AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と秘湯



 カポーンと鹿威しがたまになる秘湯。
 沸き立つ湯気が幻想感を醸し出し、上空で輝く偽物の星々が雰囲気を作る。

 そんな場所で俺は、二人の少女と念話をしていた。……あ、もちろん彼女たちは秘湯の外にいるままだぞ。
 俺、そんな誰でも誘うような節操無しじゃないからな。


「(それで、どうして俺を追いかけ回したんだよ。特に急用なんて無いだろ?)」

《今まで音信不通で、前に会った時もロクに会話もさせてくれなかった主様を、追いかけ回さない理由が無いとでも?》

《ペルちゃんとだけお話しして、お兄ちゃんはすぐ帰っちゃったからねー》

「(ああ……あまりに濃い時間を過ごしてたせいで、すっかり忘れてた。そんなこともあったなー)」


 うんうん、ペルソナね。
 ちょいとスキルの改造実験の被検体をやってもらった娘だ。<天魔騎士>なんて変なスキルを渡しちゃったことは、若干の罪悪感を感じてしまってたしな。
 ん? そういえば、最後に会ったのはそのときだったんだっけ?
 そもそも、アレは若干のバグが込みの現象だったし直接会ったら会ったで即消滅されそうだなーって想像が付いたから、会うのは控えてたんだよなー。


《濃い時間って……。本当に、何をやってたのよ》

「(眷属にフルボッコにされた。その後はみんなとワイワイやってたな)」

《どんなことをやってたの?》

「(そうだな~……鬼ごっこ……かな?)」


 ていそうを賭けた鬼ごっこ……アレを称するには丁度良いな。
 ほとんどの眷属が鬼役で行われたため、正直もう奪われるかと思ったよ。


《私もやりたーい》

「(……か、勘弁してくれよ)」

《《……ん?》》


 後ろ向きな俺のテンションに疑問を抱いているだろうが……本当に大変だったんだよ。
 話を逸らさないとヤバいかな?


「(そ、それよりほら! 俺になんか用でもないのか? 俺だけでできることなら、だいたい聞いてやらんこともないこともないぞ!)」

《どっちなのよ。……そうね、なら私たち用の温泉も造ってくれない? こっちでお湯に浸かるなんて、やったことないのよ》


 眷属用の風呂かー。
 {夢現空間}には存在するけど、そういえばこっちの方には用意してなかったな。
 国民は(生活魔法)で浄化するか軽くお湯で拭くぐらいだし、入浴施設の建設も行うべきなのか?

 ま、それも後の話だしティンスたちが今風呂に入る方法は――。


「(ん? なら一緒に入るか?)」

《え、良いの!?》

《オブリ! 騙されちゃ駄目よ。メルスだってあれでも男、オブリの艶姿なんてものを見たら野獣になるわ》

《……お兄ちゃん、野獣になるの?》


 やれやれ、どうやら大切なことをティンスは理解していないようだな。


「(いいか二人とも。俺はこの世界であれだけ美少女や美女を眷属にしてるんだぞ? それなのに、今でも貞操を貫き徹している仙人とも呼べるような崇高な存在だぞ? 今更お前達の裸の一つや二つ見ようとも、最初から三次元に興味のない俺には何の影響もない!!)」

《カッコイイと思っているんなら大間違いだからね、ただのチキンな二次コンじゃない》


 うぐっ、事実をそのまま告げやがったな。
 だが、それでも……俺は……。


「(ええい黙れ! たしかに俺はチキンだが、それでも肉食獣から逃げれるだけの力を持った優秀なチキンだ! それに俺が野獣になる問題は皆無! ほら、こっちを見てみろ!)」

《ばっ! み、見るわけないでしょうが!!》
《あ、お兄ちゃん。女の子になれるんだね》

《え……?》

「ふふん、どーだティンス! これで問題無いだろ!」


 最近よくなっているメルへと変身し、彼女たちの前に姿を現す。
 水に濡れた髪が背中に張り付いて何だか不思議な感覚だな。普段の俺はそんな女性のように髪を伸ばさないし、あんまりそういう経験がないんだよなー。


「……え、これが……メルスなの?」

「ん? 何か問題があるのか? 正真正銘、この俺がメルスに決まっているだろう。ほれほれ、ここに[眷軍強化]の印もあるだろ?」

「あ、本当ね……というか、なんだかその声と口調に違和感を感じないのが恐いわね」

「さぁオブリ、一緒に入ろうか! 美味しいコーヒー牛乳もイチゴ牛乳も用意してあるから、留守番はティンスに任せて行こうぜ」

「はーい」


 結界の設定を少し弄り、オブリだけが通れるようにする。
 そうしてから俺と一緒に結界を潜り、秘湯へと近づいていく。

 オブリが装備を外そうとしたその瞬間――結界の外から怒声が聞こえる。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

「ん~? どうしたのかなー、ティンスさんは? 俺みたいな野獣といっしょじゃ駄目なんだろう? 残念だがここの秘湯は混浴でな、それが嫌なお客様は、お断りしてるんだよ。いやー残念だ、折角色んな食べ物を用意してあったのにな~」

『くっ、弱いところを突いて……』

「別に、裸になれなんて一言も言ってないしできないだろ? 俺は訳ありだから全裸になれちゃうけど、普通のプレイヤーは規制的な問題で絶対にインナーが装備されるんだし」


 そう、いちおう彼女たちにとってここはあくまでゲームの中である。
 ドギツイR18のヤバいゲームでもないし、しっかりとした倫理規制が用意されている。

 例として、インナーの自動装備が挙げられるな。着脱不可能・耐久度:∞なので、真の危険にはならないだろう。

 そうしたことを頭の中で折り合いをつけていくティンス……そして――。


「ああもう、私も入るわよ! メルス、早くここを通れるようにしなさい!!」

「えぇ~、それが人に頼むときの態度かよ。なぁオブリ、こういうときはどうするんだっけか?」

「ティンスお姉ちゃん――ね?」

「うぐぐぐぐぐ……」


 お願いします。
 ティンスはそう言って頭を下げた。……いや、別に頭まで下げなくても良かったんだけどな。
 結界を再び弄ってティンスを通行可能にしてから、可視の物へと変更する。外からはモザイクのように見えるから中が見られることはないだろう。

 そして、俺たちはいっしょに湯に浸かる。
 ……肌に張り付いたインナーは、素晴らしい性能を持っていたとだけ言っておこう。



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