AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と四回戦第一試合 その01



 最後の試合、そのチケットを得た者たちは全員が席に着いていた。
 これまで行われたイベントの集大成、行われるのは真の最強を決める闘い。

≪これまで三日間にかけて行われた武闘会個人の部も、これが最後の試合となりました。眼を閉じれば思い返せるでしょう。猛者たちが武器を交え、勝利を求めて激しく闘志を燃やした死闘を≫

 すると舞台の上にスクリーンが現れ、これまでの闘いの映像が投影される。
 この場で観た者もそうでない者も、つい視線が吸い込まれてしまう抜群のアングルでの映像だった。

 ……目を閉じていては思い返せないが、そこに関しては誰もツッコまない。

≪そして今、ついに最強が決まります≫

 映像の画面が二つに分かれ、赤と青の二色が画面を覆い尽くす。
 その中には二つのシルエットが描かれており、これから闘う二人の選手を示している。

≪──青コーナー。世界最強のドラゴンにして、『白銀夜龍』の名を冠する者。これまでの闘いをいっさいの魔法を用いず、己の力だけで勝ち得てきた戦人……いえ、戦龍。最強の名を一度は捨てた彼女は今、挑戦者となってその名に挑む──ソウ選手です!≫

 青い煙が舞台をモクモクと包み、同じく青い光がゲートから舞台の上までを繋ぐ。
 そこから現れる一人の女性。
 煙で姿は分からないものの、膨れ上がる闘気が会場中に伝わってくる。

≪決勝戦では、意気込みを予めお聞きしております──『全力を以って倒す』とお言葉を頂きました≫

 やがて煙が消えていき、その女性の姿が露わとなった。
 光に映える白銀の髪を伸ばし、悠然と立つ姿はさながら王者にも見える。
 武闘会では初の装備として、髪と同じ色の軽鎧を身に纏い……戦準備は万全だ。

≪──対する赤コーナー。そんな世界最強のソウ選手を降し、神々の思惑を超えて帰ってきた我らが王。たとえその身に呪いを受けようとも、彼はその運命すらも捻じ伏せる。喝采の万雷と共に迎えよう、その偉大なる王の名は……≫

≪ちょ、ちょっと止めて! 何、その変なアナウンス! 頼んでないよ、これ、これが本当のカンペでしょうが!≫

≪め、メルス様! 出場者はちゃんとゲートの前に待機していてくださりませんと!≫

 何やら男女が揉めるような声が、実況席から聞こえる。
 ああ、やっぱりあの人だな、と笑いながらそのやり取りを観客たちは聴いて楽しむ。

≪分かりました、分かりましたから! ──お願いします≫

≪えっ、ちょ、おい待てって。そ、そんなところ触らなくても分かったから! や、止めて、お願……あーっ!≫

 ……本当に何があったのか、少しばかり気になる観客たち。
 しかしそのタイミングで、再び舞台に立ち込める煙。
 先ほどとは異なり真っ赤な煙が晴れると、そこにはもう一人の人物が──倒れていた。


≪さあ、その名を聞け! 彼の者の名はメルス! この世界に住まう我らが神にして、救い主! 誰も知らない理を携え、ついにこの場に降臨なさった!!≫


「ぬ、主様……大丈夫かのう?」

「あ、アイツらめ……覚えてろよ。この試合がどういう結果であれ、エキシビションマッチでも開いて復讐してやるからな」

 ボロボロな布の服に身をやつした、白と黒の髪を混じらせた平凡な容姿の少年。
 服に付いた汚れを叩いて払いながら、ゆっくりと起き上がる。

「ついに、ここまで来たか。ソウ、俺は再びお前を倒すぞ」

「ふっ、儂も二の舞は演じぬ。何やら企んでいる顔じゃが、人の術を学んだ儂をどうこうできるのかのう?」

「……棒術を教えたの、不味かったか? お前のデータも入れてはいるが、武術は奥が深いからな」

 眷属の経験すべてが、メルスの糧となる。
 だが経験以上の性質や才能までは、コピーすることができない。

 ソウがメルスから学んだ棒術を派生させて修めた力も、{夢現武具術}に入ってはいる。
 しかし、それを本人以上に使いこなせるかと訊かれれば──答えは否だ。

「なあ、ソウ。今回の闘いで俺は自分の可能性じゃなくて、みんなの可能性を信じてみたくなった……その意味が分かるか?」

「前回のような闘い方はせぬ、それだけはよく分かるぞ」

「なーに、簡単な話だ」

 指を鳴らした途端、メルスの纏う装備に大きな変化が起きる。
 煌びやかな礼装や金の刺繍が施されたマント、虹色の糸で編まれた手袋などがいつの間にか身を纏う。

 指や腕、首には価値を付けることのできないような貴重な装飾品、顔には目の部分にのみ穴を開けられた仮面が嵌められていた。

「──全力を以って、勝負を挑もう。あのときは借りるだけだった力を、今回は協力して使おう。後ろに立たせるだけでなく、共に闘うことの強さ……分かってるよな?」

「……此度の主様は、前回以上に厄介になりそうじゃのう」

「そりゃもちろん、俺が俺であるために」

 ティルとの闘いで見せたように、体の至る所に武具を取り付けるメルス。
 その一つが聖武具や魔武具、神器などの凄まじいエネルギーを秘めている代物たちだ。

「ソウ、お前も全力でやれ。俺はナックルみたいに一撃でパンッは無い。あの映像以上の光景を、観客に魅せてやろうぜ」

「うむ。主様であれば、今の儂の全力でも受け止めてくれるであろう。これまでに溜めた魔力の分も、ぶつけてみせよう」

「……そ、それは勘弁してほしいな」

 そして、闘いの幕が開く。
 最終曲は偽善者と白夜の銀龍が奏でよう。
 ──神を殺す力を持つ二人による、もっとも熱き武闘曲を。


≪それでは運命の決勝戦……特殊ルールはエネルギー回復量増大──始めてください!≫


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