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山田 武

偽善者と迷いの森 その04



 そう告げた途端、円卓に座る長老の過半数から怒りか、それに似た感情が流れてくる。

 どいつもこいつも分かり切った行動をしてきたもんだよ。
 ま、イアスの行動から察すれば大体見当が付くんだけどな。


『面白いことを言う祈念者だ。私たちが、その罪とやらを贖う必要があると? そして、それを悔い改めるための契約か? 笑わせないでほしい』

「おいおい、勝手に悔い改めるなんて単語を出すんじゃねぇよ。全くその気も無い奴らが使う言葉じゃねぇんだからよ。大体、今回俺が最も悪行だと思っていることは、一体なんだと思うんだよ」

『ん? 森に入る侵入者の撃退か? あれは仕方の無いことだ。閉鎖的なこの里に、自身の欲望だけを目的に向かおうとしていたのだからね。こちらも前以って連絡を受けていれば受け入れるし、里の者を救ってもらったならば礼をするために向かい入れる――』

「うんにゃ、それは別に構わないんだよ。確かにそのまま祈念者を殺して一旦神の地へと送り返していることに対しても、少しだけ・・・・言いたいことはあるが……そんな粗末なことは捨て置けばいい。初心者はともかく、熟練者は殺される覚悟を持ってこの地に足を踏み入れたんだろうしな。俺にもお前たちにもそれをとやかく言う権利は無いな」


 ま、それで結局殺されるんだけどな。
 普通のプレイヤーなら、なんらかの形でこの森で起きている情報を知ることになる(俺は最近になるまで知らなかったけど)。
 なら、死に戻りしたくなければ来なければ良い、という決断をするだろうし。

 入ろうとする奴が何が目的で森に来たか、それはソイツしか分からないだろう。
 だが結局、何はともあれそれをやり抜くだけの力が足りなかったのだ。

 力には責任が伴って、責任にはパワーが伴うという言葉が創作物であった。

 どんな形の力であれ、手に入れたからにはそれに追従した権利と義務があるのだろう。
 ソイツには、この森にいられるだけの権利が無かった。ただそれだけだ。

 え? 俺の権利と義務? 眷属から借りただけの紛い物しかない俺に、そんな重要な要素、あるわけないだろ。


『では、ぜひ聞かせてもらおうか。私たちの過ちとやらを』

「それはもちろん――差別だよ。自分たち以外を完全に下と見て、傲り高ぶるその姿……俺から見れば実に【傲慢】な様子だ。そのくせ実力が伴わないし、態度が直接的過ぎる。はっきりと言ってしまえば、他種族と自分たち以外の同族を舐め過ぎだろ。それに――」

『ふ、ふざけるな!』


 俺の発言を遮ったこの言葉は、先程から俺と会話を行っていた上座の長老のものでは無かった。
 下座の方にいた長老の発言だ。

 ……あぁ、確か一番驕ってた奴だよな。
 やっぱりポジション的にも私たちの中で最弱、の様式美に当て嵌まる何かがあるのかも知れない。

 そんな最弱(?)長老は椅子を倒して立ち上がると、顔を真っ赤にしながらカナタの方をビシッと指差して叫び出す。


『こんな穢れた血を連れてくる者が我らに対して何を言うか! 幾ら祈念者が種族を自在に決められる者達とも言えど、そんな生きる価値も無い種族である時点で、我らと交渉する価値など無――ヒィッ!』

「交渉、交渉ね……。俺がいつ、この対談を交渉だと言ったんだ?」

『そ、それは……』

「大体、今はそっちの一番偉そうな奴と話していたんだ。俺がちょっとだけ魔力を上げただけで悲鳴を上げる奴こそ、わざわざ交渉する価値も無いだろうよ」

『メルス殿、この円卓に座る者は皆対等。そこに階級や権力の差は無い』

「建前上は、だろうが。俺のいた場所でも円卓の騎士とやらが有名だったが、結局真の対等性を保ち続けていたのやら……」


 少なくとも、席に王が着く時点であんまり無い気がする。
 あくまで俺の個人的な感想であり、実際とは異なるが……うん、俺も円卓の騎士のように円卓に座ることになったら、上座だけど発言力が皆無、みたいな展開になりそうだ。


