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山田 武

偽善者と四回戦最終試合 その05



「堕ちし聖なる獣。その身をいかに貶められようと、誇り高き意志は決して変わらぬ。我求めるは魔の力。万物を喰らい糧とするその力を以って、立ち塞がる万物を攻め滅ぼせ──“魔獣魂魄ソウルキマイラ”」

 再び黒い力が礼装を包む。
 至る所に魔物をあしらったデザインが施され、背中の翼も蝙蝠の翼に変わる。

「クエラムの力、か……いかにしてその力を再現するのかのう」

「まあ、俺とクエラムが取り込んだ因子は共有されてるからな」

 礼装の形が歪むと、臀部の辺りから尻尾が伸びる。
 先端に鋭い針のような物があり、そこから毒々しい液体が漏れでていた。

「蠍の尻尾。その毒を俺なりに改良した因子なんだが……どうだ、似合ってるか?」

「主様はいつもカッコイイぞ」

「…………ごふっ」

 褒め言葉に慣れないメルスは、その言葉だけでボディブローを受けたように苦しげな表情を浮かべる。
 だが内心を表すように、その際後ろに生えた蠍の尾がゆっくりと揺れ動く。

「儂らもただ理由もなく主様と共に居るのでないことぐらい、知っておるではないか。他はどうであれ、儂は主様の在り方がどうなるかを見届けていたいのう」

「そ、そうか……照れるな」

「その狂気に等しい意志が、いったいこの世界にどのような影響を及ぼすか……儂はそこに興味があるぞ」

「……それ、褒めてるのか?」

 尾の揺れは止まり、何かを抑えているかのように微振動を始める。
 それを知ってか知らずか、ソウは自身の発言について説明を始めた。

「大神とやらの侵蝕を受け、それでもなお変わらずに貫くナニカ。そしてそれに救われ、主様に導かれし強者たち。主様がその気になれば、世界征服とやらも容易い。無論、儂もやれと言われれば動くしのう」

「しないわっ!」

「それは主様次第。じゃが、眷属は主様のすべてを受け入れようとするじゃろう」

「そう、かもしれないな──けどっ!」

 宙を蹴り、翼を強く羽ばたかせてソウの元へ向かう。
 途中で斧を投擲し、魔法で生みだした剣を放出しながら。

 ソウもまた、巧みな棒捌きでそのすべてを受け流してメルスが向かってくるのを待つ。
 魔力を籠めたその棒は、聖剣に負けず劣らずの硬度を誇っていた。

「これで、どうだ!」

「なんじゃと!?」

 この際メルスが握っていたのは、虹色と透明な剣身で構成された二振りの剣。
 襲いかかるであろう連撃を、そのまま捌こうとしていた。

 だが実際には──そこに割り込むような形で放たれた蠍の尾が棒に触れ、腐食させるような形で棒を破壊したのだ。
 防ぐ物が無くなっても、メルスの持つ双剣による連撃が迫ってくる。

「このぉ!」

 気迫と共に魔力を膨れ上がらせ、具纏を用いることでそれらを拒絶する。

「……甘い」

 二振りの内片方──虹色の輝きを放つ斬撃は、たしかに魔力の拒絶を受けて弾かれる。
 だがもう片方──透明な剣が薄ら輝くと、まるでバターに刺し込まれた熱したバターのように、スッと魔力の塊を通過していく。

「っ……!?」

「『神透剣』──防御無視を可能にする神器だ。そしてこっちが『虹霊剣』」

 内側から具纏の力を解除されたことで、再び隙を生んでしまったソウ。
 メルスはそこに弾かれた虹色の剣を向け、勢いよく振るう。

「効果は属性効果の増幅、つまり魔法剣に最適な武器だな。魔導解放──“乞い焦がす太陽神の鉄槌”」

「……それでは、魔導剣ではないか」

 剣そのものが太陽であるかのように、燦然とした輝きを放出し始める。
 かつてメルスのコピーが発動した際より、その陽光の煌きは激しい。

 神器によって高められた魔導が、ソウを焼き尽くす斬撃と化す。

「儂とて魔導を使う者と闘ったことがある。一度発動すれば、たしかに発動する事象は厄介じゃ。それでもやりようはある」

 先ほどと違い、今のソウは全身を万全な状態で動かすことができる。
 体中に魔力と龍気を循環させると、一瞬で集束させたエネルギーを解き放つ。

「──“水虎爪スイコソウ”!」

 高々に叫び発動させた武技。
 水属性の力にソウ自身の暴力的な破壊力が重なり、陽光のように輝く剣にぶつかる。

「やっぱり、そう簡単にはいかないか。面白い、面白いよお前との闘いは!」

「主様にそう言ってもらえるとは、光栄じゃのう。あの頃から、儂も成長したのか」

 太陽を掻き消すほどの水量が熱エネルギーと相殺され、超高温の水蒸気爆発が二人の間で炸裂している。

 だがそれでも、両者共に平然と佇む。
 魔力など関係なく、純粋に耐性や防御力だけで熱エネルギーを防いでいた。

「ああ、そうだな。工夫も凝らすし、周りの力を使うことも考えている……本当に、お前は変わったよ」

「主様のちょうきょ……教育のお蔭じゃよ」

「それもそれでアウトだ。けど、俺だけじゃないだろ?」

 水蒸気を避けて地上に戻った二人。
 翼を畳むと再び武器を握り締め、構えを取り始める。

「眷属は眷属同士で繋がっていて、俺が関係ない所でも関わっている。家族みたいな繋がりを求めた俺は、そんな未来を望んでた」

「儂は守っただけじゃよ。主様は儂を殺し、こう言った──『共に居てくれ』と。主様の世界では、龍の盟約とやらがあるじゃろう。儂はそれをしただけじゃ」

 律儀な龍は、自分を孤独だと思い込む少年の願いを叶えようとした。
 これまですべてを拒絶した自分を、受け入れた少年へのせめてもの恩返し。

 ──だからこそ、少年を縛る最強の名を奪おうと、今一度闘いを挑むのだ。


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