AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と赤色のスカウト その04
「二人共、満足してくれたかな?」
「はい! まさか、あのセッスランスの王族の方に剣を習えるとは……!」
「ええ。天使様……レミルさんは、本当に好い人ね。結界の技巧も格段に上がったわ」
日が暮れ、夕日が沈みかけた頃……熱心に講師と相談を続けていた二人を止める。
精神はもっと早く癒えたんだが、好奇心旺盛に術を学ぶ様子を見て待つことにした。
自分よりも高みにいる者に学ぶことは、彼らにとって有益な時となる。
そして、それができるのはここだけ……ならば、選択の幅も狭まるだろう。
「そうか、そういった感想を貰えたなら……こちらとしても案内した甲斐があった」
「私としては、この時間だけだったら最高と言えたかしら」
「そう言うな。良いところだけを案内して、あとで訴えられたら困るんだよ。だから始めから、こうして案内したのさ」
「……あの、普通上から落とされるなんてこと、日常にありませんよね?」
うん、そうなんだけどな。
アクティビティの一環として、一部の国では魔法の特訓も兼ねてやっているんだが。
「細かいことは気にするな。大切なことはただ一つ──ここに住めるかどうか、だろ?」
『…………』
「そう、そこが大切なんだ。お前らがノーと答えるなら、それはそれで構わない。無理矢理こっちへ連れ込もうとは思わないし、裏で手を回そうとも考えないさ。……俺が訊きたいのは要するに、ここに住んだら幸せになれるかどうかってだけさ」
一種の脅し、とも言えるだろう。
こういった話は本来、村長などを介して行うべきこと。
それでもこの二人にそれを問うたのは──彼らが納得しなければ、この話に意味など無いからだ。
「俺の手を取るなら、俺……というより、そこの皆様方が守ってくれる。力があるお前らだけでなく、村民を纏めてな。あとは……そうだな、軽い仕事で充分だ」
「仕事、ですか。都市を回って思いましたけど、ここの食べ物はどうやって手に入れているんでしょうか?」
「地下にいくつか層があって、そこに植物や動物が生息する場所がある。お前たちの村人に、農業をやりたい奴がいるならそこで働いてもらう。そうでなくとも、幅広い職種が都市にはある」
ダンジョンコアと空間魔法で拡張してあるので、都市ではなく国として成立するぐらいには大規模な場所となっている。
植物や動物は赤色の世界基準のもので、突然変異などの問題は起きないだろう。
「……つまり、なんでもいいの?」
「限度はあるけどな。冒険者なんて職柄はないが、やりたいことをやってみるチャンスぐらい用意してあるさ。聖職者だろうが狩人だろうと……国の内政に関わることでも」
ステータスで天職を決めていれば、俺は無職になってしまうからな。
そこら辺もまた、リーンの頃から悩みながら決定した。
移住した者は、まずやっていたことに関する職業に就いてもらう。
いちおうでも今までの人生でこなしていた仕事なので、基本的に問題は無い。
そして、職業を変更したいと言うなら──お上にお金を持ってその旨を伝えてもらう。
職業に応じた額で一定期間の職業変更が許され、そこで優秀な業績を叩きだせばそこで働くことができる。
……俺は金もあるんだから適当に、と考えていたんだが、さすがに子供の甘ったるい考えは一蹴されてしまったよ。
「メルスはこういったことを適当に述べているが、後に正しい説明を行う。これは移住者全員に行っているので、君たちはあまり悩む必要はない」
「そうですよ。メルス様はこう言いたいだけです──幸せにさせてくれ、と」
後押しをするように、ウィーとレミルも二人にそう告げる。
……でもさ、適当って言わないでほしいんだよね。
それに、そこまでキメた台詞を言いたかったわけでもないんですよ。
『…………』
その言葉に、ヒソヒソと話しだす二人。
どういった結論になるか分からないが、どちらにせよ俺がやることは変わらない。
オウシュの運命は、俺が塗り替えた。
彼がこの先どう生きようと、不幸にならないように力を貸す気でいる。
ナーラもまた、オウシュの運命が変わった影響を受けた者だ。
聖女のことを告げてしまったが故に悩むのならば、またそれをどうにかしたいと足掻くのなら……そのときは、手を差しだそう。
結局のところ、上から目線になってるな。
眷属や国民から、上に居る者の立場から考えろ、などと言われているからだろうか。
実際のところ、俺ができることなんて眷属ができることより少ないが、それでも共に悩むことぐらいならできる。
俺の方が、悩むことは多いと思うが。
「さぁ、答えを訊こうか」
そして、俺の目をジッと見て二人は──
◆ □ ◆ □ ◆
「──では、準備はこちらでさせてもらう。君たちは、先の決まりを守った範囲で荷物を整えてくれ」
「わ、分かりました。今回の件、この村をお選びいただきありがとうございます!」
「気にするでない。こちらにも利がある話、君たちはこの地を捨ててでもその利を掴もうというだけだ」
村長とも話がつき、住民は後日紅蓮都市の方へ引っ越すことになった。
全員が引っ越しに応じてくれると思う……それぐらい、セッスランスの姫が関わっているということに意味があるらしい。
「ありがとうな、ウィー。わざわざ交渉までやってくれて」
「聖女の少女とメルスの被害者も気になる。私としても、この話は良い方向に持ち込みたかった」
「……これで、聖女は確保できたか」
これで残りは五人。
全員を集めれば、世界を開く扉が動く。
「もう少し、もう少しなんだ……だから、付き合ってもらうぞ、ウィー」
「そう言うのであれば、どこまでも」
そしてしばらくして、この地には家屋や畑などの跡だけが残っていたという。
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