AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と戦渡の傭兵



 幻視なのか歩行術の達者なのか、勇士が複数に分裂したように見える。
 俺を囲むように動き、暗器を投げてジワジワと弱らせてくる。

(――“海嘯タイダルボア”)

 膨大な量の海水を生みだし、空間内を埋め尽くしていく。

 だがさすが傭兵、水の上を移動する術も手にしていたようだ。
 移動速度も変わらず、グルグルと移動しながら少しずつ距離を詰めてくる。

 傍から観れば完全無詠唱なのに、全く驚かなかったな。
 不測の事態にも即座に対応、これが傭兵という奴なのか……。

(――“万雷撃メガボルト”)

 電圧にして百万。
 雷がごとき力を足元の海水に流し込む(本物は二百万以上だが)。

 とっさに避けようとするが、ジャンプ以外に選択肢はない。
 本体(?)だけがそれに間に合い、あとはすべて雷と共に消失した。

 俺もまた、脳髄を焦がされて体の中から刺激を受けたが、それでもまだ戦える。

(――“解毒ドート・アン投薬チポイズン”)

『――――』


 同時に薬魔法で作製を始めていた解毒薬が完成する。
 即座に体に流し、意識をハッキリとした状態に戻す。


「では、続きをお願いします」

『――“――”』


 回収してから使っていなかった剣を、今度は柄を殴るようにして飛ばしてくる。
 拳に関する武技の影響か、雷の魔力を纏っての攻撃だ。

 俺も再びそれを避ける。
 同時に、集中して見つけ出した細い糸を断ち切る。

 それは剣の柄から伸びた魔力のワイヤー。
 勇士はそれを巧みに操ることで、剣を自在に動かしていた。

 だが、今(獄炎付与)で永続的に燃やしたので糸を再接続することはできない……俺の武器も、それで熔解しちゃったけどな。

 雷の魔力も効果をその際失い、海水の中へ物凄い勢いで突き刺さる。
 獄炎によって海水が蒸発し、再びフィールドは元通りとなる。


『――――』


 剣と接続が切れたことを理解した勇士は、後ろ腰の辺りから短槍ショートスピアを取り出す。
 これもまた、何かギミックがあると考えておいた方がいいだろう。

【剣製魔法】を使い、両手に剣を握る。
 ただ硬いことだけをイメージしたも無き双剣、それらを握り締めて戦いに向かう。



 手数を増やしたことにより、暗器の投擲にも対応できるようになった。
 だがその分正確さを若干欠いてしまい、短槍による攻撃への対応が遅れてしまう。

 勇士の持つ短槍のギミックは、長さの調整が可能にした物のようだ。

 リーチの長さが長所でも短所でもある槍、その長さを上手く変えることで、中距離でも近距離でも使えるようにしていた。
 ……俺もよくやっているしな。

 短槍だけでも厄介なのだが、足にナイフを仕込んでいるのが、なお面倒だった。

 暗器に塗られた毒とはまた別種のようだったので、今度はしっかりと避けていた。
 それでも遠心力によって仕込まれた毒を外に散布する仕掛けだったので、結局はくらってしまったのだが。

 そして今、再び毒の症状を治療し終えたのが現状である。

 俺も勇士も初期と違って装備はボロボロ。
 短槍は……あ、今捨てた。
 それほどまでに、厳しい戦いなのだ。

 本来の勇士なら、傭兵らしく勝ち目のない戦場としてさっさと逃げていただろう。

 だが、彼は今俺に稽古をつけるため、一時的にだが蘇った身。
 不完全な魔導であるため、初期設定の通り本人の意思があるか分からないが──それでも稽古をつけてくれているから問題ない。

 勇士が取り出したのは、銃。
 戦いの最中にレッグホルスターがあることには気づいていたが、まさか魔具タイプの銃だとは思わなかったな。


「グラよりは性能に劣るが、弾数は無限の代物か。昔ってのは、恐ろしいもんだな」


 地球でも、ムー大陸やアトランティス王国といった超技術を有した文明がある。

 それはこの世界でも同じ、[神代魔法]がありふれていた過去の時代、恐らくその頃に勇士が持つ魔銃は作られた。


「暗器と銃の二刀流、刀の要素は全くないけど……。ともかく、どっちも剣だと対応に困るな」


 暗器を弾くのにはこれまでも失敗していたし、銃弾を斬るのも難しいだろう。

 それでもなお、双剣を使うことに特に意味などない。


「ならチェンジ……棍でいいか」


 クラーレが最近使いこなしてきた――回復職なのに――のを思い出し、【武具魔法】で棍を創り出す。
 これまた特に装飾もされていない、ごくありふれた市販の一品。

 ただ、今回も硬さだけは弄ってあるので、攻撃を捌くことはできる。


「ん? 棍って、そもそも暗器とか銃弾に対応できるのか? ……まあ、いいか別に」

『――――』

「すみません、武器の選択に手間取ってしまい……はい、もう大丈夫です」

『――――』

「お願いします」


 俺の支度を待っていてくれた勇士にお礼を申してから、戦いを再開する。

 ──すべては力を得るため、果敢に挑み勇士の技術を獲得し続けた。

  ◆   □   ◆   □   ◆

『――――』

「お疲れ様でした、本当にありがとうございました」

『――――』

「……重ね重ねすみません。では、また機会があれば」


 特訓が終わり、体に穴の開いた勇士は粒子となって消えて逝こうとする。

 要は魂をベースに俺の魔力で生成された体であったため、活動が終わると魔力が解除されて死に戻りするようなエフェクトが出るというわけだ。

 俺が黒い魔本を取り出すと、飛び散っていた粒子諸共、白紙だったページに勇士が吸い込まれていく。

 粒子はインクとなり、本に一枚の絵を描いていった。


「よし、これでお仕舞――」

「パパーッ!」

「いブルゥ!」


 ミントのタックルを受け、疲れ切った俺の体は地面に叩きつけられる。
 同時に本も俺の手元から離れ、バサッと地面に落ちる。

 開かれたそのページには、魔方陣と短く一文が記されていた。

 ――戦渡の傭兵『マルシューク』と。



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