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山田 武

偽善者と赤色の紀行 その12



 金額は2億が出ようとも進んでいく。
 参加者は力を合わせて虹貨十枚分の額を集め、入札を行う。
 既に額は2億5000万を超え、まだまだ増えている。

 俺がカジノで虹貨五十枚を手に入れたことは知られている。
 ジャックポットの話など、カジノに居る客からいくらでも聞けるし、既にそう報告しているのを確認したしな。


≪4億アーカ! 4億アーカです!!≫


 ふむふむ、かなりの額になっているな。
 カジノで稼いだ金も既に底を尽き、先程の2億が限界だった。
 なのにその2倍、4億になるとは……。

『姫将軍』の表情は――『無』だな。
 完全な無表情になっている、しいて言うなら目のハイライトが落ちているが、奴隷にはよくあることだ。
 この場に彼女の関係者も交じっているんだが、購入する金が無いみたいだからなー。
 このままだと、5億を持っている大富豪か王族に飼われる・・・・ことになるだろう。


「――よし、終わりにしようか」


 少々の決意を籠めて、再び数字を入力していった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

(……無様なものだな。人の上に立って生きていた私が、今ではすっかり下の身分だ)

 その少女――ウィーゼル・フォナ・セッスランスは、会場のある一点を見つめ、舞台の上で独想する。
 家宝の剣を握って戦場を駆け巡り、魔物を切ることも兵士たちに指示することも……遠い昔のことのように思えた。

 目の前では、自分の商品としての価値を決める儀式が執り行われ、意思とは関係無く未来が決まっていく。

「4億1000万、4億2000万……!」

 金額は少しずつ、それでいて膨大な額に増えていった。
 1000万、それは虹貨一枚分であり、白つを立てれるだけの額である。

(全く、私にこれだけの金額を賭けるのならば、セッスランスの再建も可能なはずなんだがな……あの国が一枚噛んでいるのは分かっているが、少し悔しい)

 かつて、セッスランスという国があった。
 周囲に大量の魔力溜まりが溢れ、日々魔物の討伐追われるが故に武力が高まった――戦闘国家。
 彼女はその国の姫として、兵士たちと共に魔力溜まりから生まれる狂暴な魔物を討伐していった。

 ……だが、ある日それも終わる。
 防ぎきれない数の魔物が、今まで以上の強さで国を襲ったのだ。
 魔物全てが黒炎のような瘴気を纏い、理性や知性を消し飛ばしたような動きで暴れ狂っていく。
 命を厭わない突貫を行う狂乱の魔物を相手に、セッスランスは必死に抵抗した。
 だが、最後には首都を落とされ逃げ出すこととなる。

 彼女もまた、首都が落ちるその瞬間まで戦い続けていた。
 例え愛剣を手放そうと、例え率いる兵士が全滅しようと……最後の瞬間、自身の意識がある限りは戦っていた。

 彼女が目を覚ましたのは、首都が滅んでから数日後のことであった。
 彼女が軍備の剣を握ったまま気絶した姿を見つけ、元彼女の護衛がその場から運んだのである。
 彼女は見知らぬ掘っ立て小屋で、その護衛から全てを聞いた。
 ――自分たちが守ろうとした国は、既に存在しないことを。

(そしてあの日、アイツらが私たちに場所に現れた……今思い出しても最悪だ)

 彼女が奴隷となることが決まった日、それはつい先日のことである。
 何処で知ったかは分からないが、その者たちは彼女の居場所を突き止めた。
 人質を取った上、何重にも弱体化の魔法を掛けて彼女を弱らせて……その者たちは彼女の捕縛に成功した。
 当然だが、人質は解放されること無く彼女と共に奴隷としてこの場に連れてこられた。

(サリーナは……あの男に買われたのか。他の者たちも全員が全員、あの男が買った。あれだけの金を、一体どうやったのだろうか)

 ウィーゼルが見つめる先には、一人の男が座っている。
 鮮血のように紅い司祭服、見たことの無い方陣が描かれた首飾り、呼吸をする穴だけが開いた仮面を付けた赤髪の男……。

 全てを見ていたわけでは無いが、舞台裏でスタッフたちが話していた内容から、それを知った。
 そして今、彼女はその男を見る。

(……アイツらはあのような服は着ない。ということは、また別の神を信仰する者なのだろう。しかし、あのような正装をした者を見たことはない……どういうことだ?)

 彼女の言う『アイツら』の場合、服は白色で常に聖書と呼ばれる本を持ち歩いている。
 神を信仰する者たちは、それぞれの神々に祈るための正装をするのだ。
 ……だが、彼女は男の持つ物を一つでも身に付けた者に会ったことは無い。

(邪神教徒は黒いローブだったな。つまり、それでも無い。ならば――)

 スキルとは関係なく、優れた脳に命令して高速思考を行おうとすると……ある言葉にそれを止める。

「――アーカで、666さんが落札となりました! こんな額が出たのは、この場所に立たせてもらってから初めてだぞー!!
 おめでとうございます! 『姫将軍』は、これで貴方の物です!」

(やはりあの男が……金額は分からなかったが、億は超えていたはずだ。今までにも何億か使っていたはずなのだが……私は一体いくらだったのだろうか)

 彼女もそれが気にならないわけではない。 自分が男にとってどれだけ必要な奴隷だったのかが、金額で明確に分かるのだ。
 むしろ気にならない方がおかしいだろう。

 彼女がそうして物思いに耽っている間に、オークションは閉幕の言葉と共に終わる。

 ――そして、二人は正式に対面する。


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