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山田 武

偽善者と神聖国浄化作戦 その08



「──なるほど。つまり裏方として神聖国に隠れる瘴気の炎に触れた者たちをどうにかすればいいのですね」

「ただ欲深い者であれば、こちらでしっかりと処理しておく。だがノゾム殿が先ほど燃やされた者は……手を出したこちらへ、感染が広がってしまう可能性がある」

「そうですね、たしかに通常の方法では難しいでしょう……しかし、ここは神聖国。浄化の達人もいるのでは?」

「…………先ほど瘴気の炎を纏っていた者こそ、現在神聖国に居る者の中でも浄化を得意としていたものです」


 マジかよ、あれで?
 炎を調べるついでにステータスを調べてみたけど、光魔法のレベルはそう高くはなかったんだが……スキル外の個人能力か?

 レベルだけを視れば、法王やスノー家のお父さんの方が高いしな。


「……では、こちらで瘴気の炎へ対抗する部隊を編成しておきます。何かその者たちに持たせる証明証のような物を用意してもらえると助かります」

「分かった、すぐに手配しておこう。他に何か必要なことは?」

「今のところはそれで充分です。予想とは少し違いますが、目的も達することができましたので」


 神聖国もこれで一度お仕舞い、これまでとはまったく異なる……いや、変わらないか。

 むしろ戻るのだ、かつての姿に。
 初代法王が思い描いた理想の国、争いごとのない安住の地へと。


「お二方は、下にある封印術式についてご存知ですか?」

「……ああ、法王様が教えてくださった。だが、聖炎龍も居るのでこちらから手を出すことは控えている。……それに、初代様が封印したものを外してまで益を得ようとは思わない。いずれ国を安定させたら、どうにか封印が修復できないか調べてみるつもりです」

「いえ、それは結構です。聖炎龍とは話をつけてありますし、術式はこちらである程度修理しておきました。こちらから依頼しない限り近づかないだけで充分です」

「! い、いろいろと訊きたいことはあるが分かった。いつか説明してもらいたいな」

「ええ、いずれ」


 せっかくなので、メッセンジャーを用意しておこうか。
 無駄に凝った召喚陣を近くに展開して、詠唱擬きを唱える。


「……■■――“下級精霊召喚サモンエレメンタルウィルオウィスプ”」

「こ、これは……精霊!?」

「カカ様のお力によって、私は精霊を使役することができるのです。──こちらを、連絡用にお渡ししておきます。周囲の光から活動用のエネルギーは自動的に徴収していますので世話はしなくてとも大丈夫ですよ。連絡をしたい、そう精霊に伝えていただければ私に連絡がつきますので」

「あ、ああ……」


 畳みかけるように説明して、疑念を抱かせないようにしておく。
 細かいことは全部カカ任せ、むしろその方が全能性が付きそうだ。


「では、私たちはこれにて失礼させていただきます──“空間転移リロケーション”」


 そしてそのままの流れで帰宅する。
 隣にいたウィーを連れて国に帰るのだ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 いつも彼女が内政を行う執務室に戻る。
 二人でハァと息を吐いた後、置かれているソファに向かい合って座る。


「いやー、お疲れ様。どうだ、何をしたのかさっぱりな革命だっただろ? 司祭を浄化して本を渡す、たったそれだけで国は考え方を変えるんだ。滑稽だろ」

「向かう前に、少しでも意志を伝えようとした自分が馬鹿らしく感じられたな」

「だからこそいいんだ。本格的に革命をすれば必ず被害者が生まれる。まずは上を抑えてから少しずつ変えていく……そう、ウィーが主導してな」

「ハァ……そういうことか」

「人々は放蕩王というふざけた王よりも、亡国の姫が建国して世界を正す物語を求めているだろう? お膳立てはすべてこちらでやってやるからさ、この世界を統べる姫様でも目指してみるか?」


 はたして、自分の元奴隷に天下を取らせようとする奴などいるのだろうか。
 正直テンション任せの発言だが、それの方が国もよくなりそうな気がしている。


「この国はまだいい、セッスランスの者を受け入れるという名目もできた。私も全力で整えていこう……だが、それ以外の国まで統制する気はない。私はもう貴公の奴隷ではないのだ。選ぶ権利はあるはずだろう」

「そりゃそうだけどさ、こんな場所で民を見つけられるのか? ならいっそ全部の国を一度手中に収めてから、政策として世界中の者からセッスランスに関わる者たちを集めればいいだろう」

「極論すぎる、そこまでせずとも民をここへ招くことはできる。私であらずとも国を制したいという者に任せればよかろう」

「…………お前じゃないと、駄目なんだ」


 なあなあに誤魔化して納得させようとしたけれど、なかなかに粘るウィーにそろそろ疲れてきた。

 なので、少し本音を言うことにしよう。


「それは……どういうことだ」

「頼れるの者が少ないってのもあるんだけどさ、俺の望む未来は欲深い王が成し得ることは不可能なんだ。民を想い憂える心優しき王の存在、それこそが必須なんだ」

「それがどうして私なのだ」

「自分で分からないならいい。だけど、お前はもうこの国では愛されるお姫様だ。たぶんセッスランスでも似たような感じだったんだろうな。お前はお前のまま、その地に住まう民のことを想ってくれればいい。それだけで目的は果たされる」

「あとで説明してくれるのだな?」


 ああ、と答えて彼女の手を掴む。
 男性と異なりとても繊細で華奢な手をそっと持ち上げて告げる。


「約束しよう。いずれすべてを話す……だからいつか、俺の願いを訊いてくれるか? 奴隷でも、『姫将軍』でもないウィー自身が」

「──眷属ならばいつでも構わないぞ」

「…………うぇ?」

「すでに訊いている、あの娘たちからな」


 その言葉に力が一気に虚脱し、ソファに座り込んでしまう。
 あいつら、仕事しすぎだろ……。



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