AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と聖炎龍 前篇



「現れよ、死者の軍勢よ!」

「――――!」


 高々しく吠える聖炎龍の前に、召喚されたアンデッドの軍勢が出現する。

 スケルトンやゾンビ、ゴーストなどの下位アンデッド。
 デュラハンやグール、イビルエレメンタルなどの中位アンデッド。
 スカルドラゴンやバンパイア、リッチなどの上位アンデッド。

 ダンジョン内で生成し続けた魔物たちが、いっせいにこの場へ呼び出された。


「全軍、突撃!」


 声帯が残っている者もそうでない者も、全員がなんらかの形で音を出して吶喊する。

 武具を装備はバッチリしていたので、少しは持つと思――


「――――!」


 ったのだが、聖炎龍が吐いた聖属性の息吹ホーリーブレスによって、下位・中位アンデッドが全滅。

 暴走状態で聖属性の行使って、ちょっと反則じゃないですかね?


「――“聖炎耐性付与エンチャントレジスト・ホーリーフレイム”」


 とりあえず魔法で強化を行い、弱点である聖属性と炎属性だけでもカバーを行う。

 魔法はネロの弱点克服を協力する際、製作したものである。

 それを以後召喚する魔物にも自動的に発動するように設定し、再度進軍していく。


「スカルドラゴン、一匹来い! あと……そこのリビングウェポンもだ! 以降の命令はそこのノーライフキングがやっとけ!」

『御意』


 アンデッドたちの返事を聞くのと同時に、前へ出て霊体が入った長剣を握る。

 え、縛りプレー?
 いやいや、ちゃんと召喚士として武器を召喚して戦ってるじゃないか。

 後ろのことは種族が不死の王様にでも任せて、俺は先陣で楽しむことにしよう。


「先手必勝――召喚・ボムゴースト×50」

「――――!」


 現れたのは、黒い球体状のゴースト。
 攻撃されると負のエネルギーを爆発させるという、厄介な魔物だ。

 聖炎龍は耐性を持っていそうだからあまり意味は無いが、エネルギーの衝撃自体は緩和できない。

 激しい衝撃で横に倒れる聖炎龍を、ノーライフキングが召喚した下位・中位アンデッドたちが攻め始める。

 俺の召喚した上位アンデッドたちもまた、同時にそこへ向かう。


「召喚・カースドウェポン×20」


 リビングウェポンの上位種を召喚し、一斉に突撃させる。

 武器の中に大量の呪いが含まれており、少し掠っただけでも聖炎龍だろうと弱体化を見込めると思う。


「再設定だ――“霊呪属性激強ドラスティック・カース”」


 せっかくなので、オリジナルアンデッド強化魔法も使って効果を高める。

 初めの内は全身を使って抵抗していた聖炎龍だが、少しずつカースドウェポンに当たっていき――呪いに蝕まれていく。


「もういっちょ──部分召喚・邪龍の息吹」

「――――!」


 まだ魔本の中にいる召喚獣に呼びかけて、息吹ブレスの発射準備をしてもらい――口の辺りだけを召喚して放たせる。

 こちらも強化されているので、聖炎龍に大ダメージを与えることに成功する。

 最初の頃の猛々しい声とは異なり、今は意味も無い弱々しい悲鳴となっている。


「魔本……まだ無理か。もう少し心を折った方が良いか? ――召喚・ナイトメア」


 黒い魔本から飛び出したのは、黒いローブに身を包んだ霊体。


「悪夢は見せなくていい、真実を引き出せ」


 コクリと頷くと、ナイトメアは聖炎龍の中へと侵入していった。

 本来なら抵抗できたんだろうが……全身呪い塗れで、アンデッドに攻められている今は無理だろうな。


「ノーライフキング、いったん攻撃中止……それじゃあ俺も――“精神侵入サイコダイブ”」


 固く閉じられていた聖炎龍の心の壁は、ナイトメアによって一時的に壊されている。

 俺はその道を辿り、聖炎龍の精神世界へと侵入していった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 そこは、紅蓮の炎に焼かれていた。
 人も魔物も、都市も――ドラゴンたちも。
 何もかもが全て消し炭とされ、残っているのは泣き喚き絶望する一匹の幼龍。

 聖炎龍、かと思ったが違った。

 今の聖炎龍のような聖氣付きの炎も持っておらず、何より赤ではなく白色だ。


「酷いもんだな。これが悪夢なのか? 聖炎龍にとって」

「ふん、悪いか。これまでの聖炎龍にとってこの記憶とは、忌々しい決別したい過去であり、認めなくてはならない未来なのだ」


 突然俺の横に現れたミニサイズの聖炎龍には驚かず、会話を続ける。
 ……リアに似たようなことを何度も繰り返されれば、そりゃ慣れるさ。


「記憶も受け継いでるじゃないか」

「……これは聖炎龍としての使命に関わるもの。だからこそ、どれだけ交代しようと絶対に引き継がれる。それこそ、否が応でもな」


 聖炎龍の言っていることが正しいならば、この場所はかつて実際に存在し、いずれ再び現れるということに……って、違うか。

 こんな惨状が起きる場所が、どこかにできるってことなのか。


「これは初代の記憶、もっとも古き聖炎龍が絶望に呑まれ、聖炎龍となるまでの記憶だ」


 目の前でただ茫然とする幼龍の感情が、視ているだけでなんとなく感じられる。

 どうしてこうなったかという疑念、何故誰も動かないかという恐怖、なんで自分だけが生き残ったのかという絶望……。


「ここからが問題だ」


 しばらくすると、天から白い光が降り注ぎ幼龍を包み込む。

 それでも呆然としていたのだが、どこからか声が聞こえ始めて反応する。

 その声は幼龍に告げた、自分がこの世界の神であると。
 そして幼龍に、人々を守る聖炎龍になってほしいと。

 幼龍はそれに頷き、聖炎龍となった。
 人々を愛し、世界を守る存在になった。

 ――表面上は。


「いきなり現れた神が、何も救ってはくれなかった神がそれを言ったところで、初代には何も響かなかった。それでも何かしようと、神の嘆願を聞き入れた。そして――人を愛せるようになった」


 お見合いの方が結婚生活は上手くいくらしいし、それと同じか。

 どうにか好きになろうと努力して、初代の聖炎龍は自分よりもか弱い人間たちを愛することに成功した、というわけだ。

 ここまでの話の流れだと、まだ何も問題ないと思うが……まだ続きがありそうだな。



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