AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と水着イベント前半戦 その09



「あ、ただいまー」

『メルス! 無事であったか』

「おお、普通にGMが居る場所だったぞ」

『……そうか、本当に良かった』


 あの空間から戻って来た俺を、クエラムは顔を晴れやかにして迎えてくれた。
 それはまるで、忠犬が飼い主を見つけた時のような光景であった。

 ……うん、とても感動的なシーンだろう。
 クエラムの体の至る所に、ベッタリと血が付いていなければ、だけれど。
 未だに四足歩行の獣状態なクエラムだが、聖性を感じる柔らかな獣毛が残っているし、聖獣(?)と言えるような姿は保てている。

 主に、武器として使った部分に血が付着していた。
 爪や翼、尻尾や――口など。
 ……獣人状態になったら、絵面的にかなり猟奇的なものになっているよな。


「なあ、あの後何があったんだ?」

『己がフラグを言った後か? あの後は、そうだな……ただただ魔物と戦い続けた。途中で魔方陣が消えるまで、それが終わることは無かったぞ。――爪を立て、翼を打ち、尾を払い、牙を刺し……最後に一番強そうな奴に息吹を浴びせようとしたところで、魔方陣が消えたのだ』

「――すまないな、止めるのは俺の方でやったことだ。なのに、クエラムを必要以上に闘わせてしまっていたみたいだ」

『いや、然程強い相手はいなかった。己らにとっては赤子を捻る程度であったぞ。どのような魔物を倒したかは……リストを見れば分かるのではないか?』

「……あ、そういえばそうだな」


 眷属たちには、魔物を『Wifone』にできるだけ仕舞うように頼んである。
 そのため収納アプリを使えば、何をどれだけ仕舞ったかが分かるのだ(非公開にすることもできる……男には、秘密の隠し場所が必要な時もあるのさ)。

 早速マイ『Wifone』を取り出し、クエラムがさっき収納した物を調べていく。

 すると、そこには――


「……あの、クエラムさん」

『む、何かメルスの興味をそそれる魔物がいたのか?』

「うーん、確かにいたと言えばいたんだけどさ……天使の素材ばっかりだな」


 熾天使はいないものの、智天使ケルビム座天使スローンズ、そしてそれ以下の階級の天使が大量に収められていた。


『ただの傀儡であったぞ。何も映さぬ無機質な瞳。アレはもう、己では何もできなかった故――全て壊した』

「……その、大丈夫か? テンションに任せてクエラムにやってもらったけど……フラッシュバックとかは無いよな?」

『ん? 特にそういったことは無いが』

「そ、そうか。それは良かった」


 かつて、クエラムは操られていた。
 そうして故意では無いとはいえ、都市を滅ぼしかけた経験もある。

 俺としては、クエラムが大量の天使を殺したことで、それを思い出してしまうことを恐れていたんだが……大丈夫みたいだな。


『……メルス。お前まさか、己がティルエの国のことを引っ張っていると心配してくれていたのか?』

「うぐっ……な、なんのことかな? お、俺はただ、フラッシュ……そう! フラッシュモブをやった方が良いか訊こうと思ってたんだよ! ほ、ほら、こんな感じでやってみたら盛り上がるんじゃないのか?」

『メルス……』


 嗚呼、もう完全にバレてますやーん。
 共に過ごした時間がそうさせたのか、全員がそれぞれ俺の癖を見抜いているらしい。
 そして、一部が眷属間で共有されている。

 え? 何が言いたいかって?
 本気で吐きたいと思わなければ、俺の中途半端な嘘なんて見破られるってことだよ!


『いいか、己だって切り替えはつくのだ。確かに己は眷属の中でも優しい方だと自負している。だが、それでも家族のためならば同情の一つや二つ、切り捨てるさ』

「く、クエラム!」

『むにゅうう! め、メルス! 己はまだ、血塗れなのだぞ! や、止め……』

「いやー、嬉しいなー。うんうん、クエラムが優しいのは分かっているけど、そうした覚悟なんて中々口に出してくれないからさー。そっかー、みんなのための覚悟ねー。やっぱり家族のためって言葉は、偉大だよなー」

『あぁっ……、んぅうう』


 精一杯の俺を言葉を伝えるためには?
 そんな問いの答えを、体で表現してみた。
 持て得る限りの力を使って、クエラムの体に頬を擦り付けるように撫でていく。
 クエラムに付いた血が体に染み付くが、あとで(生活魔法)を使えば一発で洗えるから構わないさ。

 それより今は、この抑えられない衝動を解き放つべきだ!


「――クエラム、ありがとう! 俺、やっぱりみんなが好きだな! クエラムのことも好きだし、アイツらみんな好きなんだ!」

『こ、このタイミングでぇ……、そ、それを言うのかぁ!?』

「んー、言いたくなったしな。お前らが家族になってくれた。今まではそれだけで満足してたんだ。……だけど、それじゃあお前たちは満足できないんだろう? それでも俺は、お前たちに手を出そうとは思わない」

『……ぅ、……んっ、……ぁぁ』

「でも、口は出せるからさ。みんながそういうことを嫌がらない限りはさ、なるべく言ってみることにするよ。心の声もだだ漏れなんだし、隠しても無駄だしな」

『……うぅ、メ、メルスぅう。も、もう体を出しているではないかぁあっ』


 ご尤もなご意見で。
 でも、これはあくまでボディーランゲージの一環さ。
 それに、もっとストレートに言えば出さないのは手じゃ無くて『ボウ』だしな。

 多分だが、今の俺は【色欲】状態に入っているのだろう。
 どうしようもなく眷属たちが愛おしく、獣人状態のクエラムに抱き着きたいという衝動が体の中で渦巻いている。
 それでも抑えられるレベルなので、どうにかそれを抑えて別のことで体の衝動を発散させているってワケだ。

 その状態では瞳色が紫になるらしいので、まさに今の俺は――目を疑うってわけだな。

 ……はい、つまらないジョークでした。



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