自称偽善者は電脳異世界に揺蕩う(旧:AFO ~(自称)偽善者のVRMMO(?)記~)

山田 武

偽善者なしの水着イベント後半戦 その14



 不思議な感覚、少年はそう感じた。
 今まで視認することも苦労した陽炎の姿ははっきりと映り、死角を突かれた暗器の射出にも余裕を持って対応ができる。
 何より、疲れを感じなくなった。

 試しとばかりに放たれた暗器を、最低限の動きで躱しながら思う。

「今の俺なら、お前にも勝てる」

「……調子に乗るな。あの方の力を、そう容易く使いこなせるはずが無い……」

「かもしれない……だが、それでもやってみない限り、お前には届かないんだから仕方ないだろう。――俺は強くなる。もう復讐なんてもののためじゃなくて、俺を信じてくれたコイツ相棒のためだけに、だ」

 少年の腰には、今も剣が携えられている。
 だが、それはただ黒い鞘では無く、白色の意匠が施された物に変わっていた。
 ゆっくりと引き抜いたその剣は、鞘同様に黒と白の二色で輝く剣身を魅せている。

 少年の力は、ここで成長したのだ。
 復讐しか考えられなかった心には、新たな感情が加わる。
 少年はその感情を、恩返しだと感じた。
 それが本当に恩返しか、それを確かめる方法は無い。

 しかし、確かに正の感情を強く想い、その願いに剣は応えた。
 少年の持つ魔剣は聖魔剣へと昇華し、少年の身体を陽炎と闘えるまでに強化している。

「言ってくれたんだ、俺が何をしようとも手伝ってくれると。俺は信頼に応える。だからこそ、お前は俺に敗れる。コイツが信じて、俺がやると決めたんだからな」

「……ならばやれ。お前が口で何を言おうとも、コイツは刻一刻と衰弱しているぞ……」

「ああ、分かっているさ。すぐに終わらせてやるよ!」

 そう言った少年は、自身の体を靄へと変換して高速移動を行う。
 たった今理解した、聖魔剣の力の一つ。
 闘いの中で学んだ力を振るい、陽炎との決着をつけるために動いた。

◆   □   ◆   □   ◆

 キーンと甲高い音が鳴り響き、辺り一帯に木霊する。

「――これで、終わりだ」

 少年は剣を突きつけ、陽炎に告げる。
 激しい衝突が何度も繰り返されたが、何度も覚醒していく少年の力は、次第に陽炎を圧倒していった。
 そして今、闘いに終幕が訪れる。

「……ふっ。やはりあの方の期待通り、お前はここまで達した……」

「最後に一つ訊く、あの商人は一体何者だ。相棒を寄越したのもアイツだし、お前を俺の元に送ったのもアイツ。……お前は、アイツの何を知っている」

 少年の思考はそこに到達する。
 復讐の念に囚われていたかつてでは、気付くことのできなかった事実。

 何故、自分はあの商人に認められたのか。
 何故、数あった武具の中で相棒ルヴァンを寄越したのか。
 何故、陽炎にこんなことをさせたのか。

 ――そして、何故そのことを今まで一切気にしていなかったのか。

「……お前にそれを教えるつもりはない。ただ、一つ誤解を正した方が良さそうだ……」

「何?」

「……お前の会った商人は、あの方の持つ駒の一つに過ぎん。あの方について知ろうとするということは、世界の闇に触れるということになる……」

「……ハ? おいおい、夢物語は夢の中で見てくれよ」

「……嘘のように聞こえるだろう。だが、これは事実だ。それでも、お前は知ることを望むのか……」

 陽炎は少年に向けて、そう告げる。

 それを聞いた少年は、陽炎に――突き出した剣をそのまま差し込んだ。

「……クッ! そうか、お前は、その道を選ぶ、のか……」

「……アイツに伝えておけ、どうしてお前は俺に関わろうとしたか、それを訊きたいってな。それ以外はどうでもいい」

「……分か、った……」

 陽炎は少しずつ小さくなる声で、そう言って消えて逝った。
 体から燐光を放ち、崩れるようにしてこの場から去る。

 それと同時に、少年もまた全身から力が抜けきって倒れ伏す。
 回らなくなった舌を懸命に動かして、自分に理解させるように小さく声を漏らす。

「これで、リッドは、無事だ、よな」

 消えた陽炎が居た場所、リッドが倒れている場所を霞む目で見ながら――少年は地面に倒れ込む。
 最後に少年が見たものは、地面に描かれた魔方陣が、破片となって宙に消えていく瞬間であった。

◆   □   ◆   □   ◆

 陽炎との闘いに、少年は精魂を果てるまで消費した。

 本来であれば、長い年月を掛けて成長させていく魔剣の成長。
 自身のエネルギーを消費することで、少年はそれを急速に果たしたのだ。
 ただでさえ――魔剣の頃でさえ命に係わる程に危険な行為を、聖剣の性質を併せ持つ聖魔剣にて少年は行った。

 その結果、既に少年の身体は限界を超えた活動をしていた。
 陽炎が消えたことで気が緩み、少年の体は失ったエネルギーを補填するため――意識を強制的に遮断するしたのだ。

◆   □   ◆   □   ◆

「……今更なんだけど、これって水着でやることなのかな?」

 その場に居る者全てが倒れた空間に、新たな人物が現れる。
 若葉色の髪を持つ半透明な少女。

 彼女は地面に足を付けずに、宙を滑るようにして彼らの元へ移動する。

「■■■■も、どうしてこんなことをしたんだろう。魔剣の解析……だっけ? この子が言ったことも、さっきの人が言ったことも、自分が居る限りは何もさせないのに」

 自身の力を振るって周囲に樹木を生み出すと、彼ら全員の体に巻き付けていく。

「力に驕って他人を傷付ける人も。力が無いと自分を恨むフリをして、結局他人を傷付ける人も……実に嫌だね。長い物に巻かれて生きるからこそ、そうした考えが生まれるんだよね。うーん、一部は■■■■にも当て嵌まるはずなんだけど……これが惚れた弱みってヤツなのかな?」

 樹木を操って運んだ彼らに、用意したポーションを振りかける。
 すると、ボロボロになった彼らの心身全てが、目に見える範囲で回復する。

「あとは■■■■も交えてやるんだよね? なら、私はその後にご褒美を貰いに行こー」

 少女は最後にそう言って、この空間から出ていくのであった。


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