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山田 武

偽善者と魔術化


「まあ、魔法に関しては正直どうしようも無いんだけどな。だって、俺は地球で魔法を使えないんだから」

《神が居るのですから、なんらかの枷が外れれば使えるかもしれませんね》

「火が無い所に煙は立たないって言うし、たぶんあるんだろうな。……いやまあ、俺が俺として帰還しても気づけないだろうけど」


 これまで十数年生きてきて、生憎魔力関係のあれこれなど体験したことなど無い。

 こっちの世界では厄介事に巻き込まれることの多い凶運体質だが、現実ではただのモブでしかないのだ。
 ──超能力や魔術などというファンタジー概念に関わることなど、決してないのだよ。


「魔術は技術、魔法は理法、魔導は妄想で成り立ってるからなー。細かく鍛えるなら魔術が一番だけど、奇想天外を求めてるなら魔導の特訓をするのがいい。けど、魔法はレパートリーを増えせば魔術用に編集できる魔法が増えるんだよな。自己魔力だけでどうにかなるものだけだが」


 魔術には、少し制約がある──

 ・己の魔力を媒介にするものだけ
 ・己が扱える属性のものだけ
 ・元となる魔法のスペックを超えない

 魔術といっても、別にどこかの神話に則った術式が云々と言うシステムは存在しない。

 ──魔術=カスタムした魔法だからだ。

 弾速や威力、影響範囲などを組み替え、より扱いやすいようにしたのが魔術だ。 

 生活魔法はその極地とも言える。
 基本の七大属性を、適性が無い者でも無理矢理使えるように制約を重ねているのだ。

 その分威力など見込めないし、あまりにも特殊すぎて改変などいっさいできない。
 魔法という名を冠してはいるが、魔法とは異なるため【森羅魔法】にも格納されることが無かった。


「……さて、ここまでのおさらいだ。要するに、特殊魔法の一部を魔術化するのはとても難しいということ。別のものを介して使う精霊魔法や体内の竜気を扱う竜魔法などは、駄目ということだな」


 同じく特殊魔法でも、付与魔法や木魔法や魔術として改変可能なのだ。
 付与であれば持続時間の改変、木であれば生長具合などだな。


「魔法によるスキルの再現、これもまあある程度やるべきことか? ──“身体強化ストレングス”」

《基本版ですね》


 これは無属性に属する強化魔法だ。


「そうなんだよなー。スキルなら部分指定もすぐにできるのに、魔法だと一々やらなきゃならない──“身体強化・脚ストレングス・レッグ”」


 二つの魔法は重なり合い──全身を強化したまま、脚力をより高める。


「そして魔術──“兎ノ脚ラピッドフッド”」


 え、ラテン語じゃない?
 普人族にとって魔術はラテン語っぽい名前が付くだけで、自分が後で作った魔法や魔術は気にしなくていいんだよ。

 アンの魔術スキルはAFO基準のベーシックパックだったので気づくのが遅くなったのだが、GMの皆様と邪神に疑問を重ねた結果その真実に辿り着いた。


「……って、そこじゃないや。ちなみに、魔法は何度重ねても理的に問題はないけど、失敗すると体がズタボロになるから気をつけてね。かなりヤバいぞ」

《その度その度、<物質再成>にお世話になっている方が言うとなんとも……》

「……気にするな」


 風船のように肉が破裂したり、単純に魔力に耐えられずに魔力用の血管が断絶するとかが多いケースだ。
 すぐに治せるし実験前に痛覚を遮断しておくから俺は平気だが……眷属が怒るのも、当然と言えば当然か。


「さて、鑑定は禁呪として存在するし、隠蔽も闇関係の魔法だ。生産スキルはまあ魔法でできるし……やっぱり(演技)スキルを魔法として再現することが一番大切なんじゃ──」

《必要ありません。ええ、メルス様が演技をなさる必要などいっさいございません》

「何、その雑な止め方。まあ、別に直接の再現は無理だって分かってるけどさ」


 相手の認識を弄ったり、俺の体を操作して擬似的に(演技)スキルの効果っぽいものを魔法にすることはできるだろう。
 しかし鑑定の魔法のような、効果としてほぼ同じ物が発現するということは難しい。


「演戯はいいや。それより、どうせ試すならあれだろ……(攻撃無効)」

《システムによるダメージ判定を遮断させるスキルですので、そのものの再現は不可能に近いです。真の意味で攻撃を無効化する魔法であれば、可能ですが……》

「うん、できるならもう創ってるよな」


 過保護だし、すでに多重結界による99%のダメージ軽減はできているらしい。
 ラスボスかよ……とも思ったが、実際眷属が俺に仕込んだ面白システムは、いくつかが俺をラスボス風に仕上げているらしいのでどうにもツッコみづらいが。


「一%はやっぱり無理なんだよな。俺だってその一%のお蔭で、これまでやってこれたようなものだし」

《それを埋めることを、わたしたちに要求してくれれば幸いなのです。常に傍に置いていただければ、この身……に代えるとメルス様が自重を止めますので行いませんが、持ちうる力のすべてを使い、メルス様をお守りすると約束しましょう》


 毎度のことだが、こういったことは真剣に言ってくるな。
 俺も眷属も、互いがどういった思想の持ち主か理解しているからこそのやり取りだ。

 傍から観ればそれは異常にも観えるし、俺たちはそれを否定しない。
 俺の駄目っぷりは数日でバレるし、眷属の皆様は駄目男に弱い奴が多いのだろう。


「……仕事は頼んでいるんだがな。俺関係のヤツって、あんまりないだろ」

《デート……皆様待ち望んでおりますよ》

「うぐっ」

《わたしはメルス様と共にありますので……ぜひ、機会があれば皆様と》


 ああ、はいはい。分かりましたよ。
 そんなにデートをする機会なんて、ありませんけどね!



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