AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしの『未来先撃』 中篇



『……クッ、こんな筈じゃ』

『アハハ。本当のお姉さんならともかく、一つの能力に固執しているままじゃあ、私に勝つのは難しいんじゃないかな?』


 ――煙の先では仰向けに倒れたジガンと、彼女の首に剣を突きつけるメルちゃんが見えました。
 ジガンが少しでも動こうとすると、剣が首に近付く為に抵抗はできません。


『メルちゃん凄ッ!』


 ノエルの感想が全てを物語っています。
 ジガンは、【固有】スキルを手に入れてから負けたことの無い強者でした。
 時間差を付けて斬撃や魔法を放てるということは、未来に攻撃を置いておくのと同等なのですから。
 一度放たれれば、防御も無視して攻撃が襲い掛かって来ます。
 対処する方法は、見てから捌くという方法だけでした。

 わたし達が束で掛かっても勝てなかったそのジガンに、メルちゃんは一人で対応し勝利しました。
 ……本当に、メルちゃんは何者なんでしょうか。

 そして、そんなメルちゃんが現れた結晶の持ち主――ノゾムさんもまた何者なんでしょうか。


『ますたー、これからどうするの?』

「メルちゃん、ジガンを元に戻すには、どうすればいいんですか?」

『方法は幾つかあるよ――

 一つ、人格を変える
 二つ、記憶を弄る
 三つ、【固有】スキルを奪う
 四つ、叩きのめす

 ――ますたーの願いに最も近いのは、多分四番目だよね? だから、私はお姉さんをこうやって一人で倒したんだよ』

『つまり……どういうことだ?』


 ディオンが尋ねます。
 一番と二番が非人道的であったり、三番が聞いたことの無いような情報ですが……もう気にしません。


『えっと、四番の説明だよね。
 【固有】能力に侵蝕効果があるのは言ったでしょ? その効果は、その持ち主の心が折れるともう二度と発動しなくなるの。だからこうして一度倒さないと、【固有】持ちは調子に乗るの』

『サラ~ッと凄いこと言うね~』


 ……要するに、ジガンを元に戻す為には、彼女を倒さなければいけなかった、ということでしょうか?
 【固有】スキルを相手に勝利する……口で言うのは簡単でしょうが、実際に行うのはとても難しいでしょう。


『でも……まだ無理みたいだね。お姉さん、諦めてないや』

『……当然よ、私が間違える筈が無い。貴女という存在が間違っているのよ』

『だって。うーん、やっぱりこうするしかないのかな?』


 再び剣を仕舞い、メルちゃんはわたし達の方へとやって来ます。
 ジガンはその間に立ち上がって、魔法や武技をこちらに放ってきますが、それは全てメルちゃんの近くを通る寸前で消滅します。

 ジガンに目もくれず、メルちゃんはわたしに近付いてこう言います。


『――だからますたー、ますたーが一人でお姉さんを倒すんだよ』

「……ほぇ?」


 変な声を上げてしまったわたしは、悪くないと思います。


◆   □   ◆   □   ◆


 ……どうしてこうなったのでしょうか。
 わたしは今、ジガンと向かい合わせに剣を構えて立っています。
 周囲には結界が張られており、上空にはUIが表示されています――


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1vs1 時間:∞ 勝利条件:殲滅

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 わたしとジガンの決闘。
 制限時間は無制限で、勝つには彼女のHPを全損させなければなりません……回復職ヒーラーのわたしが、です。


《だいじょうぶ、ますたーなら問題無いよ》

「いえ、本当に大丈夫でしょうか?」

《私も力は貸すから、あとは……ね♪》


 ね♪ では無いんですけど……。
 確かにこれはあくまで、わたし自身が決めたことです。

 だからこそ、最後は自分で決着を着けるべきなのでしょうか?

 メルちゃんは現在、わたしが持つ剣に姿を変えてくれています。
 メルちゃんの本当の姿が剣なのか……そこは教えてくれませんでしたが、握られた剣からは、素人であるわたしにも分かるようなナニカが感じ取れます。


《条件を満たせれば、もっと強くなれたんだけど……ますたー、ごめんなさい》


 不思議な色で統一されたデザインを持つメルちゃんの剣は、装備したわたしに力を与えてくれています。
 ステータス画面を確認したので、間違いありません。

 それなのにまだ強くなる……どこに謝る要素があったのでしょうか?

 メルちゃんを装備すると、頭の中に直接メルちゃんの声が聞こえるようになりました。

 わたしは同じように返信できませんが、それでもメルちゃんが一緒に居てくれると感じられるので、とてもありがたいです。


《パフは闘ってから掛けるし、スキルは私の方で発動させるから、ますたーはどんな風に闘いたいかをイメージするだけだよ》

「イメージ……ですか?」

《うん。特に、感情を籠めたイメージをするのが一番イイね。ますたーがどうしたいってイメージを、わたしが汲み取って行動に反映させるから》

「や、やってみます」

『そう。もう準備は良いのね』


 既に準備を終えていたジガンは、余裕の表情でわたしにそう訊いてきます。

 ……普通、戦闘職が回復職に負ける筈がありませんから。

 それこそ、上位ランカーの持つような武具でも相手が持っていない限り。

 ですが、わたしは勝ちます……勝ってみせます! ジガンを、元に戻す為に!!


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          戦闘開始!!

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 そして、その表示と共にわたし達は動き出します。



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