AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と神聖国浄化作戦 その07



 邪神の炎の残滓──略して邪炎。
 それが神聖国の司祭の体から発見された。

 接触する者に種火として炎を移し、己が欲望を加速させる効果があるようだ。


「つまりは、邪神の炎のせいですね。いつの世から関わっているかは分かりませんけど、少なくとも全員がオークションに行くほど欲に満ちているのは異常だったと」

「アレは……どうにかなるものなのか?」

「ええ、とりあえずは簡単に。言っているだけではあれですから、やってみましょう」


 元をただせばカカの炎なので、本神を解析すれば炎の詳細などすぐに分かった。聖気を籠めて消火を行えば簡単に火消しすることができる。

 しかし、ここで普通に水を出して消すのもあれなので……別の方法で。


「嗚呼、偉大なるカカ様よ。私に悪しき炎を燃やし尽くす真なる炎を授けたまえ……◆●▲■──“聖炎カグヅチ”」


 適当な詠唱を終えると、聖気を籠めた炎を射出する。
 聖気の影響で聖性を感じる白色の炎と化したそれは、司祭の中で燃え滾る禍々しい黒い炎に向かっていく。


「祝福を、そして救いを」


 指を十字に切るジェスチャーをするのと同時に、炎が司祭の元へ到達し──絶叫が部屋中に木霊する。

 これまで彼を歪めていた元凶がなくなることを、本能が危険だと感じで叫びで誤魔化そうとしているのだ。
 反動で発狂する者など幾らでも存在する。自己防衛機能というやつなのだ……あ、気絶した。

 宿主の意識が無くなろうと、禍々しい邪炎は動くし聖なる炎も活動を続ける。


「どど、どうなっているのだ」

「あ、やっとこちらの声に耳を傾けていただけるのですね?」

「そうではない! あの炎は間違いなく、瘴気の炎ではないか! なぜあれが我が国の司祭に纏わりついている! そして何より、お前はうちの娘に何を言った!」

「何も。炎はあの司祭様が瘴気の炎を宿す者に唆されたか無理矢理籠められたかされたから、纏わりついているのは彼に適性があったから。娘さんは私の知り合いの商人に頼んで配ってもらっていた聖書に反応してこちらと接触されたのです」


 一つ一つ、スノーさん家のお父さんの質問に答えていく。
 一番最後に娘さんのことを聞いてくる辺りが、親バカなんだろうかと疑問が湧くが。

 本一冊で人を信じられる、そこまで馬鹿ではないんだろうけど……それでまあ配っている張本人に会おうとするよな。

 たぶんルーカスさんが何か仕組んでいたんだと思うが、それでも気になるところだ。


「……娘はやらんぞ」

「はい、分かっていますよ。リリー様が私に抱くのは信用であり、信頼ではございませんので。聖書を通して嘘偽りがないこと、それが理解してもらえただけで充分でした」

「その聖書、まだあるのか?」

「はい──こちらに。『姫将軍』さん、届けてもらえますか?」

「了解した」


 初期ロッドの聖書を『姫将軍』を介して渡すとまずは軽く読んでいく、そして何かに気づくと物凄い眼力で注視し始め、最後には意識が完全にそちらへ向かう。

 しばらくしてハッとなると思えば、法王にもそれを見せて何やら話始める。
 ……これ、かなり時間がかかりそうだな。


「ところで放蕩王」

「なんだ?」


 そんな暇な時間をどう潰そうか考えていると、『姫将軍』が話しかけてくる。


「『姫将軍』、という言い方は止めてもらえないだろうか」

「ならこっちも、放蕩王という呼び方はなしにしてもらえるんだよな?」

「どうだろう、放蕩するのを止めてくれるのならば検討してみるが。私の場合、姫であることも将軍であることも止めているからな」


 名前はオークションのとき端末に表示されていたから分かるけど、それを言いだすのもなんだかなー。


「放蕩王は口調だけでなく名前も偽りなんだろう? 放蕩王の使いだという者、その一部が名前を言い間違えていたぞ」

「…………そうか」


 おそらく、解析班はたぶん誰も間違えていないだろう。
 問題は俺を『メルス』と呼ぶ誰かだな……ま、別に良いけど。


「私のことは『ウィー』で構わない。貴公のことは……なんと呼べばいいのだ?」

「呼び方はなんでも好きにしてくれていい。放蕩王以外ならな」

「そうか……では、『メルス』と呼ばせていただく。公の場ではまた別だろうが、貴公はそういった場所に出ることを拒むだろうな」

「正解だ。だからこそヒメ……ウィーにすべて任せているんだ」


 仕事なんて御免蒙る。
 できる人材に任せて、俺はのんびりまったりライフと洒落込むんだ。

 眷属に関わることなら別として、迅速に対処する予定だがな。



 さて、そうしてウィーと時間を潰していると法王たちの意識が聖書から逸れた。
 何やら覚悟を決めた瞳なんだが……え、何があったの?

 スノー家のお父さんが代表して俺に話しかけてくる。


「ノゾム殿、一つお頼み申したいことがございます」

「内容によりますが……どうぞ」

「この国をよりよくするため、その手伝いをしてもらえないでしょうか?」

「どういった理由でそうした考えが浮かんだのか、それを聞かせてもらえませんか? 話はまず、そこからです」


 そう伝えると、顔を見合わせてから説明を行ってくる。
 さて、この国はどうなるのかな?



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