AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とエキシビションマッチ 前篇



 それから下準備を済ませた翌日。
 遂にエキシビションマッチが始まる。
 あ、今日は素の格好にちょいと細工を加えたぐらいにしてある。
 ……それぐらいに体の違和感を抑えておかないと、今日は不味いからな。


『えー、三位決定戦も見物でしたが、いよいよ皆様が待ち望んだ闘いが始まりますよ!
 観客全てを敵に回した、第二回闘技大会の覇者――『譎詭変幻』!
 祈念者初代最強、第一回闘技大会の覇者であり、全祈念者の憧れの的――『模倣者』!
 両者が相見え、祈念者最強を決めます!!』


 ちなみにだが、『貴公子』VS『煌剣アマル』が三位決定戦の対戦カードだ。
 『物真似』とやる際は手を抜くように、と伝えてあったから敗北を甘んじたが、相手がそれ以外ならば話は別だ。
 本人なりの礼儀を以って、『貴公子』との優美な剣舞を観客たちに魅せてくれた。

 ……うん、正直これから始まるであろう見苦しい試合より、絶対に良き試合であったと思う。
 あまり期待させないでやってくれ、その分ギャップを感じた時の絶望感が増えてしまうからな。



 俺が舞台に上がった時、周囲に『模倣者偽物』らしき反応は感じられなかった。
 出入り口からも客席からも反応は無く、広範囲の索敵に切り替えたところ――その反応が感知できた。


◆   □   ◆   □   ◆

『さぁ皆様、上空をご覧ください!』

 このコロシアムは上が吹き抜けの構造なのだが、観客が司会の指示通りに上を見ると、燦々と照り付ける太陽の中に、小さな黒点が確認できる。

『かつて祈念者達で行われた闘技大会、そこでは全能とも呼ぶべき力を示した――』

 黒点は少しずつ大きくなる。
 よく見るとそれは、人の形をしていた。

『複数のジョブスキルを使い、複数の魔法を同時に行使し、環境を変える魔法を使え、武芸も卓越したその力――』

 だが、ただ落ちてくるワケでは無い。
 まるで、何かを足場にして加速するような動きをして、一歩一歩落ちてくる。

『それが今、新たな力を携えてこの場に再臨する! そう、彼こそが伝説の『摸倣――』

(――"次元結界""虚空結界")

 酷く重い音が会場に鳴り響く。
 その発生源は――上空にあった。
『模倣者』と呼ばれた者が、透明なガラスに押し付けられたような形で、動きを静止していたのだ。
 姿を隠す選手の多かったこの大会に相応しく、深くフードを被った『模倣者』は見事に顔を隠したまま顔をへばり付けている。

『『『…………』』』

 観客も、司会もその様子に沈黙した。
 あまりに居た堪れない『模倣者』の有り様に、誰も彼もが目を伏せる。
 ――とある『偽善者』を除いて、だが。

「ハハハハハッ!! おいおい、みんなどうしたどうした? 折角『模倣者』様が体を張ったネタを披露してくれたんだぞ? 早く嗤ってやらねぇと可哀想だろう!」

 高々に声を張り上げ、観客たちにそう叫んぶ『偽善者』。
 皆が皆、『笑う』の字が違うことに気付いていたが、それを気にする暇は無かった。

 ピシピシ ビキビキ……パリーン!

 上空の『模倣者』が何かをしたのか、空中で罅を割るような音が鳴り、『模倣者』は地面へと舞い降りる。
『偽善者』は口惜しげに唇を曲げ、苦渋に満ちた顔で文句を唱えた。

「……つまんねぇことすんなよ、折角大人気なお前の為にサービスしてやったのに」

「…………」

「だんまりかよ、ったくつまんねぇ。もう少し楽しませてくれてもいいだろうよ」

「…………その命は、聞き受けていない」

「うわっ、他人に責任を押し付けんのかよ」

 彼らの会話は、会場にも大会本部にも届いていない。
『偽善者』が結界を解除された際に、周囲へ新たに"遮音結界"を展開していたからだ。
 自身の性能からそのことを理解した『模倣者』は、正直に『偽善者』の話に付き合っている。

「…………真の『模倣者』よ」

「ん、なんだ偽者」

「ワタシは、本物を――貴方を超えるために生み出された。貴方の経験を、歴史を、あらゆる全てを学び、それを超える物を与えられた存在だ」

「ふーん、リソースがよく余ってるな」

「……無理矢理徴収していたそうだ」

「前言撤回、マジ狂ってるぞ」

「そうした犠牲を元に生まれた私に、価値などあるのだろうか。貴方は必ずワタシを超える、今までの全てがそれを物語っている。こうして意思が植えつけられたのも、前回の失敗を繰り返さないためだそうだ」

「あー、イベントの奴か」

『偽善者』は思い出す、自身を抜きで行われようとしていた大規模レイドイベントを。
 強引にアイテムを使って乱入したのだが、その時に現れた自身のコピーを一撃で破壊した記憶がある。

「あの素体は、ワタシの体として今も使われている。……所謂経費節約コストパフォーマンスだ」

「カタカナで言うとカッコイイのに……」

「そこはどうでもいい。あの素体は、あくまで貴方の力だけを再現した結果。形振り構わず全てを救った、暴力的な救済が形を成した姿だった」

「――止めてその言い方、魔女に当て嵌まりそうだから」

「……正に、【憤怒】の所業だった」

「もうそこ話に関係無いじゃん、完全にアウトな部分だから!」

 彼らの間に漂っていた空気が和らぐ。
 そのことに気付いた『模倣者』は、一度咳払いをしてから、話を戻す。

「真の『模倣者』、もう一度言う。あの素体がそれならば、ワタシは歴史と経験、そして力を受け継いだ素体だ。故に、こうして言葉も話しているが……運営神様方から見れば、どうやらワタシも失敗作らしい」

「あれ? まだ完成してないのか」

『偽善者』から見た『模倣者』は、表情こそ見てはいないものの、人間らしさを少し感じる存在であった。
 こうした会話のやり取りも、軽快なボケもできる。それができれば充分だろ? と思っていた。

「完璧な運営神様方への忠誠、それがワタシには欠けているようだ。――忠実な駒、それに成り得なかったワタシには、命を賭した情報収集の命が与えられた」

「…………へえー。何が言いたいんだ?」

「全力での戦闘を求めたい。それがワタシに与えられた、最初で最後の命なのだから」

『模倣者』はスキルを発動させ、何処からか武器を取り出す。
 かつての自分――"偽りの厄災"――が所持していた武器、糸と水晶と首輪と指輪を身に纏い、『偽善者』に向けて殺気を放つ。

「どうか、全力で殺ってくれ」

「…………頼まれたなら、応えてやるのが俺であり『偽善者』だ。そろそろ控えようとは思っていたんだけど、まあちょうど良いか」

『偽善者』もまた、武器を何処からか出現させて装備する。
 虹色に輝く剣と透明に煌く剣を両手に握り締め、告げる――

「これが俺の全力の証だ――ついて来いよ、『模倣者』」

 結界を解除して、そのときを待つ。
 互いに体内に渦巻くエネルギーの制御を行い、一瞬で放つために。


『えぇー、二人の様子を見ますに、そろそろ始めて良いようですね。
 それではエキシビションマッチ、『模倣者』対『譎詭変幻』――スタートです!』



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