AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と月の乙女 その10



  ◆   □   ◆   □   ◆

 なんという無茶振りなんだ、とクラーレは思った。
 もともとは和解のために行わおうとしたこの模擬戦が、どういうわけか大悪魔と呼ばれる強大な悪魔との戦闘になっている。
 おまけにメルスは何もせず、本当にピンチになったときのみしか助けないときた。

「……なぜでしょう、無性に腹が立ちます」

「同感よ、あとで一発殴りましょう」

「はい、全力で補助魔法をかけます」

 隣に居たシガンと、視線を合わせること無くそう決める。
 突然の決断は、彼女たちの意思を無視した事柄である。
 初めは弱体化をさせると言っていたのに、それすら無くなっていた。

 目の前の大悪魔は、圧倒的な魔力を内に秘めている。
 メルスは気にせずに飄々ひょうひょうとしていたが、彼女たちはその強さに冷や汗をかく。

「――君たちも大変だね。彼との関係は知らないけど、このボクと戦うことになるんだからね」

「まったくだわ。私たちとあの男に、直接的な関係なんかない。本当なら、貴方と戦う必要なんてこれっぽっちもないんだけれど」

 どこからか、『えー』という声も上がるが誰も気にしない。
 この騒動を引き起こした愉快犯に構っている余裕は、彼女たちにはもうなかった。

 とても人間的な容姿をした大悪魔。
 銀色に輝く髪と白い肌。
 全身が黒色の中級悪魔や力を抜くと体の一部が黒く変色する上級悪魔と異なり、息をするように人間の姿を保っている。

「残念ながら、悪魔は約束に厳しくてね。彼がこの戦いを望むならば、やらなきゃいけないのがこの体さ。全力……とまではいかないけれど、あまり苦しまないように殺してあげるよ」

 何もない空間に手を伸ばし、生み出した虚空にから何かを取り出す。
 棒全体が黒い錫杖、鳴り響く音はとても不快な音を出している。
 杖の上の辺りに付いた輪っか、そこだけはカラフルに輝いていた。

「魔武具『アルカナ』。ちょっとした拾い物なんだけど、便利なので使っているんだよ。彼が使っている籠手と同じ魔武具だから、性能の方は保障するよ」

「魔武具? 魔具とは違うの?」

 シガンたちは、そもそも魔武具の存在を知らなかった。
 プレイヤーが魔武具に関して知る機会が、まったく無かったからである。

「おや? 知らなかったのか。魔武具とは、魔具をはるかに超えた性能を持つ魔の武具。何らかの形で成長し、持ち主に合った性能へ何度でも進化する生きた武具。対を成すように聖武具というのもあるけど、今はどうでもいいよね。とにかくこれは、全てが無茶苦茶で出鱈目な、独りで大国を滅ぼすこともできる伝説の武具さ」

 また、魔武具にも階級が存在する。
 魔具から進化することで生まれた魔武具の他にも、とあるスキルを元に生成された魔武具などが存在する。
 中でも<大罪>に属するスキルから生成された魔武具は、必ずと言っていい程に歴史へと名を刻んでいた。
 一度生み出された魔武具は、特別な方法でない限り破壊されない。
 生み出した本人でなければ完全の同調することはほぼ・・不可能だが、それでも大悪魔の言う通り、国を滅ぼす程度のことならば容易く可能だ。

「そうなんだ。でも、私たちには関係なかったわね。武器が本人の強さになるわけじゃないわ。担い手が武器に相応しくなければ、その武器が持つ本質的な強さなんて出し切れるはずがない。拾い物、なんて言うんだから使い慣れてないんでしょう?」

「……さぁ、どうだろうね」

 杖を振り回す大悪魔。
 とても慣れた手付きで振り回しているが、
魔力が馴染んでおらず、完璧に担えていないことが解る者には判る。

「みんな、準備はいい?」

「ああ、とは言い難いがやってみよう」
「メルの頃から、あれと関わってからいろいろと大変になってきたわよね」
「まあ、やるだけやってみようよ」
「諦めたら~、そこで終了~」

「全力でやって見返しましょう! あそこでふんぞり返っているムカつくメルスを!」

 それぞれが覚悟を決め、武器を取って構えていく。
 その様子に大悪魔を笑みを浮かべ、同様に振り回していた錫杖を向ける。

「彼には悪いが、君たちには死んでもらおうじゃないか。恐怖と絶望を感じ、ボクの糧になってほしいね」

 今までは仕舞っていた漆黒の翼を広げ、大仰に告げる大悪魔。
 魔法を詠唱していたクラーレが唱えていた魔法を発動した時――戦いが始まる。

「……■■■■■■■――"ホーリープロテクション"!」



 戦いは白熱し、激しいものと化す。
 彼女たちは必死に抗戦するものの、弱体化されていない大悪魔が猛威を振るっているのが現状である。
 大悪魔は始めに感じた通り、魔力に似合うだけの強さを誇っていた。
 錫杖を鳴らして不快な音を流し、魔力を杖に流して魔法を放つ。杖も完全にとまではいかないが、最低限の扱いはできていた。

「"形状変化――天斬る大剣ソード"」

 クルリと杖を回すと、錫杖だったその武器は巨大な大剣に変化する。
 剣身には錫杖に付いていた輪っかと同色の宝珠が嵌められていて、それ以外が真っ黒な点が同じだった。

「そろそろ取らせてもらうよ――まずは一人目ッ!」

「ッ……カハッ!」

 メルスが上級悪魔との戦いで見せたような高速の動きで、大悪魔はパーティーの盾役であるディオンに近づく。
 最も頑健で頑丈な彼女を、大悪魔の振るった一撃は斬り裂いた。

 大悪魔はその結果を見て不敵に笑う……だが、次の瞬間歪んだ笑みは驚きへ変わる。


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