AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と凡人剣技
「試合に勝って勝負に負けるとはこのことよね。……ねぇメルス、本当に大丈夫なの?」
「…………大丈夫、と口で言ってもティルは誤魔化されてくれないもんなー。さすがに魔力の使いすぎみたいだ」
ティルに肩を貸してもらい、ゆっくりと通路を移動する。
主としての威厳など無いに等しいため、外聞がどうでもいい俺だからできることだ。
肉体は内部でズタボロになっており、一度行っていた魔力による強制駆動もできないほど自壊している。
まあ、他にも移動方法があったので、ここに来るまではそれを使っていたわけだ。
「攻撃魔法を使えば、魔導を使えばすぐに勝てたでしょうに。未来視の弱点なんて、メルスが一番知ってるでしょ?」
「未来が視えても避けられない、今回の場合なら舞台全体に作用する攻撃を……とでも言いたいのか? 魔法を斬る相手に、どうやって当てるんだよ」
「それでもやってのけるのが、私たちの主であるメルスよ」
そりゃあなんとも、重たい信頼で。
紛い物の神剣に極限まで魔力を籠めて、どうにか獣聖剣に傷を付けることができた。
いくらセーブされているとはいえ、それでも俺の魔力量は人外級のはずだ。
それを魔法に注ぎ込んでも斬り裂かれるだろうし、魔導はそもそも魔力不足で本来の性能を発揮できない……うん、できない!
「それで、大丈夫なの?」
「<物質再成>で戻せば、どうとでもなる。けど今回は超回復に回したいし、そのままにしているだけだ……<澄心体認>にティルとの闘いも経験したし、もう一段階ステップを踏んでおきたいのさ」
「心配させないでちょうだい……」
なおこのタイミングで、心配させるような重傷を負わせたのはお前だろ、などとツッコミを入れてはいけない。
凡人らしく、剣聖に挑んだ対価を支払った結果がこれであり、ティルは俺との闘いに真剣に応えてくれたのだから。
そもそも地球で、剣術を知る機会なんて画面の奥にしか無かった。
あとは傘を振り回して創作物のキャラの真似を……って、これは剣術とは関係ないな。
そんな俺が反則ギリギリとはいえ、剣聖に勝利した。
……ん、あれ?
「勝って、ないよな。罅入れただけじゃん」
「ええ、そうね」
「……たしかに、勝負には負けてるな」
折れる覚悟で闘おうとすれば、ティルが試合に勝っていただろう。
聖剣と神剣で耐久度を苛め抜くことで、どうにか剣ではなく心を折ることができた……ということだな。
「心は折れたわけでも、剣が折れることを恐れたわけでもないわ。あの神剣は壊れてもすぐに復元するし、何度でも作れたでしょ? それに、もう魔力が限界だったのよ。いろいろと使いすぎたのよね」
獣人族のほとんどが魔力をあまり持っていない……それはティルにも当て嵌まった。
獣聖剣は能力値への補正だけであり、レベルアップを重ねた今でも魔力はあまりない。
平時は[眷軍強化]で身力値も底上げされているので支障は無いが、こういった場では何度も魔力を行使できないのだ。
「──というか、また読めてるのか?」
「ここまで接近すれば、否応なしに発動するわよ。……まあ、メルスの心はずっと読んでいたいけど」
そうか? それならいいけど……。
俺の心は荒んでいるし、そこまで純粋な想いも流れてこないだろ。
ただただ適当に日々を生きてる、アホで間抜けな凡人の思考でしかないんだから。
「分かった途端、会話を思考だけで済ませようとするんじゃない。それに、そんなメルスの心だから面白いのよ」
面白いと言われても、プラスかマイナスかで若干悩みたくなるな。
いやまあ、ティルのことだしプラスの意味だとは思うけどさ……。
剣聖を超える、みたいなくそ恥ずかしい台詞をほざいたくせに止めて……挙句の果てに剣神になる、だぜ? どんだけ馬鹿なんだ!
「それは……正直思ったわ。け、けど──」
ああ、うん。マイナスにはならないから。
結局剣舞じゃなかったせいか、本物の剣神が呼応した反応は無い。
あとでアマルに連絡して、煌雪神の方にも何かあったか確認しないとな……。
「時々礼拝堂に行ってるけど、ミシャット様も応えてくれたことは無いわね」
ティルを鎖にしていた神様か……。
出会いだけを考えれば感謝したいけど、やらせたことを考えるとそれだけでいいのか正直悩むな。
「何をする気よ。私はミシャット様に感謝しているし、後悔もしていない。それに……クエラムも救えたわ」
うん、そうだな。
ティルの選択が、時間を先延ばしにしてくれた……だから俺は二人に逢えたんだ。
忠犬みたいで可愛いクエラムも、猫みたいにツンツンしているティルも愛らしくてな。
やっぱり、俺は──
「ゲブッ!」
「へ、変なこと考えないでちょうだい!」
肩から外され、そのまま地面に叩き付けられる。
衝撃が全部ビターンと体に響くため、正直めっちゃ痛い。
「……ひどいな。心に秘めた想いを、ありのままの気持ちを伝えただけなのに」
「つ、伝えてないじゃない! メルスは心で思ってただけよ!」
「ハハッ、こりゃ一本取られたな。なら、今度は口で伝えた方がいいか? ……ティルのことが愛らしいってな」
「……斬り刻むわよ」
林檎のように真っ赤な顔で怒るティルに、思わず顔がほっこりしてしまう。
……えっと、なんの話をしてたっけ?
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