AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と二回戦新ルール 前篇


 祝砲が大空で爆ぜ、始まりを告げた。
 会場の席はすべて埋まり、新たな闘いを祝福する声が上がる。

≪──さぁ、皆様お待たせしました! 第二回戦の始まりです! 実況は一回戦と変わらず私、『ホウライ』がお勤めします!≫

 観客の大半は入れ替わったものの、その篤い闘志だけは決して変わらない。
 彼らはアナウンスの声を耳にしながら、今や今やと体を震わせて始まりを待つ。

≪一回戦の試合を受け、いくつかの新ルールが導入されます。試合が始まる前に、それをおさらいしておきましょう≫

 だが先に、アンケートの結果を受けて決められたルールが発表される。
 会場で見ることはできずとも、その外で熱い試合に血を滾らせた観客たち。

 この場でそれを見た者たちが、どのようなルールを設けたかを気になっていた。

≪……ただ、私では説明があまり上手くできませんので、眷属のお方に説明をお願いすことにしました≫

≪どど、どうも! メルスさんの眷属、リュシルと申しましゅっ!≫

≪そして、ご紹介に与りました。開発者ディベロッパーであるリュシル様の従順な僕、マシューと申す者です。本来であれば物言わぬただのゴーレムですが、創造者クリエイターの無機物ですら愛する心によって肉体を得た人型ゴーレムでもあります≫

 緊張のせいかどもってしまい、舌を噛んでしまう最初の声、そして淡々と自身を紹介する次の声。

≪開発者、落ち着いてください≫

≪う、うん。ありがとう≫

≪まったく、開発者からは目を離すことができません……≫

≪マシュー……≫

 会場の拡声装置を伝って、彼女たちの会話がこの場にいるすべての者の耳に入る。
 そんなことを知ってか知らずか、二人だけの世界がその瞬間はたしかに存在した。



 いつまでも始まらないルール説明を急かす声が、どこからか生まれる。
 それをいち早く察知したホウライは、彼女たちの甘い空間を止めようとする。

≪あ、あの……お二人共、そろそろ説明を始めてほしいかな、なーんて≫

≪は、ひゃいっ! ほ、ほらマシュー、お仕事をしませんと!≫

≪開発者がそう言うのであれば……しかし、正気に戻るまでだいぶ時間がかかってしまいましたね。会場の皆様、私たちのコントにつきあっていただき、感謝を申し上げます≫

≪こ、コント? ま、マシュー、アナタまさか分かってて──≫

≪やはり、開発者からは目が離せません……とても面白いですから≫

 どうやらマシューはすべて計算付くで演じていたようで、それから少しの間リュシルがマシューに怒る声が続く。
 ……だがその声と内容は可愛らしいものばかりで、観客たちの中にそれを不満げに思う者はそう多くなかった。



≪──こ、コホンッ! そ、それでは本題に移ります!≫

≪新ルールですが……大きく分けて三つとなります≫

 とうとう説明が行われる。
 これまでのやりとりから緊張が抜けた観客たちは、発言をゆっくりと待つ。

≪一つ目は、即死技の使用禁止です……例を挙げれば第五試合のアレですね≫

≪過剰な攻撃で破裂していましたから。どうように、即死の神眼を持つメルスさんへの警戒もあります。全力であれば眷属でも抗えませんので、予め封印となりました≫

 第五試合──ソウ対ナックルで行われた、圧倒的力によって引き起こされる悲劇。
 ほんの少し触れたソウの拳が、説明不可能なほどにグチャグチャにナックルを破壊してしまった一幕。

 観客たちとしては、盛り上がる白熱した戦いを観ていたかった……決して、肉体が風船のように弾ける瞬間を観たいわけではない。

≪ソウさん、気をつけてくださいね。相手が誰であれ、ソウさんの攻撃を受ければひどいことになるんですから≫

≪創造者であれば耐えられますが……他の方は、漏れなく絶えてしまいますので≫

≪メルスさんも、今は微妙ですけどね。それはともかく、二つ目に行きましょう≫

≪はい。二つ目は、召喚獣やゴーレムなどの制限です。これは第七試合の影響です≫

 第七試合──ネロとクエラムの試合では、終盤までアンデッドがクエラムと闘うという展開が続いていた。
 それは膨大な量の魔力があってこそできることだが、ある種数の暴力で押し潰せば勝てる試合も面白くない。

≪あくまで囮としてならともかく、召喚獣などが主体となって相手を倒すのでは微妙ですからね。質・数の両方を制限しますよ≫

≪一定量の魔力を超えたら、その選手は召喚や創造が使えなくなります。武具などは問題ないので、自由に切り替えてさまざまな戦闘スタイルをお楽しみください≫

 装備の召喚を制限してしまうと、メルス産の武具などがすぐに止められてしまう。

 制限するのはあくまで、直接戦闘に関わる存在を呼ぶことにのみ。
 第八試合──ヴァーイ対フェニの試合で最後に見せた次元を裂いた召喚などは、何度でも使用可能なのだ。

≪はい。残ったのはあと一つなんですけど、これはルールというか縛りですね≫

≪創造者の意志が混ざった特殊なものです。何か裏がありますね≫

 少しだけ間を開け、リュシルはその三つ目のルールを伝える。


≪えっと、三つ目は──ルーレットです≫


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