「……ハァ。ごちゃごちゃと思考が回んなくなってきたな。いつもより多めに魔力を称しているからか? 一番偉そうな長老さん。単刀直入に言うが、お前たちが祈念者たちの侵入を拒む行為を止めて、種族差別をしなくなるようにするにはどうすれば良いんだ?」

『そうだな……ここではぐらかそうとするのはよくないか。
 祈念者を殺すことで、私たちはルナの力の復活を目指している。ルナとはこの里における絶対的な力の象徴。それが新たにこの里の者から生まれ、私たちを捻じ伏せて意見を主張するならば……民たちの大多数はその意見に賛成するだろう』

「でも、それは叶わないのだろう? 古来より信仰してきた神々は力を失い、今では運営神がこの世界の信仰力を吸っている。いつまで経ってもお前たちの信仰する神は復活しないから、加護によって生まれるルナとやらは誕生しない」

『……博識だな。里の者ならば幼児の頃から知っている常識だが、その情報は絶対に口外しないように固く禁じられている筈。誰から訊いたのかな?』

「誰でもいいだろう。
 お前たちの信仰する、自然崇拝に似た概念から生まれた神は確かに力を失ったが、全く異なる必要不可欠な概念から生まれた神にはまだ残っている者もいるしな。それに過去の文献を漁れば、それなりに答えを出すのに必要な情報は出て来るさ」

『そういうことにしておこう。それで、メルス殿は結局どうするつもりだ?』


 早急に答えを求めてくる上座の長老。
 ……全く、物事には手順というものがあるだろうに。


「――契約だ。俺がルナとやらをこの里の者から一人誕生させる。その代わり、俺の提示する条件に従って貰う」

『条件、だと? それに……ルナを誕生させる!?』

「もちろん、誰をルナにしようとするかはこの後説明するし、ソイツを使ってこの里をどうこうする……なんてことは無い。お前たちはソイツがルナになった時に一度考え直してくれれば構わない。停滞するのも別に構わないが、時には前に進むのも必要だろう。
 少し時間をやる、だから早めにどうするか決めろ」


 そう告げると、長老たちは慌ててそのことについて話し合った。
 俺の言葉の真偽は、長老の一人が探っていたので直ぐに分かるだろう。


《……おい、本当に大丈夫なのか》

「(おいおい、俺がしっかりとした予定を立てて動いているとでも思うのか? 暇潰しの勢いついでの発言に決まってんだろう)」

《だから訊いてんだろうが! どうすんだよこれ。なんでエリアボスを狩る予定が森人エルフの育成になってんだよ!》

「(さぁな、俺もなんとなく言っただけだから良く分からん。でも、面白そうだろ?)」

《大体、ルナなんて森人本当にいるのかよ。加護持ちが進化してなるんなら、もう不可能じゃねぇか》

「(うーん、どうにかなるんじゃないか?)」


 長老たちが揉めている間は、カナタと念話で盛り上がって時間を潰していた。
 行き当たりばったりの展開だが、主人公がレア種族に遭遇するってイベントはよくあるだろう?

 ――自分で激レア種族を生み出すって、悪役っぽくて新鮮な気分なんだよ。



 ようやく会議が終わり、上座の長老が会議結果を纏めてくれた。
 とりあえずルナを誕生させたなら契約を受け入れる。できなかったらそれは破棄。

 俺はそんな曖昧な条件を受け入れ、ルナに関しての説明を行っていった。
 ……誕生させれば、アイツらの思惑なんて関係無いからな。


『……で、そのルナにする者とは?』

「あぁ、それは――――」


 この後、少しだけ話を詰めてからこの場を去った。
 ……さて、上手くできるかな?



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