AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とセッスランス浄化 後篇
どこよりもどす黒く淀み汚れた玉座の間。
そこで奴は、どっかりと待ち構えていた。
「やあ、よく来たね人類。ついにこの世界より、聖炎を振り払う覚悟を持ったか」
「聖炎って……完全に邪炎だろ」
「感じ方の違いさ。私たちにとって、居心地のイイこれは聖なる炎。むしろ、君たちが使う炎の方が邪炎じゃないか」
掌に禍々しい炎を生みだしたソレは、友好的な態度で俺と接してくる。
真っ黒なスーツのような服に身を包む、白髪の男性。
いっさい笑っていない瞳でこちらを見ながら、言葉を交わしていく。
「君たちは、この聖炎についてどこまで理解しているのかな?」
「魔物を強化して、狂化するものだ」
「……それだけかい?」
「普通の認識は、それが限界だ」
この世界の人々に、世界を包んだ瘴気の炎に関して答えを訊いても正答は出ない。
学者や研究者は調べようとするが、神の炎について知れることはほとんどない。
──識れていたのならば、カカへの信仰力も戻っていたはずなのだから。
「しかし君は違う。まだ何か知っているはずだ。さぁ、ぜひご教授願おうか」
「──お前らの言う邪神、ソイツが生みだした炎は紛い物。すでに本来の炎は消え去り、紛い物が用意した炎で代用している」
「……その答えには、理由があるのかな?」
「お前らにとっての巫女であり神子は、はるか先の深淵で封印されている。なのにまだ活動しているんだ、答えは一つだろ」
俺の回答を聞き、男は玉座の上で足を組みだす。
口角は上がり、拍手を行う、
──しかし、それでも目は笑っていない。
「おめでとう、これぐらいの稚拙な問題を人類はこれまで解けていなかったのさ。邪神と呼ばれる存在など、とっくの昔に変異した。人類たち自身が邪神を邪神として扱い、新たな神格を生みだしたのさ」
「恐怖もまた想い、信仰の一つか」
「……この国は一番、そう言っても過言ではないほどに苦戦した。誰もが不屈の闘志を燃やし続け、一度たりともこちらにとって有益な感情を燃やそうとはしなかった」
「そりゃあなんとも、この国の人たちが喜びそうだな」
あとで教えてやろう。
負の感情は正の感情よりも抱きやすい。
それでもセッスランスの者たちは、襲いかかる魔物たちに抗い続けた。
「弔いは、この国を浄化し終えてから考えようか。今は……お前を浄化すればいい」
「少しは聡い、そう思っていたのはこちらだけだったかな? 人の身で神の力を宿す者に勝てるとでも?」
邪神の眷属を名乗るだけあって、たしかに神の気を薄らと感じる。
ひどく汚れたその気を感じ取れる者がいたなら、きっと不快に想っただろうな。
「いつだって、人は成し遂げてきた。なら、神殺しの一段階前ぐらい簡単にやるさ」
「……神殺し。想いだけで神を殺した君たちが言うと、実に滑稽なものだね」
「殺すのも救うのも同じだ。要するに、最後にどう想うかの違いじゃないか。セッスランス──還してもらうぞ」
虹色の剣と透明な剣を取りだし──握る。
聖気をその両方に纏わせ、浄化の準備を整えておく。
「たった独りで挑むだけの力がある。人間らしからぬ思考の持ち主だけど、それを傲りと言えないみたいだ」
「願われるなら、勇者だろうと聖者だろうと英雄だろうとなってやる。人間なんて、思って願って繋がって生きる存在。今俺がやるべきは……何なんだろうな?」
瞬脚で距離を飛ばして男に近づき、斬撃を振る舞う。
とっさに体を瘴気に変えて逃れようとする男だが、聖気の力がそれを阻み、一撃をくらわせる。
無表情で切り落とされた腕を見つめる──そして、それを切断部に当てるとなんらかの力でくっつけた。
「…………本当に、人間かい?」
「ああ、人間さ。ここは盛り上がる闘いを求められる場面なんだろうが、すまないな。それは必要としないんだ」
「くっ、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
体を異形のものへ作り変え、力を高める。
所々から炎を生みだし、瘴気からは魔物を創りだしていく。
一度バックステップで離れ、再び聖気を充填する。
それが二振りの剣を満たした瞬間──
「“聖剣空斬撃”」
「なっ!?」
「もう少しか──“音速斬”」
聖気は武技と共に魔物を斬り続け、再生する可能性ごとバラバラにしていく。
触れた魔物は存在を消滅させ、瘴気をこの空間から消失させる。
「この聖気の強さ……聖人か!」
「知りたいなら、自分で調べてみろ」
「そうさせてもらうさ──現れろ!」
膨大な数の魔物がこの場に出現した。
ドラゴン級の魔物はいないが、大鬼ぐらいならば大量に確認できる。
「それじゃあ──スピードモード」
速度を調整し、ギリギリ男が認識できる速度で移動を開始する。
魔物はその速度へ対応できず、細切れにされていくのだが。
「はい、次はお前」
「ま、待て! 私に訊きたいことはないのかな!? 邪神に関することでも、なんでも話そうじゃないか!」
「なるほど、たしかにそれは貴重そうだな」
「そ、そうだろう! だから話を──」
「だがまあ、それは生きているお前から訊かなくても問題ない」
首に斬撃を飛ばし、そのまま落とす。
男は必死に説得したときの顔のまま、自身の死に気づくことなく逝っていった。
……眷属の国を滅ぼした輩を、どうして救う必要があるんだろうか。
「それじゃあ、情報だけはしっかりと利用してやるよ──“奪憶掌”」
そして男の頭に掌を翳し、そう告げる。
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