AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と一回戦閉会式 中篇



「──はい! これから武闘会の反省をするぞ! 食べながらでいいから、ちゃんと話を聞いてくれ!」


 ところ変わってラントスにある某料理屋にて、俺と眷属、そして武闘会の運営に携わってもらった者たちが集って武闘会の一回戦の反省会を行っていた。

 ……まあ、俺の本気二十%程度で料理を用意したため、ほとんどの者はそちらに舌鼓するので忙しそうなんだが。


「お疲れ様です、主様マイマスター

「ありがとうな、レン。そして、やっぱり何度もダンジョンに負担をかけたな、すまん」

「お気になさらず。ここは主様の世界で、主様が支配するダンジョンです。私の役目はそれらの管理……侵入者の破壊であれば思うところもございますが、主様の指示の下であれば何も問題ありませんよ」


 こう言ってくれてはいるが、実際俺が結界で保護しなければダンジョンに甚大な影響が及んでいただろう。
 修復にどれだけエネルギーが必要になっただろうか……本当に、すまん。


「『虚無』か『虚構』が使えれば、そこでエネルギーも吸収できたのにな。こればかりはどうしようもないな」


 魔法と魔導、どちらかを用いることで向かえる制御不可能な仮想世界であり、住民というか生命がいっさい存在しない場所だ。
 こればかりは眷属に相談はできても補助は頼めず、単独での制御に苦戦している。



 いちおうでもホスト役、暇そうにしていない奴がいないか会場を歩いていると──


「メルス……慰めて。シュリュがひどい」

「朕は正々堂々と闘ったぞ。故にメルスは、朕を褒めるべきだろう」

「はいはい。……二人共、お疲れ様でした。ミシェルはよく頑張ったな。シュリュはもう少し頑張ろうか」


 作られた涙目で俺に抱き着いてきたミシェルと、胸を張って現れたシュリュ。
 ポスンとぶつかり上目遣い……くっ、なんて罪深い可愛さだ。


「メルスよ。『劉殺し』の制限は厳しくしていると思ったのだが……」

「まあ、ミシェルもちゃんと“劉気解放”まで使用できてたんだし良いじゃないか。危険ではあるが、ちゃんと担い手が現れることが決まった。あとはもう少し改造して完成を目指すだけだな」

「……いや、いっそ永久の封印をしてもらいたいぞ」


 劉の魔力に酔えば、中盤のミシェルのようなことになるだろう。
 そういった観点では、たしかに危険視されて封印されるんだろうが……


「えー、せっかくのロマン武器なのにー。ミシェルもそう思うよな?」

「うん。ちゃんと制御できたんだし……使わせて?」

「朕とメルス……メルスは駄目か。朕の許可が無ければ使えぬ術式を施すのであれば、認めよう」


 まあ、それが一番無難だろう。
 俺を外したのはとても遺憾ではあるが、どうせ眷属が使いたいと言えばほとんどの物は使わせるからな。

 ……というか、制御用の術式を組み込んだ方がいいのかな?
 竜族には血に酔った同胞を止める手段の一つに、魔法も存在するらしいし。
 それを見つけて改良すれば、おそらくある程度は暴走を抑制できるだろう。



 会食形式でやっている反省会だが、改善案や反省点は俺以外でやり取りしている。
 最後には纏まった意見が解析班の誰かからされると思うが、俺が行うのは別のことだ。


「負けちまったよー! メルス、慰めろ!」

「ああ、はいはい。けどまあ、そのお蔭で観客も眷属一択の賭けを止めるだろ。面白くなりそうだよな」

「……それ、慰めてないよな」

「だから前に言ったじゃないか。セオリーに従うのも良いけど、プレイヤーは特殊な戦い方を熟知してるって」


 正々堂々と闘う者もいるが、ある時代の流行もあって非道な闘い方も熟知しているのがサブカル好きプレイヤーという存在だ。
 今回は戦闘中にずっと【未来先撃】を使ってチャルを下したシガンだが、彼女もまたいろいろと読み耽った過去があるらしいし。


「やっぱりアンタやソウみたいに、どんな障害もぶっ壊す力が欲しいな。魔法は使えるようになったし、まだ使えない機能が使えればそうなるかもしれない……けど、それでも今以上に力が欲しいよ」

「へー、武技にも限界があるか……入れた機関もそう多くないし、これも制御できないとミシェル以上に破壊を生むからな。こういう場合って、レベルアップを図るかもう少し改造するのかどっちがいいんだ?」

「……どうなんだろうな? 今度、周りの奴にも訊いてみるわ」


 そういって、チャルは俺の元から離れる。
 ……そういう話は眷属にして、俺は解決策が見つかったときだけ相談されればいい。

 策を練るのは苦手だが、指示されたことを行うのには長けた──いわゆる指示待ち人間だからな、俺は。



 またうろうろとしていれば、犬ではないし棒でもないのだが当たってしまう。
 落ち込む者とそれを慰める者──どちらも輝く白髪である。


「クエラム……は、なんだか上機嫌だな。なのにどうして、ネロが落ち込んでるんだよ」


 状況が逆なら納得もいくが、さすがにこちらは気になってしまう。
 というわけで近づいてみると、ネロを慰めていたクエラムがこちらへやってくる。


「おお、メルスではないか! 負けてしまったぞ、慰めてくれ!」

「なんかみんな同じノリだな……はいはい。頑張ったな、クエラム」

「そうであろう、そうであろう!」

「…………」


 そして俺たちの様子を、羨ましそうに見つめるネロ。
 ……まあ、感情を共有している身として、ミシェルやチャルの想いまで感じたからな。


「ネロ」

「な、なんだ!?」

「お前も頑張ったんだ……ほら、こっちに来いよ」


 クエラムを片側に寄せ、ネロが入って来れるスペースを用意する。
 眷属にツンデレが誰かと尋ねれば、全員がリーと答えるのだが……人造ツンデレと化してしまったネロもまた、二人っきりの時以外はそわそわとしてしまうのだ。


「い、いや……別に吾は……」

「俺が撫でたいんだよ……ほら、来いよ」

「う、うむ……」


 ふらふらと引き寄せられるように、ネロは俺の空いた胸に飛び込んでくる。
 それを優しく撫でながら、しばらく時間が経つのを待つのだった。



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