AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と水着イベント後半戦 その04
「茨姫……未だに見つかっていなかったが、いつの間にか童話クエストが攻略されていたのか」
「いいや、ぼくのクエストは始めから存在しない。神に願わなくても、希望は叶うんだからね」
「何を言って……」
少女は茨を操り道を造り、イルカの元へと移動する。
プレイヤーたちはそれを止めない……正確には、止めることができない。
彼らを狙うように、鋭い棘を生やした茨が周囲に生え始めていたからだ。
(え? な、何故こっちへ)
「お、お前は一体」
「レイドモンスター、クリスタルドルフィンで間違いないかい?」
「あ、あぁ」
「ならよかった。ぼくも大まかな指示しか聞いていなくてね、■■■の記憶にあるイルカに類似した君に、とりあえず確認してみることにしたんだよ」
(というより、何故話せている。祈念者では話せないはず。だが、奴らとの会話が成立していたということは、自由民である可能性も低いであろう)
イルカはそのような疑問を抱えていたが、その答えは簡単である。
そもそもクリスタルドルフィンが使っているのは、魔物独自の言語でも人族の言語でも無かった。
――幻獣語。
聖獣や魔獣などの高位な知性を有する人外が話す、特殊な言語である。
幻獣語は条件を満たせばプレイヤーでも習得できる……が、その条件があまりに悪辣なため未だに習得できた者はいない。
しかし、幻獣語に関するスキルを持たずとも、幻獣語を話す方法はある。
それは、幻獣語と言わずありとあらゆる言語を話せるようにすることだ。
要は、話せるから話しただけであった。
「ほら、とりあえずはこの丸薬を呑んでほしい。体力を回復する物だよ」
「……わ、分かった」
何もかもが理解できないが、逆らった際に起き得ることを予想して、言うことに従う。
差し出された固形状のポーションを口の中に含み、そのまま呑み込む。
すると、イルカの肉体が受けた損傷全てが癒えていき、一瞬の内に全快する。
『……なっ!』
これにはプレイヤーたちも驚きであった。
今までに与えたダメージが、無かったことにされる。
なまじイルカのステータスが見えるので、そのショックは計り知れないものだ。
そんなプレイヤーたちのことは無視したまま、イルカと話す少女。
「お前の……目的は」
「彼風に言うならば――ただの偽善だよ」
「偽善、だと」
「偽善も捨てたものじゃないのさ。君が願ったのは救援、間違いないかい?」
「そ、それは……」
「構わないよ、君はそれを断っても」
だが、そう言って少女はプレイヤーたちの方へと振り返る。
「――ぼくはそれと関係無く、君たちを全員死に戻らせるけどね」
「何故、何故そんなことを……自由民にとっても、奴らは害悪ではないのか」
「ぼくたちにそんな境は無いのさ。魔物であろうと人であろうと……■■■にかかれば、誰であろうとどんな存在だろうと同じ扱いになるんだよ」
「そうか、世界は広いようだな」
茨によって磔にされたまま、トウリョウは少女にそう述べる。
――既に決着はついているのだ。
少女がイルカと話をしている間に、プレイヤーたち全員が茨によって捕まっていた。
武器は破壊され、魔法は吸収され、どんな攻撃も傷を付けたと思えばすぐに再生する。
そんな状況に諦めを感じた者から、鋭い棘に体を突き刺されて縛られていく。
最後には諦めなかった者ですら、何重にも四肢を棘で括り付けられて動きを止めた。
「君たちは何度でも蘇る。だからこそ、君たちはぼくが居ようと居なくとも、この場所を狙い続けるだろう?」
「そうだな。それに、例え俺たちが諦めたとしても、必ず別の者がこの場に来るだろう」
「方法は幾つかある。だけど、それは許されないものが多い。だからぼくが選ぶのは――ぼくが居る限り、この場を守ることだよ」
「……守り切れるのか。この場を、祈念者全てを敵に回しても」
「大丈夫さ。祈念者全員が相手になる可能性は、皆無だからね」
「それは、どうい――」
グチュッという音と共に、茨がプレイヤーたちの肉体を絞った。
体の至る所から粒子が噴出し、この場からプレイヤーは退場することになる。
状況が分からないイルカは、ただ目を右へ左へ動かすだけだ。
少女はそんなイルカの姿に苦笑した後、再び話を行う。
「えっと、それじゃあ君との話し合いに戻ろうか。ワケが分からないと思うけど、とりあえず事情を説明するよ」
「……頼む」
少女は、イルカに向かって自身の経緯を説明していくのであった。
◆ □ ◆ □ ◆
「リア―、状況はどうだー?」
移動した先では、リアとイルカが話をしている場面に出会した。
『丁度さっき、プレイヤーを追い出したところだよ。今は説明中さ』
「そうか。あ、俺が彼女の言った偽善者だ。プレイヤー……じゃなくて祈念者だが、今はお前たちレイドモンスターのお手伝いの真っ最中だぞ」
『……何故、こちらへ手を差し出すのだ? 魔と人は相見えぬはずだ』
魔獣であるこのイルカが言うと、それもよく分かるな。
今の世でも、それぞれ互いを滅すべく活動する者が多い。
無邪気な子供ですら、一方を悪と考えて倒す遊びを提案できる程だ。
――人族の子供は魔物を悪と習い、魔物の子供は人族を悪と習う。
それは、互いが互いを知らないから生まれる考えだ。
共に過ごし理解を深めれば、そのようなことは生まれ辛い(断言できないのが、少し残念であるが)。
まあそれはともかく、イルカの質問に答えるのは簡単だ。
俺にとって、陳腐だが重要な理由でもあるのだから。
「それは――俺自身が、分かり合えると信じているからさ」
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