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山田 武

偽善者と水着イベント前半戦 その02



「そ、それよりイベントを楽しもうか!」


 ミシェルには、一度戻ってもらった。
 ……何度も言うが、眷属達は傾国の美貌の持ち主である。
 その美しさは並みの者では抗うことのできない魅了の力を放ち、盲目的に平伏させるだけの色香を持つのだ。
 俺は【強欲】だからな、独占できるものならば独占していたいさ。

 そんな態度は彼女たちも、ノーセンキューだったわけだが……それでもこの世界がただのゲームだと思い、こちらの世界の者たちに狼藉を働こうとする者がいる、彼女たちに何が起こるか分からない。

 俺はそんな展開を防ぎたい。
 亭主関白では無いし、そもそも眷属の方が色々と優れているから『かかあ天下』という言葉の方が似合っているだろう。

 ……って、そこじゃない。
 恐れているんだよ、俺の手から眷属達が離れていくのを。
 いつか来るであろう、そんな未来を。

 ――嗚呼、愛とは何なんだろうな。


《愛は後からでも追い付いてくる。それより今は、愛を育む準備をするべき》

「読まないでくれ、恥ずかしくなるから」

《ふふっ、やーだね。嫌ならメルスが本心を出してよ》

「出せないと分かっていて、それを言うか」


 前向きになってくれるのは嬉しいが、積極的になってほしいということとは別件だ。
 ……やれやれ、また強敵が増えたよ。


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 さて、今更が今回のイベントの内容を発表しよう(ちゃんと把握してるぞ……俺も概要だけは聞かされたからな)。

 水着イベントなので、まずプレイヤーには水着の着用を義務付けられている。

 イベントが始まる前、型を選んで水着を作るアイテムが配布されたらしい。
 一度だけしか使えずデザインもシンプル、唯一色だけ自由にできるみたいだが、そんな部分だけ自由にされても、ファッション性を求めるプレイヤーたちの飽くなき【強欲】を埋めることは不可能であろう。

 と、いうことでイベント内で水着を作るのに必要なレシピ、素材、スキルを手に入れなければならない。
 品質の高い水着を作れば、後に行われるイベントを優位に進められるとのことで、廃人も水着に拘っておりますよ。

 ……あ、俺は例外だぞ。
 毎度御馴染み(生産神の加護)様のお蔭で、水着であろうと宇宙服であろうと何でも作成可能だしな。

 前半は水着作りがメインとなり、後半でそれを用いた別のイベント――そんな感じで、今回のイベントは進んでいくとのことだ。


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「……へー、これがレシピってヤツか」


 今回のイベントでは、幾つかの方法で水着に関する物が手に入る。
 魔物を倒したドロップアイテム、自由民の依頼を聞き入れた報酬として、イベントエリアに隠された宝箱を開けることで……まあ、色々とあるわけだ。


 そんな方法の一つ、魔物を倒すことで手に入れた水着のレシピ。
 読んでみると、レシピは型まで決まっているのではなく、水着の生地の構成方法が記されているだけだと理解できる。


「材料は……絹蜘蛛シルクスパイダーの糸があれば良い。だけど、手動でやるには苦労しそうだな」


 生産には、全てをスキルに任せて行う自動式と自力で作る手動式がある。
 自動式はなんとなく工程通りに作業を行えばアイテムが出来上がるのだが、手動式は正しくそれを行わなければいけない。

 レシピ通りの水着を作るのならば、別に自動式でも構わないのだが……ワンポイントを加えたりするには、手動式で作らねばならないのだ。
 いや、スキルによる補正があるし、武技の生産版とも呼べる工技も使えるから可能なんだろうけどさ。

 水着に異常な性能を求めるのならば、そういった楽は一切捨てなければならない。
 用意する素材は全てS級、扱うためのスキルは【固有】や(超級◯◯術)、補正も工技も一切使わずに、自身の腕だけで挑む……それによって、様々なボーナスが生まれ――超高性能の水着になるのだ。

 うん、昔は頭を酷使する作業であったが、終焉の島での経験を経て、複雑怪奇な構造の水着であろうとも作れるようになった。
 ……その所為で水着に拘り過ぎてトラブルがあったのだが、そこはカットだ。


「さて、そろそろ出るか……ここから」


 俺が現在居るのは、イベントエリアの海に沈んだ海底神殿である。
 本来、プレイヤーでも始まったばかりでは来ることのできないこの場所に、俺はひっそりと隠れていた。


《メルス、いつまでここに居るの?》

「ここら辺を誰も入れないように改造して、俺はこのイベントの間は必要が無い限りはここに居ようと思う。俺がイベントエリアの何処かに居ると分かれば、プレイヤー側の眷属が追いかけて来るだろう。それが恐いから、誰も来ない場所で眷属たちとのんびりしていた方が安全だと思わないか?」

《……イベントは楽しめないの?》

「完全偽装でもするなら、別に楽しんでくれても構わないぞ。いやー、いつも【矛盾】しているとは思うが、それでもどうにもならんしな。ま、良いなら好きにしてくれ」

『好きに、していいんだ』

「……Oh」


 再びこちら側にやってきたミシェルはこの後、言葉通り好きにしてきた。

 ただ、こっちは力が制限されているので、あまり無茶はしないでほしいとだけ、心の中で思ったよ。



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