AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしのAFO説明 前篇



 プレイヤーがAFOを始め、最初に踏みだすスタート地点――『始まりの町"』
 四方をそれぞれ異なる環境に囲まれた、初心者冒険者たちの町だ。

 その地の中央にある噴水の前は、いつも新人たちの集合場所として使われている。

「遅い! 何をやってたの?」「いやいや、ゴメンゴメン、ちょっと設定に時間がかかってさ」「スゲェ! 本物みたい!」「……動くか」「――“窃盗スティール”“窃盗”……」

 AFO――All Free Online において、プレイヤーにはいくつかのマナーが存在する。

「あら? 新しい祈念者さんかしら?」

「は、はい。そ、それで少し貴方たち、自由民の方との交流の仕方について、訊いておきたくて……」

 その一つとして、NPCのことをそうNPCと呼ぶのではなく『自由民』と呼ぶことが挙げられる。

 この決まりは、運営側が公式にNPCのことを自由民と称した際に、決められたことである。
 また、対してプレイヤーのことを、自由民は『祈念者』と呼ぶ。
 祈念……つまりプレイする者という意味を籠めたものである(以降の説明ではプレイヤーという呼称を使用する)。

 自由民へのマナー──それは普通の人々に接する時のように、応対するいうことだ。
 彼らはまるで本当に生きているかのような自我を有している。
 プレイヤーたちも当初は、たかがAIだと高を括っていたが……現代人以上に感情表現豊かな人々を見た後に、考えを改めた。

 誠意には温厚さを、悪意には冷淡さを見せる彼らは──まさに、この世界において生きている言っても過言ではないだろう。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 プレイヤーがチュートリアルを経て、初めて向かうことになるバトルフィールド『始まりの草原』。

 町の東側に位置するその草原は、初心者でも倒せるような魔物がたくさんいることで知られている。
 ……かつてはチュートリアルを行う地も、不文律によってプレイヤー自身で選べたのだが、ある理由によってそれは廃止された。

「チェリーラビットよ!」「あーはいはい、分かってますって」「“斬撃スラッシュ”……凄ぇ!」「……■■■──“火球ファイアーボール”! うわっ、本当に火が出たきた!」「……“窃盗”“窃盗”……」

 AFOにおいて、ゲーム感覚で割り振ることのできるステータスは九種類に分類されている――

HP:自身の生命力を表す値 0になった際は死亡扱いとなる 主にダメージを受けると減少する
MP:自身の魔力を表す値 0になった際には体調不良が起きる 主に魔法やスキルを使うと減少する
AP:自身の精神力を表す値 0になった際は体調不良が起きる 主に武技やスキルを使うと減少する
ATK:自身の力強さを表す値 主に攻撃力に直結するパロメーター
VIT:自身の頑丈さを表す値 主に守備力に直結するパロメーター
AGI:自身の素早さを表す値 主に機動力に直結するパロメーター
DEX:自身の器用さを表す値 主に成功率に直結するパロメーター
LUC:自身の幸運度を表す値 主に運命力に直結するパロメーター

 プレイヤーはさまざまな行動で経験を積み重ね、レベルアップ――つまり成長をする。
 その際手に入るBPと呼ばれるポイントを割り振ることで、自身の能力値を高めることができる。

 戦闘はその中で最も効率の良い方法だ。
 魔物という敵を相手に、強くなるための経験をする。
 敵を倒せば相手の経験の一部が流れ込み、自身のレベルアップは速くなる。
 そのためプレイヤーの大半は、魔物との戦闘でレベルアップを行おうとしている。

 戦闘方法にも、現実世界とは異なる方法が取れる。

「……■■■──“水球ウォーターボール”!」

 ――魔法。
 現実では見ることのできない、空想上の産物だと思われるその御業を。
 AFOでは、誰もがMPとスキルという免許さえ所持していれば発動可能なのである。

 発動者が詠唱と呼ばれるコマンドを読むだけで、それは発動する。
 威力はMPの高さやスキルのレベルによって、決まるものが多い。
 そのため魔法を専門に扱おうとする者は、挙ってMPを上げる傾向にある。
 また、MPとは別のアクションで威力を高める方法もあるのだが……それはまた、別の機会に。

「──“強射パワーショット”!」

 ――武技。
 一定の決まった所作をなぞることで、その武器が持つ性能以上の威力を発揮することができる必殺技のような代物だ。
 必要なのはAPとその技に応じた武器のスキル……逆に言えばこの世界は、スキルが無ければこういった恩恵に肖り辛い、世知辛い環境でもある。

 発動者は技名を意識して言うだけ。
 魔法よりも速く発動が可能なのだが、代わりとして発動後は一時的に動けなくなるというリスクが付いてくる。
 これは武器を正しく扱えない者たちが、ある一定水準の卓越した技術を扱うための――代償であった。

 また、オートとなっている武技の発動を、一部の熟練したプレイヤーはマニュアルに変更している。
 この機能はとある条件を満たすことで、武技の発動を自在にできるようになるものだ。
 自動的に行われる型を己自身でなぞれるようになることで、ある程度自由を持って武技が発動できるのだ。
 一時停止のリスクは無くなるが、発動が失敗した場合はより長く硬直してしまう。

 速度を取るか自由を取るか――それは、プレイヤー次第である。

 威力はATKやスキルのレベル、武器自体の強さによって決定する。
 そのため、金という力の持ち主は高級な武器を装備することで武技の威力をより高めようと考える。
 レアな武器には極まれに装備スキルと呼ばれる物が存在し、その中にその装備だけの特殊な武技を有している場合がある。
 それらは通常の武技とは卓越した性能を誇り、所持者に強大な力を与える。
 ……が、それを狙って生み出すことのできる職人など、AFO内でも未だに発見されていない。

 強大な力を生み出す力ほど、最終的に恐れられるものはない。
 それは現実世界での戦争が物語っていた。
 きっと、その力を持つ者もそうした考えを持ち、その身を隠したのだろう。


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