AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしの水着イベント後半戦 その11



 ――そして、勝負は一瞬で済む。

「……つまんねぇ。俺はこんな奴に、今までやられてたってのか」

「……けんな。……ざけんな。ふざけんじゃねぇぞ! どうせチートでも使ったんだろうが! テメェが、テメェみたいな雑魚が調子に乗ってんじゃねぇえええ!」

「威勢だけはいいよな。いつもいつも、お前らはそうやって、ウザいテンションでやってくれたっけな!」

「ぐぇっ!」

 少年は黒い剣を鞘に戻し、グラムの顔を踏み付けて見下す。
 殺気だった獣のように呻きながら、グラムは少年に罵詈雑言を叫び続けた。

 しかし、そんな意味の無い言葉など聞き入れられることもなく、少年は吠え続けるグラムを蹴り飛ばし、沈黙を促す。

「さて、そろそろお前にも本格的な復讐をしていこうか。腕、脚、目、口……一体どれがいいんだ?」

「……ハ? ――グギュッ!」

「ハ? じゃねぇんだよ。早く選べ」

「わ、分かった! ……あ、足だ!」

「なら、脚をっと!」

 グラムがそう答え、少年が応えた。
 すると、頭上からかチャキンッという音が聞こえる。

 グラムはその音が聞こえた場所へ顔を向ける……そこには、黒剣の柄を握る少年の姿しか見えない。
 一体何が起こったのか、それが分からないでいると……少年が嗤いながら伝える――。

「おい、足元を見てみろ……おっと、もう脚は無いんだったな」

「え? ……え……ぎゃ……ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!」

 グラムの脚は、太ももから先が切り落とされていた。
 切断部には黒い靄が掛かり、光の流出継続ダメージを防いでいる。
 しかしその痛覚ははっきりとグラムの元へ届けられ、泣き叫ぶことになった。

「ポーションを飲めよ、これで斬られた分のダメージは無くなるだろ」

「もがっ、おぼぼぼぼぼ……!」

 無理矢理口の中に苦いものを注ぎ込まれ、グラムはそれを吐き出そうとするが――。

「おい、しっかり呑み込めよ。呑み込まないなら、今度は目玉を刳り貫くぞ……丁度あそこにいるアポロ君のように、な?」

「~~…………!! (コクコク)」

 口の中で感じる苦さに耐えながら、どうにかそれを嚥下していく。
 それでも粘っこいポーションが口内に残っているのか、気持ち悪い感覚がどうしてもグラムを不快な気分にする。

 少年がグラムに呑み込ませたのは、ライフポーションに一部手を加えた物。
 製作者の悪意からか、白くて苦い、ドロドロとする液体――いわゆる白濁液であった。
 悪意のあるポーションなのだが、飲む前に回復したいものを指定すると、それだけを回復させるという異常な性能を誇るため、裏では知る人ぞ知るレア物だ。

「ほら、これでHPは満タンだ。ストックは幾つかあるからな。アイツらの分は残念ながら足りなかったが……お前のためなら、全部使う気でいるから安心しろ」

「――――ッ!!」

 これから自分の身に起きるであろう復讐。
 遠くでそれを果たされた者たちが転がる現状は、グラムの精神に酷く影響を与えた。
 自身の立場を認識せず、喚いたところで少年のすることに変化は起きない。

 ただ屠殺場に並ばされた生き物のように、少年の気分で死を待つ運命。
 心の脆い者ならば、全てを諦めて方針をするか笑い出すかするだろう。

 だが、今まで苛める側で快楽を楽しんできたグラムに、そんな考えは生まれなかった。

「て、テメェは、テメェは俺に黙って苛められてりゃあ良かったんだよ! 現実でも、このゲームでも、テメェは俺の憂さ晴らし用の玩具なんだよ! 俺は偉い、テメェはクソ。なのに一丁前に逆らいやがって!」

「…………」

「し、知ってるぞ。テメェはアイツに惚れてるんだろ。もし、俺やアイツらを殺したなんてアイツが知ったら……お前は一生アイツに好かれねぇんだぞ!」

「……なんだ、辞世の句はそれでいいのか」

「こ、ここにアイツが居ない時点で、テメェの甘い考えなんて分かるんだ! 誰もいない場所で俺たちを殺して、アイツにはバレねぇようにするんだろ? な、ならもう俺たちは反省したんだ。さっさと解放しらぁああああああああああああああああああああああ!!」

 グランは突然、全身を桂剥きされたような痛みに苦しみながら叫ぶ。
 少年はその光景に、少しため息を吐いて理由を説明する。

「……嘘が分かるって言っただろ。それに、アイツはどうでもいい。ただアイツは何もしていなかった、だから復讐の対象に入れてないだけだ」

 少年はこのゲームで、六人パーティーを組まされていた。
 しかし、この場に居るのは少年を含めても五人――そう、一人足りないのだ。

 この場に居ない最後の一人、それは彼らのパーティーで回復を担当していた少女だ。
 現実での少年への苛めにも加担せず、むしろそれを止めるよう彼らに何度も注意を働いていた。

 それ少女これ復讐は関係ない、と主張する少年。
 実際どうなのか、それは少年にしか分からないことである。

「――もう、終わりにしようか。お前は心を入れ替える以外の選択肢は無い。そのまま足掻くなら……死ね」

 これ以上言うことは無い。
 少年はそう思い、剣を再び抜く。

「さぁ、出番だぞ『ルヴァン』。お前が俺にくれた力を、誓いを、願望を、今こそ全て使おうじゃないか」

 黒い靄が鞘から漏れ出し、少年以外を包んでいき――体の自由を奪う。
 口も自由に動かせなくなり、グラムは必死にもがくが、変化は何も起きない。

 少年は、今までで最も昏く口角を上げ、これから始まる復讐劇を楽しんでいった。


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