AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と水着イベント後半戦 その06
プレイヤーたちが屋台サイズの出店しか出せない状況で、海の家『庵楽』は建った。
その時間、およそ1秒。
建物ごと空間を圧縮しておき、必要に応じて直ぐに取り出せる技術――要はホ°イホ°イカフ°セルであった。
そんな西の都でコーポレーションが作っていそうな物のパクリにより、予め用意されていた海の家は突然イベントエリアに出現したのである。
「……ん? こんな所に海の家なんてあったかな……いや、無いだろう」
運営が用意した建物もある。それこそ、海の家だって用意されていた。
そこでは、イベント関連のアイテム(素材は除く)が最低限の質で販売されており、どうしても手に入らなかった物を手に入れるため、プレイヤーはそこへ足を踏み入れる。
……しかし、装備であれば最低限の装備スキルしか持たず、料理の場合は味がしない。
より良い物はプレイヤー自身に作らせる、そのためにできた仕組みなのである。
まあ、そのため店に行くのは、プレイヤー同士の売買が行えない者や、とある目的を抱いた者だけなのだが。
さて、話を戻そうか。
とあるプレイヤーが見つけた海の家、本来そこには何も無いはずであった。
しかし、確かにそこに、海の家は建っているのだ。
(……遂にプレイヤーでも海の家が立てられるようになったのか。どっかの大手生産ギルドの仕業だと思うけど、なんでこんな場所に建てたんだ?)
そのプレイヤーは、そう考えながらも海の家に入っていく。
何も分からないなら、確かめてみれば良いのだから。
そう思い、中に入ると――。
「い、いらっしゃいませ! あ、『庵楽』へようこそ!」「……ようこそ」
(ロリ店員キターー!!)
そこでは、店の正装らしき軽装をした少女たちが客を迎えてくれた。
それから少しずつ客は増えていき、海の家は満員御礼千客万来の盛り上がりを見せる。
「えっと、いらっしゃいませ! 料理をお求めの方は右側へ、その他の物の場合は左側にお願いします!」「……しっかり並ぶ」
入り口ではまず、幼い姉妹が客を迎え、誘導を行う。
フリフリの付いたエプロンに手を添え、お辞儀をして一人一人、丁寧に並ぶ場所を教えていった。
海の家『庵楽』では、高品質の料理は勿論のこと、ある程度質の高い水着も販売されている。
なので、販売場所もそれぞれ別々にして、混雑を最小限にする工夫が施されていた。
料理はその場で作るのだが、その他の物は外部受注によって用意されている物を販売している。
そこで、そちらは注文票に指定のコードを記して店員に渡すのだが……今は、置いておくことにしよう。
料理を食べるためにこの店を訪れ、右側に並ぶ客が次に見るのは――。
「どうだー! 美少女であるこのあたしが作る料理の数々は!」
「……もうちょっと静かにやれないの?」
「無理無理ー! ■■■が居ないから色々とテンションが壊れたー!」
「……まあ、料理が作れていればいいわ」
二人の料理人による華麗な調理であった。
衛生面の問題を全て解決するエプロンを身に纏い、包丁、フライパン、鍋、鉄板を使い料理を行っていく。
そうして繰り広げられる厨房を、男女問わず注視していた。
男の大半は、その料理を行う者たちが美少女であったから。
黒髪と深緑色の髪の少女が、自分たちのために料理を作ってくれている……その光景を見た者達たち、大量に料理を購入することを決断するのだ。
女の大半は、その料理の数々が自分たちでも作れるかを調べるため。
彼女たちは、ただ普通の料理を作る。
ありふれた食材とイベント限定の素材を、何処にでもありそうな調理器具(少し大きい)で混ぜ合わせるだけ。
――それだけなのに、出来上がった料理は高品質の物だけである。
だからこそ、どうすればそうなれるかと羨望し、ジッと見つめるのだ……女子力アップのために。
「はい、こちらがメニューとなります。念の為にご説明しますが、料理は複数摂取したとしても、最後に食べた料理のバフしか付きません。高品質の物となると、持続時間もかなり長くなりますので、どれを頼むかをしっかり確認してください」
「――以上の品でよろしいですか? はい、畏まりました。合計――――Yとなります。ありがとうございます。では、こちらの番号札をどうぞ。料理が完成しますと、料理と自動的に交換されます」
その先では、二人の少女によって料理の販売が行われていた。
蒼銀と白色の髪の少女は、どちらも無機質な表情でテキパキと客を捌いていく。
料理によるバフは、それに対応したスキルが無い場合、制限時間を過ぎるまでは一つの料理のバフしか受け取ることができない。
料理ごとに定められた時間を過ぎるまではバフが続くが、それ以前に料理を食べることも可能だ。
だが、そうするとバフの効果が上書きされてしまい――最悪の場合、食べ合わせによってデバフが掛かってしまうこともある。
デバフについてはさておき、彼女たちの活動の説明を続けよう。
代金を料金箱の中に支払った客は、刻印が彫られた一枚の木の板を貰う。
その刻印は魔方陣となっており、先程挙げた料理をする少女たちが、対応した魔方陣に料理を乗せることで、木の板と料理が入れ替わるようになっているのだ。
店の中で待ち時間を過ごす必要が無くなることで、客回転率が上がる。
それによって『庵楽』は、少ない店員の数でも、大量の客を受け入れられているのだ。
……決して、オーナーの「商品を渡す前に客と接触させたくなかった」などという理由では無い(木の札は、料金箱に代金を入れた際に出てくる)。
こうして、『庵楽』は沢山の客が訪れる店となっているのだが――時々、面倒な客が訪れることもあった。
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