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山田 武

偽善者と大会予選 その02



『それではもう一度、全員でルール確認をしましょう』


 舞台の上に上がったプレイヤーたちは、その時間すら勿体無いと地団太を踏んでいる。
 俺としては聞き忘れたルールが聞けるということで、とてもありがたいんだけどな。
 あ、さっきの男は近くにいないぞ。
 俺の言葉を聞いて、すぐさま自分の予定していた場所に行くとか言っていたな。


『今予選では、【固有】スキルの使用は不可能です。(一般)スキルだけで乗り切ってもらいます。それ以外のルールはございませんので、プレイヤーの皆様は舞台の上に立つ者が四人になるまで参加証を破壊してください。
 舞台から落ちても、周りに展開されている非殺傷結界によって退場しても参加証は破壊されますよ。
 制限時間は二十分。その時点で四人以下になっていない場合は、他の会場との人数差を確認した後、抽選での合否を行います』


 えっと、要するに――

・スキル縛り ・四人以下になるまでロワイヤル(証の喪失で敗北) ・制限時間:二十分

 まぁ、ここら辺を覚えておけばいいか?
 どうせ、四人以下にならないなんてこと、無いんだろうしな。


『……どうやら皆様我慢できていないようですし、そろそろ始めましょうか。
 ――それでは予選、開始です!!』


 先程のアナウンスから約三分後、早くも予選がスタートした。
 プレイヤーたちは、それぞれが用意した対策を駆使し、他の者を退場させようと奮闘していく。

(――(浮遊)、"隠纏")

 そんな中、俺は結界の天井部分まで浮かび上がって試合観戦に励んでいた。
 手にはポップコーンやオペラグラスも用意されており、完全に参加者の行動とは思えない光景が見れる人には見れるだろう。


「いっけー、そこだ、……そう! よっしゃあ、今だ!」

《なぁ、アンタも参加してくれよ。もっとこう、臨場感のある闘いが観たいんだよ!》

「……勘弁してくれ。【固有】スキルだけが使えなくなると思ったら、まさかの全レアスキルの使用禁止だったんだからさ」

 俺からチートを除いたら、ただのモブしか残らないのが事実だ。
 ……というか、むさい男共が集まる場所に長時間居たくない。


《別にイケるじゃないかい!》

「参加証が絶対に安全だと言える根拠があるのか? 結界は使えないぞ」


 だからこそ、俺は大人しく試合観戦をしているんだからさ。
 "不可視の手"があれば、ほぼ確実に楽ができたんだけどな。

 上空に浮かんでいるだけでは、操作を誤った攻撃が飛んで来た際の対処に不安が残る。
 それ故に、こうして遊んで情報収集をしていたのだが……まぁ、頼み事だしな。


「周りの眷属は?」

《……良いってさ!》

「なら、大丈夫か――(召喚魔法・偽)」


 そう告げると、地面に召喚陣が出現して中から一人の女性が出現する。……まぁ、チャルだけどな。
 突如現れた美女を見て、一瞬硬直するプレイヤーたち。
 文字通り、人形のような造形美は、見る者の心に芸術を感じさせる。

 ――うん、隙だらけであった。


『よっしゃー、殲滅してやるよ!!』

「(程々になー)」

『はいはい、任せときな』


 そう答えた瞬間、舞台に銀色の風が吹く。
 荒々しくも繊細さが感じられるチャルの動きは、俺の観ていた中で、強いと感じられなかった者たちを一掃していった。
 次々と辺りの至る所で参加証が破壊され続け、一人、また一人とプレイヤーがその場から消えて逝く。

 もう、一種のホラーだよな。
 このタイミングで「――次はお前だ!」とか言ったら、誰か一人ぐらいは反応してくれそうだ。


 俺がそのような感想を抱いている間にも、チャルは参加証を破壊し続けていた。
 何処にいるかも分からないチャルから逃れるために、必死に参加証を庇おうとしているプレイヤーもチラホラいたが……結局は破壊されて終わる。

 そうした暴虐を、選ばれた者だけが耐えることができた。
 【固有】スキルを有する、またはそれに匹敵するだけの戦闘能力の保持者である。
 基本的に、【固有】スキルとは実力者にしか手に入らない物である。


『……フゥ、準備体操ぐらいにはなったよ』

「はいはい、お疲れ様でした」


 召還陣をチャルの足元に広げ、元居た場所へと送り返す。
 本人が満足してくれたなら、必死に隠蔽作業をやっていた甲斐があるってものだ。
 この場にいたプレイヤー以外には、大規模な幻覚を見てもらっていた。
 チャル自身には強力な認識阻害が掛かっているので、例え録画をしていようとチャルだと認識することは不可能だ(既に、実験済みである)。

 舞台には残り八人程が残っている。
 ……がしかし、半分が知り合いである。


「さっきの奴と、ティンスにランサーにメタラルか……あとのは知らないな」


 残りは男三人と女一人、それ以外は全て絶滅したよ。
 残ったのはそうした強者のみ。
 なのに、制限時間はまだ三分も過ぎていないのが現状だ。

 予選が始まってからは、プレイヤーの集中力を削がないようにするためか、外界の音声が遮断されている。
 ま、外からは聞こえるような仕組みになっているが。

 そんな閉じた世界で、彼らは戦い続けていたのだ――


《いや、アンタもそろそろ戦いなよ》

「安全第一だしな。もう少しゆっくり見ていたいんだが……駄目みたいだ、な!」


 同時に、俺の居た場所で爆発が生じる。
 衝撃が参加証に来ないようにふわふわと避け続け、再び上空を漂い始める。


「ティンスめ……ほっとけよな。もしかしてまだ根に持ってるのか?」


 放たれた威嚇射撃は、ティンスから放たれた物であった。
 戦闘中に放った魔力弾に上手く混ぜ、自分が気付いていることを知らせてきた。

 しかし、俺に戦闘の意志は無い。
 念話でそのことを伝えてから、再び寝ること――


「危なっ!」


 にした瞬間、再び魔力弾が飛んで来た。
 もう、これじゃあ寝れないじゃないか!!



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