らえ!」

 二丁の拳銃から弾丸が放たれる。
 籠められる量に限界が存在しない白と黒の銃から、凄まじい速度で魔力が飛ばされた。

「それは厄介じゃ。主様があの闘いで使わなかった、眷属たちの武具か」

「そうだな。ギーとドゥル以外は使わなかったんだっけか?」

「力を解放したのは、水晶と腕輪だけじゃったと把握しておるよ」

 神器やそれに準ずる武具に固執し、ゴリ押しでの勝利をかけた殺し合いだった。
 今回はそれとは異なる闘いを求め、眷属たちの力をできるだけ使おうとしている。

「こういった場合は──拡散龍迅砲」

「器用だな、おいっ!」

 ソウもまた、土壇場での発想を生みだす。
 棒から魔力と龍気を合わせた弾丸を放ち、メルスが撃ちだした無数の銃弾を捌く。

「ならこっちだ──“最後の審判”!」

 腰に提げていたラッパを手に取ると、高々にその音を吹き鳴らす。
 天上まで響くその音は、始まりと終わりを告げるものとなる。

「フェニが見せたラグナロク、俺も再現してみようじゃないか」

 荒れ狂う吹雪、叫ぶ狼、刺し連なる剣……雪から始まったその災厄は、やがて紅蓮の劫火を舞台に齎す。

「むぅ、先ほどのモノと違って捌く手段がないのか。じゃが、空に向かえばいいだけのことじゃ」

「まあ、そうなるよな。せっかく下に降りたわけだが、また上に行くか」

 共に空へ舞い上がると、再び戦闘を行う。
 メルスが握り締めるのは一本の包丁。
 黒く燃える炎を秘めたその包丁は、ソウの目の前で鯨を捌けるほどの大きさとなる。

「鮪包丁ならぬ、鯨包丁だな。普通ならこの大きさ、扱えないか」

 繊細な魔力操作によって筋繊維まで、身体強化を施すメルス。
 それにより、通常サイズの包丁と扱うのと同等の速度で巨大な包丁を振り回せるようになった。

 試しにと言わんばかりに振り回された包丁は、音速の勢いで空気を薙ぐ。
 そして払われた風からは、禍々しさを感じさせるナニカが籠められていた

「俺の【嫉妬】は深いぞ。足りないものすべてを妬んでいるんだからな」

「ふむ。棒一本に頼り続けるというのも、少し危険になってきたか。具纏があるとはいえども、相手は主様じゃ。どれだけ策を重ねても安全ではない」

「それ、本人の前で言うか?」

「じゃからこうする──“龍人化”」

 人の姿であることを止め、龍の力をより高め始めるソウ。 
 人に化けた龍は人型の龍となり、己の力を解放する。

「こうじゃったか? ──龍鎧」

 鱗が蠢き、鎧を形成する。
 銀色の光が全身を包み込み、神々しい光が辺りに映えた。
 それは黎明に輝く陽光のようでもあり、薄明の日を反射するようでもある。

 ──『白銀夜龍』、その名に相応しい存在感が今のソウからは感じられた。

「……綺麗だ」

「主様、急にそのように言われると……少し照れくさいぞ」

「綺麗だな、ソウ。本当に……美人さんだ」

 鎧を纏い、敵対するソウに語るメルス。
 鱗から放たれた粒子が光と相まい、ソウの美貌をより美しいものへ映えさせる。

 魔力が多い生命体は、その未知の力によって望むべき力を扱うことができる。
 世界最強の存在にして超常級の魔力を有する者が、一人の少年のために美しくあろうと願えば……その結果がメルスの目の前で存在していた。

「主様…………それならなぜ、いつもそのように言ってくれないのだ」

「普段は抑制されてるし、会話をするときは顔を見てないことが多いからな。忘れてると思うが、俺は孤独を愛した男だし」

「ボッチ、じゃったか?」

「ボボ、ボッチじゃねぇよ! 俺に合う友人が居なかっただけだ!」

 友人までいなかったのか、と観客のメルスに対する同情の想いが高まっていた。
 ……とある祈念者はこの際、同士を見るような目で彼を見ていたとかいないとか。

「ほ、ほら行くぞ! せっかく用意した俺の包丁もお前の鎧も、このまま有耶無耶にしたらなんか虚しいだろ!」

「まあ、そういうことにしておこうかのう」

 二人はそう言って、翼を動かす──荒れ狂う世界の終わりが、今なお地上を覆う中。


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