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山田 武

偽善者と五回戦 その04



 野郎の心象風景の描写はカットする。
 別に剣が突き刺さった荒野でも、空に歯車があったり赤い空が広がっているわけでも無かった。
 ただただ、『物真似』の中に存在する欲望と起源があり、それを構成していたのだ。

 そんな中、異物が二つ存在していた。
 一つは俺、まあ侵入者だからな。
 もう一つは……なんか良く分からない靄みたいな奴だ。
 剣を装備している姿から見て、あれが侵蝕したスキルと魔剣なんだろうか。


「えっと、初めまして? 早速だが出て行ってもらえないか?」

『テメェは居心地の良い場所をいきなり追い出されるとき、黙って明け渡すのか?』

「……つまり、抵抗すると」

『貴様がどうやってこの場所に来たか、私には分からないだろう。だがそれでも、力を振るうのに理由は要らない』


 あ、関係無いけど、今喋ってる靄は声が二重になっている。
 『テメェ』と言った方が多分スキルの遺志で、『貴様』と言った方が魔剣の意志だと思われた。いや、なんとなくだがな。


『そうさ、俺は全てを奪う。技術も過去も思いも全て! テメェは黙って俺に全てを寄越せばいいんだよ!!』
『私の起源は暴くことにある。痛めつけ、泣き叫ばせ、最後に掴むのは情報だ。それが転じて魔剣と化してしまった今……私は世界全てを識り尽くす義務があるのだ!』


 ……うーん、スキルの方はもうどうしようも無いからスルーなんだけど、魔剣の方は少し面白そうだな。
 多分、拷問で使っていた剣が魔剣になったみたい(描写はしなかったが、ロングソード型の魔剣だ)。
 能力は……痛覚を増幅させるのと、情報を吐きださせ易くするもの。
 あとは、心が折れた奴のステータスを強制開示させるってヤツか。


「(おいおい、欲しくね? あの魔剣、色々と便利そうなんだけど)」

《ステータスの強制開示ですか……格も無い魔剣には丈の合わない能力で》

「(もう(再現武装)で複製は可能にしてあるけど、可能性が無くなっちまう。なら、本物を持って帰った方が良いよな?)」

《……ハァ、どうぞご自由に》


 いようしっ! 許可も得たぞ!
 これで魔剣をテイクアウトしても、怒られなくて済む。


「……俄然やる気が湧いてきたな。お前ら、アイツ物真似はここに居ないのか?」

『ハァ? 何言ってやがる。マトリョーシカじゃねぇんだ、それに、あんな寄生主でしかねぇ奴がここに入れるワケねぇだろ』
『アヤツは仮初の主だ、真の契約を果たしていないアヤツに、私を認識することもできないのだ』

「へぇ、色々と事情があるんだな……別に関係無いけど」


 再び『無槍』を構え、靄へと突きだす。
 靄もまた、剣を構えて俺に向けてくる。
 奇しくも外の展開と似たようなものになったが、こちらの方が強く嫌な予感を感じる。

 一度距離を取って、防御の構えを取る。


『おいおい、寄生主と同じように勝てると思うなよ? アイツは俺の力を完全に使いこなせてはいない、当然だろ? 俺の力は<大罪>にも通じるもんだ、俺自身じゃねぇと完璧に使えねぇよ』
『……コヤツならば、私の過去を探って正しい使い方が理解できる。アヤツと同じようにいくとは思わない方が良いぞ』

「知らないな、俺とコイツならどんな敵でも超えられる。お前達にはここの寄生主から出ていってもらうぞ」

『……チッ、ウゼェなテメェ。そんなに出ていってほしいってんなら、力尽くでやってみろよ!』
『貴様のその意志があるならば、私のここ以上の住処を提示してみろ。少なくとも、今はこの場所だと決めているのだ』

「ハイハイ、分かった分かった。スキルの方はねじ伏せる。魔剣の方はちょっと待ってれば直ぐに分かるぞ」


 そう言うと、誰も知ることの無い真の決勝戦が始まった。


◆   □   ◆   □   ◆

 『無槍』の説明を続きをしよう。
 虚実の極みとも言えるこの槍に、一つの固定概念を当て嵌めることはできない。
 俺が認識をすれば槍は現れ、俺が認識を無くせば槍は消え失せる。

 更に言えば、担い手が居なくとも、槍は自在に動くのだ。
 俺が握っていると認識さえすれば、何処であろうと槍は俺のイメージのままに振られてくれる。

 そもそも槍とは、紀元前から存在する武器であり、人類が知恵を得たばかりの頃から使われてきた、白兵戦で最も活躍した実用的な武器の一つだ。
 現在では種類は幅広く存在し、派生品も含めると数は百を超える。
 また、伝説や神話も数広く存在し、神殺しや創生を果たした槍や英雄が使ったとされる槍もある程だ。

 そのため、この槍はその全てに通じるだけの能力を持てせ……ようとしたのだが、さすがにそれは不可能だと思われた。

「……ええ、私もまさかできるとは思ってもいませんでした。この槍は、全て家族の協力によって誕生した物だと今でも考えてます」

 槍を創り出した者ぎぜんしゃは、後にそう語った。
 全ての槍に通じ、あらゆる伝承を一本の槍で再現する。

 ――それ即ち、世界に存在する全ての槍を敵に回すということであった。

◆   □   ◆   □   ◆


「――俺の動きを真似ようと、『無槍』の動きは読み切れない。『無槍』の動きは見えないから、お前達に勝ち目はない」

『……ま、まだだ。俺は、後少しで<大罪>の一柱に……』

「おいおい、大罪ってなんだ。【傲慢】にも【強欲】にも【嫉妬】にもなれねぇよ。精々『猿真似』でも名乗るんだな」

『テ、テメェエエぶっ――』

「はい、終わり。安心しろ、お前の意志は別の形で残しておいてやるよ」


 槍の形状を十文字の形にして、靄の首の辺りを引き切った。
 形の定まらない靄なので首が落ちるということは無かったが、一時的に動きを止めることに成功する。
 その間に頭(だと思われる箇所)に手を突っ込み、色々と仕込んいく。


「……ふぅ、これでよし」

『私には、何もしないのか?』

「ああ。お前さんには、俺と共に来てもらうからな」


 魔剣は俺の答えに疑問でも感じるのか、更に質問を重ねる。


『貴様のような者に私の力は必要無かろう。アヤツは気付かなかったが、貴様からは魔具とは言い難い魔の力が感じられる』

「おお! 誇って良いぞ、アイツらの偽装は普通の奴には気付けない筈だからな」


 魔武具だからな、しかも『物真似』が求めた<大罪>の力で誕生した代物だし。
 それに気付ける、それだけで魔剣に価値が見出せるぞ。


「だがな、それとこれに因果は無い。俺はお前を必要だと思うし、契約をしたいと思っている。出自や能力なんて関係無い、ただその可能性を見届けたいんだ」

『……本当か?』

「お前はお前のやりたいようにやればいい、俺はお前に何かを強制する気は無いし、共に居てくれさえすれば構わない。……ただ、俺の手を取ってほしいんだ」

『…………分かった、ただし仮の契約だ。その後どうするかは、私が決める』

「よし、ありがとうな」

『私を握れ、それが契約の始まりだ』


 魔剣の柄を握り締め、魔力を流す。
 すると、世界は再び変化を起こし――



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