AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤色の紀行 その05



「……疲れた。調薬技術までオウシュに求めるわけにはいかないし、何よりこればかりは人命に関わってたしなー」


 既に少年オウシュと別れ、俺は上空を彷徨う旅に出ていた。
 少年はいずれ、力に関することで苦悩するだろう。
 ……ただ、それは少年の力が有り余った故の悩みでは無い。


「……大体、何者なんだよ。最近はヒロインの方が強い作品も多くなってるけど、さすがにオウシュが可哀想なチートっぷりだったぞアレは」


 少年の救おうとした少女ナーラには、少年を遥かに超えた……まさに運命に愛されたとも呼べる力が秘められていた。


「タイプで言えば聖女系か? 一応聖属性の能力適性が一番高かったしな。この世界の情報があんまり無いから細かいことは分からないけど……まあ選ばれし者ってヤツだよな」


 あれか、NTRからの復讐パターン。
 少年が幼少期に絆を深めた少女が、選ばれし者たちとの冒険の間に情を育み、気付けばできちゃってました……的な?

 少年の器はいづれ育っていく物ではあったが、それでも早い内から目覚めるようなものではなかった。
 少年がある程度成長した頃にはきっと、少女は喰べられていただろう(意味深)。
 そして少年は憎悪の炎を心に滾らせ、悪魔と契約して……みたいな感じになるんじゃないか?


「ま、これはあくまで(未来眼)で想定された仮定の一つ。現実は大きく塗り潰されて、恐らくその未来が来ることは無い。少年が少女と共に歩めることを祈ろうか」


 少年には連絡手段を教えてあるので、悪魔に縋るようなことがあれば、先に俺の方へ縋ろうとするだろう。
 その際に少年が何を思い何を願うのか……将来へ期待だ。


「さて、次はどこに行こうか……あ、折角だし選ばれし者でも探してみるか?」


 少女の能力も解析してあるし、この世界の強者を調べてみるのもいいかも知れない。

 選ばれし者に対抗するよう、選ばれぬ者たちが誕生する。
 彼らの行動を抑えるために、選ばれし者たちが彼らと戦う……面白そうだ。

 少年少女は使わないが、他の奴らも特に縁が生まれなければ、やってみても構わない。
 机上の空論を実現させるためには、全員との接触を図らなければならない。


「やっぱり有名な称号で言えば……『勇者』とか『賢者』か? この世界に『魔王』が居るかも分かってないし、とりあえずはアイツに対抗する組織的な場所を探せばいいか」


 この世界で最も恐れられているもの……それは邪炎神であった。
 実際その恐怖は今でも残り、魔物の一部が邪炎神の炎によって凶悪な力を振るい猛威を示している。

 故に、この世界では邪炎神を敵視した組織がする――教会だとさ。


「かつて自分たちを見守っていた神様を貶める……地球は神への信仰心が薄いが、あるのも問題だよな。アイツはただ、世界の為に必死に働いてたっていうのにな。崇めてくれた教会が敵になり、愛すべき子供たちは皆自分へ敵意と憎悪、それに殺意を抱いている。実に救われない話だ」


 俺も眷属や国民からいきなりブーイングを浴びたら……あ、駄目。想像しただけでなんだか涙が……。
 俺はあくまで小さな範囲を守護しているつもりだが、邪炎神の場合は世界丸ごと自分を敵視している状況に陥ってしまったのだ。

 嗚呼、なんと可哀想な邪炎神様。
 本来は交わることの無かった瘴気まで身に取り込み、人々に尽くしてきた――その結果が、邪神として殺されること。

 実に滑稽な喜劇では無いか! 献身的な行いは当然とでも言うように切り捨てられ、少しでも自分たちに不都合なことがあれば、即座に掌を返すその行い。

 ――嗚呼、それこそが人間だ。


「人が愚かなのは、人である俺もまた良く分かっている。だけど、一部の人がそうでないことも理解している。邪炎神はそれを信じ続けている。俺は……どうしよっかな?」


 答えは見つからない。
 見つかったとしても、それだけが正解では無いだろう。
 ただ一つだけ分かるのは、何度も言ってきたことだけ――


「眷属たちと一緒に居られ続ける選択を……それだけは、忘れちゃいけないな」


 そう呟いた俺の言葉は、吹いて来た風と共に消えていった。


◆   □   ◆   □   ◆

 偽善者が去った村の中で、二人の子供が会話をしていた。

「オウシュ、本当に良かったの?」

「うん、ボクじゃあの人についていけない。あの人はきっと、ボクよりも……ナーラよりも大変なことが待ってるはずなんだ。このまま一緒に行こうとしたら、ボクはあの人の足手纏いになるだけ」

「……確かに、魔力の使い方も一流だったしね。ワタシも色々と調べてみたけど、全く分からなかったわ」

「ナーラでも分からない……やっぱり、凄い人なんだね!」

「……ええ、確かにそうなんだけど、もっと言ってもいいことがあるんじゃないの?」

「ご、ごめんナーラ。けど、いつか届いて見せるんだ」

「……そのときは、ワタシも一緒にね」

「うん、ずっと一緒にね」

 少年は少女の手を取り、指を絡ませるように繋ぐ。
 少女はそれを拒むことなく、繋がりを感じるようにギュッと結ばれた手の温もりを意識していく。


 偽善者の予想は大抵が外れる。
 マイナスの予想は当たるのだが、自分に関わることを当てるのがかなり下手であった。

 そしてまた、偽善者は自身のミスに気付かずに村を出て――未来を外すことになった。
 自身の持つ導士の力が、いつの間にか少年と少女を導いていたことに気付かずに。


「AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く