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山田 武

偽善者と一回戦第六試合 その05



「……3、2、1、0──“閃空斬ライトスラッシュ”」

「ははっ──“正拳ストレート”!」

 空を飛ぶ斬撃と拳撃。
 それらは舞台の中心でぶつかり、パンッと弾ける。

 これまでの闘いで何度もそんな音を聞いている観客ではあるが、闘いごとに音だけでなく篤いナニカを感じていく。
 それは自身の中に眠る闘争心を掻き立て、祭りのムードへ観客を呑み込もうとする。

≪さぁ、小難しい話し合いが終わってついにバトルも終盤戦でしょうか!? シガン選手が溜め込んだ魔法や武技が、次々とチャル選手に放たれる! だが、チャル選手も負けちゃいない! すべてを拳一つで乗り切り、少しずつシガン選手の手を減らしているぞ!!≫

≪魔力量を鑑みるに、シガン選手は早急に倒す必要がありますね。チャル様は最低限の魔力だけで攻撃を無効化しているので、ほとんど魔力消費がありません。武技もつい先ほど使い始めたばかり……余裕が異なります≫

 対してシガンは、大量の魔法に加えて空間魔法による攻撃操作まで行っている。
 攻撃の手管を増やせば増やすほど、のちに抵抗する術を減らしていた。

 すでに用意した攻撃は半分以上が破壊されており、冷や汗がツーと流れるシガン。
 ギリギリまで抵抗を続け、勝つことはできずとも一泡吹かせるぐらいはしたかった。

「どうしたどうした! アンタの限界ってのはもうすぐそこかい!」

「だから、そうだって言ってるでしょ!」

 チャルを囲むように、半球状のナニカが降り注いでいく。
 それらは一つ一つが攻撃性を有する魔法であり、重なり合うようにして連鎖を生もうとしていた。

「まだ隠してんじゃねぇか! それこそ、闘いは楽しぃんだ──“覇砕拳デストロイナックル”!」

 高々に掲げたどす黒い光を纏った拳。
 閃光が拳から円状に広がっていくと、触れた魔法は一切合切破壊されていく。

≪こ、これは……さすがにやりすぎではないでしょうか?≫

≪まあ、制限がかかっていますのであの程度になったのでしょう。身力値の量も制限されていますし、連発はできません≫

≪……あれで、制限されているんですか。本当に眷属の皆様って、おかしいですよね≫

≪否定はしませんよ。トップがおかしければそうなるのは当然です≫

 どこからかツッコミの声が聞こえてきそうだが、たった一人しか発さない極少数派の意見は誰に届くでもなく消えていった。

 余波でストックしていた現象の大半が消滅し、圧倒的な力の差を何度目かで痛感しているシガン。
 高威力の現象はどうにか維持できたが、低威力の現象に関しては全滅した。

「もう終わるかい? さっきのはほんの少しだけ焦ったよ。それに、最後の切り札があると思ってこうして訊いてやっている……アンタは、どうする?」

「……やりたくないって言ってるのに、本当話を聞かない人たちね」

「『日本人』は謙虚だからね、嫌よ嫌よも好きの内なんだろ?」

「違うわよ!」

「……そうなのかい?」

 キョトンと首を傾げるチャルを見て、本気で思っていたんだと知るシガン。


 アナウンスを行う司会もまた、それを知るであろう実況に確認する。

≪あの……実際のところ、どうなんでしょうか? 少し気になります≫

≪結局は人それぞれです。ただ、『日本人』は生まれ育った環境がとても豊かで、教養も深いためそのように見える人間が生まれやすいのです≫

≪そうなんですか……って、実況をしなければなりませんね!≫

 話が逸れていたが、すぐに修正される。


 強力な武技“覇砕拳”を発動後、チャルはある武技の準備を始めていた。
 両拳にそれぞれ異なる色のエフェクトが生まれ、別々の事象がその中で渦巻く。

≪チャル選手の発動している二つの武技、あれはいったいなんでしょうか?≫

≪“風迅フウジン”と“雷迅ライジン”ですね。風属性と雷属性の武技ですが、あれらは組み合わせることで連鎖効果を発揮する武技なのです≫

≪なるほど、コンボというヤツですね。それに対してシガン選手は……斬撃がいくつかありますね≫

 シガンの武技でも高火力のもの、それが場には残っている。
 中でも切り札と呼べるようなものは──運命なのかちょうど二つだった。

≪あちらは“時間破撃クロノブレイク”と“空間破撃パラレルブレイク”を留めたものです。……おっと、付与魔法でより強化していますね。ただ、それぞれに付与したものが異なるというのが気になりますね≫

 魔力を絞りだし、武技を強化するシガン。
 先ほど“覇砕拳”を見たことで、強烈な一撃で無ければ突破は難しいと知った。

 ならば一撃に賭け、あとは考えない……そう覚悟を定める。

「私からさっさといくよ。アンタも準備はできてるんだし、全力で来なっ!」

「……6、5、4、3、2、1──0!」

 愚直なまでに真っ直ぐ突き進むチャルの前に、シガンの用意した最後の壁にして攻撃が立ちはだかる。
 二つの斬撃は混ざり合い、一つの武技としてチャルに襲いかかっていく。

「──“時空破撃ディメンションブレイク”!」

 その名を叫ぶと、武技はいっそう輝く。
 主の意志に応え、意思に従い、チャルを倒そうと一矢報いる。

 拳と斬撃が、再度ぶつかる。

「うぉっ! 凄いねぇ……」

 右手を当てたチャルは、その威力に押し負けて弾かれる。
 だが、即座に左手をぶつけ抵抗していく。

「拳の良い点は何度でも使えること! 連打で捻じ伏せてお仕舞いさ!」

 猛烈なラッシュが行われる。
 時空を破壊する概念が籠められた斬撃が、ゆっくりと速度を落としていく。

 その様子に、観客たちは歓声を上げる。
 押し負けた方が負け、そういった雰囲気が会場を包んでいた。

「…………」

 シガンもまた、その場でその様子をジッと見守っていた。
 逃れることはもうできない。
 もしこの場から動けば、守るがない彼女では瞬殺されてしまう。

「うぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁ!」

 チャルの連撃は、やがて斬撃の速度を完全に止める。
 そして重ねに重ね、拳が少しずつ前に押しでるようになり──

「だぁぁらっしゃぁぁぁぁぁ!」

 パァァンッ! と音を立てて渾身の右拳が斬撃を破壊した。
 エフェクトが眩い粒子となって降り注ぎ、決着を祝福する。

「終わりだよ。これd──」


「ええ、終わりよ──0」


 次の瞬間、チャルの姿は舞台から消えてしまう。
 シガンの発した一言が、それを決めた。

「──カウントダウン。私を倒すほど、時間が溜まった攻撃がまだ……」

 チャルの姿は、舞台から離れた敗者が創刊される場所にあった。


≪勝者──シガン選手! 今大会初の番狂わせ! 何が起こるか、もう予測がつかなくなりました!≫


 鼓膜がキーンとなるような盛り上がりを見て、シガンは引き攣った笑みしかすることができなかった。


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