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山田 武

偽善者と二回戦第二試合 その04



「“陽光の祝福サンライズブレス”!」

 再び天に手をかざすフィレル。
 月光の輝きが彼女を祝福する中、もう一種類の光が彼女に降り注ぐ。

 ──陽光。
 太陽のエネルギーが吸血鬼であるはずの彼女に溶け込むと、フィレルの身体能力はさらに強化される。

「陽光龍か……朕は見たことがない」

「お母様以外に、わたしも見たことがありませんので気になさらず!」

 フィレルは始祖吸血鬼と陽光龍の間に生まれた、どちらの種においても異端の娘。
 吸血鬼でありながら陽光を浴びることで強くなり、陽光の龍でありながら月光を浴びることでも強くなれる。

 そして自然界ではありえない、その双方を同時に浴びれば……彼女はより強くなる。

「はぁぁぁぁっ!」

 握り締めた棒の先に、巨大な槍の穂先を生みだす。
 螺旋を描くようなデザインをした槍は、ドリルにも似た形状となっていた。

 強化された筋力で、それを捻る。
 すると猛烈な勢いで槍は回転し、シュリュの体を貫こうと迫っていく。

「ならば──こうだっ!」

 シュリュもまた、強化された肉体を以って十字架を突きだす。

 しかし使うのは腕や手先だけでなく、己が肉体のすべて。
 ヴァーイが見せたような動きを取り入れ、地面を力強く踏みつけてエネルギーを取り込み──全身を使ってその力を十字架の方へ送り込む。



≪ドリルランスと十字架のぶつかり合い! これはロマンだ! ロマンですよ!≫

 ホウライのテンションは、今武闘会中最大に盛り上がっていた。
 ここでもし破城兵器でも出ていれば、彼女は奇声を上げていただろう。
 ……ロマンとやらに、目がないのだ。

≪貫通力に特化した形状の槍と、面で押す十字架では後者が不利です≫

≪ですのでシュリュ様は、踏みつけた力を上手く十字架へ送り込んでエネルギーを増幅させたわけです≫

 付く突くヤリ
 互いに通じるものがあるそれらは、地球においても同じ武術の中で取り入れられることがあった。

 それらは貫きと圧壊という事象を引き起こすため、激しいエネルギーの衝突を行う。
 螺旋と浸透のエネルギーはそうしてぶつかり合い──火花を散らす。



 そして響く破壊音。
 これまでの使用で耐久度が減っていたのだろう……十字架にドリルが侵入していく。

「見事である」

 即座に横の部分を持つと、魔力を放つ。
 フィレルもまた、槍を手放して横に飛ぶことでそれを回避する。

 槍が突き刺さり行き場を失った魔力の奔流は、内部全体にエネルギーを溜めこみ……炸裂した。
 互いにそれが届かない上空まで飛翔し、背に生えた翼をはためかせながら会話を行う。

「忌まわしきあの武器も失われた……ならば朕を妨げるものは、もう何もない!」

「くっ、まだ血を採れていないのに……」

「あれが最後の機会であっただろうに。惜しいことをした。だが、太陽と月が其方を祝福しようと、朕の覇導を妨げることはできぬ。大人しく舞台から降りてもらおうか」

「……まだ、諦めませんよ」

 再び手首に噛みつき、血飛沫を武器へ変えるフィレル。
 その様子を見て、シュリュもまた鱗を剥がし武器と化す。

「旦那様のように……とはいきませんが、見苦しく足掻いてでも、試合にだけは勝たせてもらいます」

「勝負の体裁を取る必要は無しか。ならば朕も、少しばかり楽しませよう」

 再び十字架としていた鱗であるが、それを止めて……もう一枚の鱗を剥がす。
 そして形を変えた時、そこにあるのは巨大な斧と槌が鎖で繋がれた武器。

「大振りの方が盛り上がるであろう。だが、朕が扱えばこのような武器であっても繊細の操作も可能となる……行くぞ」

「こちらも……二つ分は使いますよ」

 先ほど噛んだ手首とは逆を噛み、再度飛ばした血飛沫で武器を生みだすフィレル。

 整ったのは巨大な二つの盾。
 それらをガンガンとぶつけて鳴らし、自身の意欲を高める。

「「──勝負ッ!」」

 翼を動かし、相手の元へ向かう。
 斧が振られれば片方の盾で防ぎ、反動で振るわれた槌が来ればもう一方の盾で守る。
 そして空いた隙に盾を押しつけて攻撃を行う……が、上へ飛ばれてそれは回避される。

 カウンターを狙うフィレルであるが、隙と呼べる隙をシュリュは見せない。
 宣言通り巧みな武器の扱いで彼女を翻弄させ、ここぞというタイミングで豪快な一撃を放っていく。

「……終わりだ」

「まだ……っ──!?」

 砕け散る右手に握った大盾。
 振るわれるもう片方の武器を反対の大盾で防ぐが、それもまた破壊される。

 だが、フィレルは諦めない。
 砕けた大盾を即座に血へ戻すと、一つの巨大な盾とする。

「甲羅に籠もった亀に、いったい何ができると思う」

「さあ、手を出してきた相手に噛みつくことぐらいはできるのでは?」

「……そうか。では、全力で止めを刺そう」

 膨大な劉気が武器に籠められる。
 これまでで最大の一撃が放たれることを予測し、フィレルは嫌な汗が流れ始めたのを自覚した。

「これで終わりだ──フィレル!」

「いいえ、それはこちらの台詞です!」

 武器が盾に迫るその瞬間……再び流動化させ、血をシュリュの周りに展開する。

 謀られた、そう考えてしまった隙を突かれて──体に一本の武器を刺されてしまう。

「こ、これは……」

「旦那様の武器が壊れるはずがないでしょうに。“血流袋ブラッドポーチ”で仕舞ってから、ここぞのタイミングまで隠していました」

 そこに刺されていたのは『劉殺し』。
 異端の劉を殺すためだけに生みだされた、劉の力を取り込んだ武器。
 そしてそれは心の臓を貫き、シュリュの仮初の命を一瞬にして奪う。

「……朕の負けであるか」

「シガンさんとやらが見せてくれた逆転劇。わたしも少し熱くなってしまいました」

「そうであるな。チャルが負けるとは、誰も思っていなかった……プレイヤーという存在も、決して弱くはなかったわけだ」

 生命力が失われ、ゆっくりと粒子となって消えていくシュリュ。
 ただ満足そうに笑みを浮かべ、フィレルに向けて語る。

「朕と……ミシェルの分まで、メルスに勝利してくれ」

「やれるだけのことは、やってみます」

「……ここは、絶対に勝つとでも言ってもらいたかったのだがな」

「旦那様が相手ですから」

 そう答えたのと同時に、シュリュは完全に粒子となって舞台から消える。
 そして舞台の下に出現すると、最後にこう伝えた。

「そうであっても負けてはならぬ。朕という覇者に勝った其方には、その道を進む運命があるのだ」

「ふふっ、そうですね。頑張ってみます」


≪試合終了! 勝者──フィレル選手!≫


 アナウンスが終わりを告げる中、彼女たちは笑い合うのだった。


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