AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と一回戦閉会式 前篇



≪さぁ、皆様! 一回戦の閉会式のお時間でございます!≫

≪と、言っても実際にはメルス様の愚痴が零されるだけの時間です。アンケートを書き終えた方は、退場しいただいても構いません≫


 そんな解説係アンの言葉を、俺は舞台の上で聞いていた。
 ……実際、間違ってないんだけどさ。
 それでもツッコまなければいけないな。


「おい、ひどい言い草だな! というか、もう解説は要らないだろ!」

≪メルス様の心情を、観客の皆様へ伝えるお仕事をやらせていただきます。わたしより、詳細な説明ができるというならば……話は別ですけど≫

「……さて、閉会式を始めるぞー!」


 特に強い意志があったわけでもないし、すぐに意見を翻してアンはスルーしておく。
 思いっきり息を吸って、俺の愚痴を告げるだけの時間を始める……わけないぞ。

 アナウンスに置かれているマイクを使い、会場中に俺の声を届ける。


「みんな、チケットの裏にあるアンケート記入欄は見てもらえたかな? ……そう、特に何も記されていない。気づいた奴もいると思うけど、これは書きたいという意思を籠めれば書ける仕組みになっているんだ」


 チケットを持った人間が電波擬きを送信すると、チケットの裏に文字が浮かび上がるホログラムを舞台の上で放映する。
 さっそく試した者が驚き息を漏らす声が聞こえるので、ちゃんと成功しているようだ。


「お前たちがルールを作るわけだが……全員の意見をすべて採用することはできない。一定以上の人数だった意見や、少数意見でも面白そうなものが選ばれやすい……まあ、俺が始めたイベントなんだし、やりたい放題なのは仕方がないことさ」

≪……実際には、今大会に参加しない眷属などで判別を行います。公平な方法で行う予定ですが……メルス様が異常なのは、皆様ご存知ですね?≫

「ヲイ、それとこれがどう関係するんだよ。というか、誰が異常だ。ありふれたモブに、いったいどんな異常があるんだよ」


 俺たちのやり取りに、観客席の住民たちが納得している気がする……そこまで俺は異常になっているんだろうか。

 多少やっちまった感が醸しでるようなことはいくつかしたものの、そこまで住民たちに驚かれるようなことは…………あれ? けっこうしているな。


「ま、まあ……そんなことはさておき、もう少し説明を重ねよう。たとえばさっきのフェニとヴァーイの試合を見て、自爆技はどうかと思う。そうしたらその旨をチケットの裏に書き込んで、入り口のスタッフに渡せば投票したことになる」

≪つまり、メルス様は試合ごとに能力値を解放しなくてもいい、というのであればそれを書くと。そしてその意見が多ければ、弱体化は間違いないになるのですね≫

「……死ぬからな。フェニと違って、常時発動しているわけじゃないし」

≪と、いうわけで皆様。皆様の篤き一票がメルス様の勝敗を大きく変えます……どうか、正しい選択をお願いします≫

「止めて! 八つ裂きにされちゃう!」


 いや、八つ裂きじゃないか……八つ割きにされるのか。
 トーナメントはシャッフルされないので、対戦相手は確定している……嗚呼、無防備なままじゃサーモンマリネにされてしまうかもしれない。


≪……と、懇願するメルス様ですけど。皆様が求めるのは、そうした極限の状態でどのようにして闘うか、ですよね? 選択肢はもう決まっているようなモノ。さぁ、チケットの裏に思念を籠めましょう!≫

「書き直しはできるからな! 騙された奴がいたら、すぐに戻させろよ!」

≪えっと……お二方、仲睦まじいやりとりも見ていて飽きませんけど、そろそろ閉会式らしいことをしてほしいかなーなんて……≫

 おっと、実況ホウライに迷惑をかけたようだ。
 プログラム的にはこの時間をだいぶ多めにとってあるし、退場は自由だから帰ってくれても問題はない。
 ……だが、全然居なくならない。

 嬉しいな、そんな些細なことでもさ。
 彼らにも彼らなりの理由があるんだろうけど、少なくとも好意的に受け入れられそうな理由な気がする。


「そっか。それならしょうがないか」

≪はい。そのようですね≫

≪あっ、よかったです。これでようやく≫

「──愚痴を零せる!」

≪え、えぇ……≫


 じょ、冗談だからそんな声を出すなよ。
 ゴホンと咳を一度してから、一日目を締めくくる言葉をパパッと伝え始める。


「楽しめたか? 楽しめただろう。つまらないなんて言える奴は、俺に言ってくれよ。お前たちが求めるなら、俺はそれを叶える。今回は武を求めるみんなに、こうした場を設けてみた……そう、これは祭りなんだ!」


 意味なんてない。
 ただ楽しさを伝えるために、陳腐な語彙を絞って伝えていく。


「娯楽は楽しむためにあるんだ! 闘いに懸ける信念なんて俺にはないが、それでも篤い想いってのはあるんだろ? そしてそれが、見ているみんなを興奮させてくれる! 俺はお前たちが好きだ! 種族も身分も性別も関係ない、ただ俺の世界の国民で居てくれることが嬉しい!」


 話は逸れ、武闘会から関係ない方向へ進んでいる……が、誰もそれに文句を言わない。
 みんな息を呑んで、俺がこれから言う台詞の一言一言を聴いている。

 ──ただまあ、それは俺の性分には合わないことだ。


「俺がお前たちを愛するように、お前たちも俺を愛してくれるよな? なら──どうか制限だけは勘弁してください! 死にます、殺されます、滅ぼされます! 会場でグロい死に方をする王様なんて見たくないよね? だから頼む、制限だけは勘弁してください!!」

≪……以上、メルス様より限界突破系スキルの使用封印のお願いでした≫


 違う、違うから止めて!
 そんな俺の想いとは裏腹に、さっさと式は終わり観客たちは去っていくのだった。

 わ、分かってるよね!?



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