AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と水着イベント前半戦 その06



 暫くの間モフモフしていると、クラーレとシガンが俺の元に来る。
 そして、当然ながらクエラムに気付いた。


『……あれ? メルちゃん、その子はどうしたんですか?』

「この子は、私の家族だよ。見てみて、可愛いでしょう」


 今のクエラムは子犬サイズである。
 ぬいぐるみのような愛らしさが相まって、とてもキューティーの見た目が彼女たちの視線を奪っていた。


『家族……従魔ってことかしら?』

「家族は家族だよ。全く、シガンお姉ちゃんは変なことを言うね~」

『……そういうものかしら』


 ちなみにだが、当初は眷属を従魔にしていた俺だけれども……職業がクビになった影響なのか、従魔は一度全てリセットされた。
 更に言えば、(召喚魔法・偽)があるのでもうする必要も無い。

 ……よくよく考えて倫理的にどうなんだろう、という観点からも止めようと思った。
 魔物状態の者しかいなかった時ならともかく、今の(見た感じ)ハーレム状態でそんなことをしたらアウトだろ。


『名前はなんと言うのですか?』

「――ヒメーレだよ」

《……そうなのか?》

「(偽名だよ、偽名。クエラムって、とある国ではそう読むこともあるんだよ)」

『ヒメーレ、ですか』

「うん。ヒメーレはね、とっても賢いんだ。例えば……ヒメーレ、火炎放射!」

 シュポッ

「続いて……冷凍光線!」

 ピーッ

『なんというか……ショボい、わね』

「ふっふーん、これはあくまで世を忍ぶ仮の姿なんだよ。ますたーたちも、私をただの子供と思うようにね」

『『(絶対に思えない!)』』

《……思ってなさそうだな》

「(いやいや、メルの姿は眷属達に見せた時と一緒なんだし……普通の娘だろ?)」

 クエラムは現在、俺の魔方陣によって弱体化しているのだ。
 なので口から出した二つの技も、実際よりも弱い状態であった。

 実際なら……効果音も『ズドドドドッ!』とか『ピッキィイイイイン!』とかになっていたんだけどな。



 さて、クエラムの紹介も終わり、話は彼女たちのこれからの予定へと移行する。


『メルちゃん、わたしたちはこれから本格的な探索を始めようと思います』

『本当にピンチになったらクラーレに頼んで呼んでもらうけど……構わないかしら?』

「うん、大丈夫。あ、でも、面白い場所に行けた時も呼んでね」

『はい、メルちゃんだけを仲間外れにはしませんよ』

『メルが断らなければ、うちのギルドに入ってほしいぐらいよ。……ねぇ、やっぱり入ってくれない?』

「ゴメンね、嬉しいけど……私には、私の居るべき場所があるから」

『そう……いつでも歓迎するから、入りたくなったら言ってちょうだい』

「うん、分かった!」


 まあ、この後クラーレたちは、装備をしっかりと整えてから海の散策をしにいった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……あのさぁ、クエラム」

 モフモフモフモフ

『……ん、ぬぅ。ど、どうしたの……だ?』

 モフモフモフモフ

「これから、クエラムはどうしたい? 折角こっちに来たんだし、やっぱり遊びたい?」


 一旦撫でるのを止め、それを確認する。
 ……前に一度、クエラムと一緒に旅をする約束をしたしな。
 それとは別カウントだが、一応訊いておくことにした。

 クエラムは荒い息を整えてから、それに答える。


『そうだなぁ……己としては、メルスと空の散歩をしてみたいが……駄目、だろうか?』

「空? どうして空なんだ?」

『うむ。図書館にあったからな、大空に翼を広げて飛ぶと言う歌が』

「……あぁー、自由な空が良いのか?」

『メルスの世界の空でも構わないのだが、あそこにはメルスの魔法が展開されていて……その、色々と気になってしまうのでな』

「…………よし、それじゃあ行こうか!」

『おお、助かるぞ!』


 光球が眩し過ぎるってことだろう。
 強者は感覚が敏感なのが多いからな、多分クエラムも滅入ってしまうんだな。


 瞬時に『パーティエンスブーツ』を履き、宙を踏むイメージをして一歩踏み出す。
 すると、足は地面に着くこと無く、宙に視えない何かがあるように停止する。
 それを何度か繰り返していると……いつの間にか、空を歩いているって寸法だ。

 クエラムは背中に翼を生やし、それをはためかせて空を舞う。
 ――しかし、その翼はかつて見た悪魔の翼では無かった。

 今回は……炎龍の翼か。
 赤色の世界で大量に拾っていたし、空を飛ぶならやっぱり龍の無難な翼だな。

 俺たちは、それぞれの方法で空を舞う。
 姿は見えないようにしているから、プレイヤーたちがそれに気付くことは無い。
 羽撃はばたく音も臭いも、魔力を使っている反応も消してあるので、感知系のスキルも通用しないぞ。



 そうして一体、どれだけの間上を目指したのだろうか。
 足元の島は豆粒程の大きさにしか見えず、人がゴミのようだ、なんてもう言えない。
 ……いや、ゴミよりも小さいんだしな。

 俺とクエラムはその間、ゆっくりと話しながら進んでいたんだ。
 別に、急ぐ旅でも無いんだしな。
 二人っきりの時間を楽しむのもまた、旅の一環って言う気がするし。

 ――そんな俺たちだが……現在、一つの問題に陥っている。


「……すまないな、何も無い場所を目指すはずだったのに」

『いや、何かあるのが旅というものだと把握している。ならばこれもまた、旅の一環になるのではないか?』

「そう、なのかな。……まぁ、クエラムがそう言ってくれるなら別に良いか。それより、どうする? ――この扉」


 扉に縁でもあるのだろうか?
 目の前には、透明な扉が置かれていた。
 俺たちを歓迎するかのように、薄らと光っており……いかにも怪しい。

 さて、どうしたものか?



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