AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と一回戦閉会式 後篇



 クエラムとネロを置いて、少々食事を行っていく。
 空腹になることなどありえない今の肉体ではあるが、やはり心はいつでもただのモブ。
 自分で用意した食べ物なので、そうした趣味で用意した食べ物ばかりを皿に集めてゆっくりと口に含んでいく。


「あ、メル君!」

「姫様、それにヴァーイも来たか」

「いや、姫様が行きてぇって言うから……」


 ……騎士様ハ大変ソウデスネ。

 赤ずきんもまた、試合観戦には招待していたのでお婆さんといっしょにどこかで見ていたのだろう。
 そしてその護衛役の狼男ことヴァーイ……チッ、見せつけやがって。


「もう、メル君。ワタシのことは名前で呼んでって言ったのに……」

「俺……いえ、ボクの姿が変わろうと、姫様は姫様ですので。それに変わりなんてございませんよ」

「……もう」


 少年の姿に変身して、騎士っぽい片膝を突くポーズを取る。
 そんな俺に呆れた声を出す赤ずきん……まあ、ヴァーイも姫様って呼んでるんだから同じだろ?


「ところで姫様、ヴァーイは負けましたね。ボクたち二人で苦戦した狼男でも、やっぱり眷属の方が強かったという証明です」

「うるせぇよ。だいたい、お前の眷属とやらが異常なんだ。出てくる奴ら、どいつもこいつも化け物ばっかり……ここは魔窟かよ」

「こら、ヴァーイ! そんなひどいこと言わないの! ……メル君だけは仕方ないけど、他のみんなに失礼でしょ!」


 できるなら、俺にも失礼な台詞であった欲しかったのだけれど……無理そうですね。

 だが今、仲睦まじげにやり取りを行う二人の姿が、俺にとってはなんとも微笑ましいものに感じられた。
 するとつい笑みが零れ、自然とにこやかな気持ちになれる。


「──そ、それにね、メル君だって……どうしたの、メル君?」

「いえ、ただ……良かったなって。二人がこうして楽しそうに話せている姿を、見れていることが」

「おい、眼でも腐ってんじゃねぇのか? これのどこが楽しげなんよ」

「生死のやり取りなんてない、ただの友人のように思える会話……そんな平和な絡みがそう感じた理由ですよ」


 当然、時には負の感情を交えるだろう。
 だがそれは殺意に変わることはないし、そもそもそんなに高濃度の悪意と化すことはありえない。

 ……もともと喰うか喰われるか、なんて関係だったはずが主従関係まで結んでいる。
 起承転結なんてどうでもいい、とにかくそうなってくれて良かった。


 姿を通常状態に戻してから、それに応じて話題も切り替える。


「──さて、話を戻すとしよう。ヴァーイ、自爆技はいかんだろう」

「……姫様にも言われたよ」

「姫様を守るための闘いでならともかく、文字通り命懸けの技をあそこで使うか? 誰を喰って得た魔法かは知らんが、後のことを考えて使わないと駄目だぞ」


 別に使っちゃ駄目とは言っていない。
 俺だって眷属が危機的な状況で、自爆すれば救われるというならありがたく使用させていただこう。

 ヴァーイと違っていくつかの再生方法は用意してあるし、ある種生命として吹っ切れているので死への恐怖など自由に消せる。

 死は終わりじゃない、始まりでもない。
 減ることが終わりで、得ることが始まりなのだ。

 特に意味の無い駄文ではあるが、決して減らないように……得られるように、俺は今も自身の感情に狂いながら生きている。



 そして、閉会式も幕を閉じる時間だ……まだ、あと三回はやる予定だけど。


「──俺は聞いてないけど、まあ明日の大会について篤い意見が交わされたと思う。それらは絶対に武闘会を盛り上げてくれるし、観客たちを楽しませてくれるだろう」


 解析班が意見を纏め、資料はこの閉会式後に俺の目に入る。
 そして面白い制限を見つければ取り入れ、新たに新ルールとして以降の試合に反映されることになるだろう。

 それ以外のルールもあるし、そこには俺の意見は通らない。
 真面目に考えられた決まりと、楽しさだけが追及された縛り……この二つが常識と興奮へ作用し、試合をわくわくさせてくれる。


「そうした意見は個人の部だけじゃなく、団体の部にも影響する。あっち限定のルールもいくつかあるが、矛盾を起こさない限りはそのまま取り入れる予定だ。この場に居る談大の部の参加者は、そういったことも考えて話し合いをしてくれただろう」


 個人の部のルールをそっくりそのまま使うというのもあれなので、もちろん若干手は加える予定だ。
 それでも面白い試合になるよう、スタッフたちが検討中である。


「昨日より今日、今日より明日、明日よりもまたその先を好くしよう。より好くしていこうと思う意思が、変わろうとする意志が、そうしてくれる。……だから、明日も頑張っていこう!」


 正直最後、何も浮かばなくなったので適当に纏めておいた。

 いや、やっぱり演説とか無理だわ。
 押しつけられたからやってみたけど、俺にはディベート関連の仕事は向いていない。


 周りがあれで納得してくれたらいいんだけど……まあ、どうにかなるかな。
 そんな適当な終わり方ではあったものの、一回目の閉会式は終了となった。



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