自称偽善者は電脳異世界に揺蕩う(旧:AFO ~(自称)偽善者のVRMMO(?)記~)

山田 武

偽善者と月の乙女 その17



「さぁ、これでお仕舞いです!」

「そうはさせるかぁああ!」

 上から下へ突き刺すようにして放たれた、棒による連撃。
 メルと化したメルス――以降メル――は、それを硬化した手で捌いていく。
 猛ラッシュ、少女たちの意地の張り合い。
 何度も何度も何度も武器と拳を合わせ、何度も何度も何度も攻め続ける。

「いい加減、諦めて、ください!」

「嫌に、決まってん、だろうが!」

 体が小さくなった分メルの方が不利だったのだろう。
 棒の勢いに少しずつ押されていく。
 某呪印によって命じられたことは絶対、そのためメルスとしての能力が使えない。
 メルはメルとしてこれまで彼女たちの前で披露してきた技のみを駆使して、どうにかこの状況を逃れようとする。

「こんちくしょぉおお!」

「まだ足掻きますか!」

 足から地面に魔力を流し、自身の周辺を隆起させて攻撃を強引に避ける。
 隆起させた地面は同時に盾となり、メルの退却を支援した。

「ず、ずるいぞクラーレ! 霊呪を使うなんて! そんな娘に育てた覚えはありませんからね!」

「育てられた覚えもありませんし、育ててもらう義理もありません。道を間違えたメルには、キチンとお仕置きをしましょう」

「間違えた? この俺が?」

 キョトンとした表情で尋ねるメル。
 何も疑わない、自分が間違っていると思っていない顔であった。

「根本から叩けば、どうして偽善なのかというところに行きますけど……そこは複雑そうなので止めておきます。言いたいこともいくつかありますけど、今回は一つだけ――どうして、本音で話してくれないんですか?」

「本音? ……割と出してたと思うんだが、クラーレの思う本音ってなんだよ」

「信頼、友愛、報連相でしょうか?」

「努力、友情、勝利じゃないんだな」

 時間切れにより、隆起した地面が土へ還っていく。途中で壊されることを懸念し鉱石を混ぜたその粉塵は、光を浴びて眩い光を二人の元へ届ける。

「まあいいや。信頼? ああしてない、若干人間不信気味だから。友愛? 俺とお前らとじゃ無理だ。報連相? 俺とお前らとじゃ知るべきことも違ぇよ。つり合いが取れてないじゃないか」

「そうですか? わたしはつり合わなくとも友情は深め合えると思いますが」

「天秤も傾き過ぎれば棒が落ちる。圧倒的な格差の前に深めるものなんてないさ」

「そういうところを、わたしはこれから直してみます。メルのそういう捻くれたところ、共感しますけど……残念ですが」

 クラーレもまた、ボッチであった。
 今ではシガンを通じて話せる者も増えているが、本質的には何も変わっていない。
 だからこそ、メルの話す言葉に大した意味がないこともすぐに気づく。
 当たり障りのない言葉だからこそ、他者に深く関わらずに済むのだから。

「霊呪を以って命ずる――」

「おいおい、またそのパターンかよ。あくまで呼ぶようだから、命令もできないし媒介としても使えないぞ」

「今すぐこの場に、現れろ!」

 クラーレの願いとともに、刻まれた紋様の一画が一瞬輝いて消滅する。
 それと同時に、彼女から離れた場所にいたメルが瞬間的に移動させられる。

「何度やっても無駄無駄無駄無駄ァアア!」

「さぁ、それはどうでしょう」

 悪役染みたセリフを告げるメルスだが、クラーレは全く動じずに棒を構える。
 後ろでは、仲間たちが手を繋いでクラーレが戦う様子をジッと見守っていた。
 彼女がどういった選択をするのか、一挙一動に目を見張る。

「"振月棒"!」

「不可視の高周波スティックか。そういえばそんな武技もあったな」

 使われたのは、(棒術)の武技"振月棒"。
 一定時間武器へと不可視や振動する効果を与える武技である。
 メルに鍛え上げられた棒捌きを振る舞い、彼(女)がその場から逃げられないように誘導していく。
 だが、それは先ほどまでと同じことの繰り返し。すぐに<箱庭造り>の能力によって回避できる、とメルは思っていた。

「――同じ手を、使わせると思いますか?」

「……うわっ、独りじゃなくて一人だったのかよ」

「ニュアンスに気を付けてくださいね」

 再び揺れ動こうとした地面は、クラーレの後方から発動された魔法によって無効化されていく。
 硬く地面は柔かい泥に変化し、辺り一帯に泥を撒き散らしてメルを地上に戻す。

「(未来眼)を使っていれば、分かってたんだけど……ん? またこのパターンか」

「勝利のときはすぐに訪れます――カウントダウンは、残り3秒ですか」

「シガンか……!」

 スキルの相殺が魔法によるものであり、それがクラーレの使用できない魔法であることから、まずこの戦いが1vs6として行われていることを再認識する。
 そこから一瞬で理解した――発動した魔法はシガンが【未来先撃】で仕掛けて置いた即席の魔法罠マジックトラップだと。
 シガンたちが後方で手を繋いでいるのも、武技や魔法、スキルを共有するためのものだと思えば納得がいく。
 クラーレとの戦闘中、彼女たちはクラーレの動きを見ながら何かをしていた。
 それがすでに発動の遅延化を図ってのことであったならば……。

 メルには、シガンを止めるしか勝利を得る方法はなくなっていた。


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