AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と腕試し



 夢現空間 修練場

「それじゃあさっそく、始めるとしようか。二人とも、準備はできてるか?」

「はい!」
「……バッチリ!」


 俺と【英雄】姉妹――フーラとフーリは、結界の中で武器を互いに構えている。
 俺が相手だからなのか、持っている中で最上級の装備に身を包んでいた。
 全てが神気を混ぜて創られたその装備は、まさに【英雄】に与えられたと言っても過言ではない程内なる力を秘めている。

 ま、俺は普段着の状態だけどな。


「それじゃあ腕試しってことで。俺を退場させられたら――どんな願いでも一つだけ、叶えてやろう。不老不死でも村を国の規模まで大きくして女王になりたいとかでもな」

「それは……要りませんけど」
「……ほしいものはある」

「おう、なんでもいいからな」


 ちなみにだが、こうした発言はレベルは違うが彼女たちだけに言っているのではない。
 同じラルゴ村に住まう少年少女はもちろんのこと、リーンやルーンに住む子供たちにも似たようなことを言ったことがある。
 条件を下げる分叶えられる願いも小さいものとなってしまうが、一つの条件を達成できた少女はとある場所で仕事に就いた。
 本人が乗り気であったため、関係各所にそのことを報告するのに慌てふためいたのが懐かしい思い出だ。


 閑話休題こどもってすごいよな


「それじゃあどんどん――"剣舞闘ブレードダンス"」


 戦いは俺の魔法で幕を開けた。
【剣製魔法】で生み出された六枚の刃が、俺の指示の元いっせいに二人の元へ向かう。

 彼女たちは互いに一振りの剣を用いて助け合いながら刃を破壊していく。
 対の剣として生み出した双剣、それらは彼女たちとの冒険の間に成長を遂げた。
 魔法で生み出された刃は砕かれるようにして消え去り、数秒もしない内に二人の行動は攻撃へ移行する。


「もういっちょ――"天軍行列エンジェルパレード"!」


 漏れ出した魔力が形を成していく。
 形が定まったとき、それは天使の形を取って二人に襲いかかる。"竜軍行列"の天使版だが強さは同等のものを誇っている。
 ――だが、それもあっさりと砕かれた。


「魔力だけの相手なら、負けません!」


 要はそういうことである。
 龍の鱗は魔法を弾き、龍の爪は鎧を切り裂く――そして、龍の牙は全てを砕くのだ。
 龍を素材に作られたその双剣は天使たちを抗う暇もなくバラバラに切り刻む。


「……"凍雷"」

「"光槍ライトランス"」


 冷気と電気を纏った龍が飛んでくる。
 魔力を過剰に籠めた光の槍を放ってそれを消し飛ばす。魔力の籠め過ぎで暴走した光の槍は龍と接触後に眩い閃光を放つ。


「――"影縛りシャドウバインド"」

「……「"英雄強化ヒロイックブースト"!」」


 光に照らされた俺たちの影は、普段よりもとても長くなる。
 その伸びた影を対象に形を変えた俺の影が拘束を計るが、二人は【英雄】専用の身体強化を行いそれを回避する。
 影も必死に彼女たちを追いかけるが、やがて光が治まると諦めて俺の影に戻る。


「さっそく使ったか、それなら俺ももう少し強くしてもいいよな?」

「はい、いつでも大丈夫です!」
「……バッチコーイ」

「結界も上手く使えてるみたいだな……ドゥル! 壊れないヤツ!」

《仰せのままに、我が王――『偽・デュランダル』を転送します》


 不壊の聖剣を握り締めると同時に魔法による強化を行っていく。
 部分強化──高めるのは右腕。
 過剰に高めた筋力のせいか体のバランスがズレてふらりとよろめいてしまう。
 たたらを踏んで持ちこたえて少し体をその状態に慣らしてから告げる。


「さぁ、ハンデゲームだ。必死に抗ってくれよ――"大斬撃パワースラッシュ"」


 右腕で振るわれた一撃とともに、【英雄】たちは動きだした。



「お疲れ様、二人ともいい勝負だったぞ」

「メルス様が相手だったからこそです」
「……さすが、メルス様」

「そう言ってもらえると嬉しいが、実際誰が相手でも大丈夫そうだな」


 展開した結界を巧みに使って俺を翻弄したのはついさっきのことだ。足場としても武器としても、もちろん防壁としても使える万能な結界。
 それら全てを一つの結界に纏めて魔法まで結界から放てるようにしていたからなおのこと驚いた。

 転移系統の能力をいっさい使っていなかったので最後には傷をつけられてしまったよ。


「殺し切ることは無理だったか。もう少し強くなってみようか」

「はい……」
「……うん……」

「ど、どうした? もしかして、本当に心から叶えたい願いがあったのに、ハンデを付けてもらって上で敗北したから少し落ち込んでいる……とかじゃないよな?」

「メルス様、それほとんど正解です」
「……まだまだ遠かった」


 ちなみに、二人の顔がそれを分かりやすく教えてくれていた。頬を膨らませてショボンとしていてやっぱり子供だよな……と思わせてくれるような姿だった。


「大丈夫だって、キャンペーンはまだまだ続いている。他のみんなにこの戦闘で足りないと思ったことを話して、どうしたら良かったかをしっかりと訊いてみな。ちゃんと教えてくれるし試してくれるさ」

「そう、ですよね……頑張ります!」
「……お姉ちゃんと、一緒に勝つ」
「そうよね、フーリ。二人で頑張ろう!」


 こんな日々がキャンペーン中は続いていくのだった……かなりヤバかったんだけどな。


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