AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『封印邪神』 その05



夢現空間 修練場


「たっだいま~! ……って、どうしてそんなにお通夜感が満載なムードなんだよ」


 帰って来た俺を迎えてくれたのは、どんよりとしたオーラを放つ眷属たちだった。
 迎えてくれるのはありがたいんだが、そうも重たい空気だと……ちょっとな。


「あ、それとグー。人の記憶を微妙に良い感じに加工して観せてたらしいけど、アレはさすがに詐欺だからな。そういうのは、図書館で観たい奴だけが観ればいいんだよ。今度からは勝手に無理矢理流すのは禁止。OK?」

『……ああ、了解したよマスター』


 低いテンションで答えるグー。
 ……いや、本当にどうしたのさ。


「おいおい、なんでそんなにしょんぼりした感じなんだ? ほら、主様に相談しようぜ」

『…………』

「お、お~い。だ、誰か、返事してくれよ。主様って、寂しいと泣いちゃうんだよ」

『…………』

「……グスン」


 物凄く虚しく感じるよ。
 せっかく戻って来たっていうのに、まさかの歓迎ムード感0……泣きたくもなるよ。
 すると、マイフレンドのカナタが近くまでやって来る。


『なあ、怒って……ないのか?』

「怒る? 何を?」


 尋ねられた疑問の意図が、まったく読み取れない。
 何かされたっけ? 別に問題のあるようなことは無かったと記憶してるんだが……。
 {夢現記憶}の故障かな?


『いや、だから……その、お前が行こうとするのを、邪魔したことだよ』

「う~ん……別に、怒ってないが」

『本当ですか?』


 ありゃりゃ? アンまで訊いてきた。
 俺って、そこまで怒りやすい奴に見えるのかねぇ?
 ……よくよく思い返してみると、結構な頻度で怒っている気がしてきた。
 うん、たまにノリでブッ殺的なことも言ってたな。

 まあ、誤解を解かないとな。


「いや、結局俺は行ったわけだしな。お前たちは暴走がちな主様を止めようとしてくれただけだろ? それに、止めてくれたのだった必ず理由があるだろうし――家族だしな。本当に怒る必要も無いのに、お前らを意味も無く怒るなんてこと……俺にはできないよ」

『メルス……』


 カナタが微妙に感動している気がする。
 いや、これって普通のことだろ。

 ちょっと出かける前に鍵をかけられてたってレベルの話だろ?
 俺は普通に鍵を開けて出かけたんだから、もう別に良いだろうに。

 なのに眷属たちは、どいつもこいつも何故か目から涙の感動だよ。
 まったく、これで泣くぐらいなら、本当の感動ものの映画とかを観た時はどれくらい号泣するんだよ。
 あ、確か記憶の中にあったな(ちなみに、俺はそれを観て泣いた)。


 ――あれ? 前にも似たようなやり取りをしたよな? なんでまたやってるんだ?


「はいはい、この話はこれでお仕舞い。さぁ早くスマイルスマイル。泣いてる顔より、主様は笑い顔の方が好きだぞ」

『はい!』


 うんうん、可愛い娘には笑顔をさせよ、とは良い言葉だな。
 正にその通りだ。

 え? そんな言葉は無い?
 いや、まあ俺の造語だしな。
 ……って、そんなことはどうでも良い。

 大切なのは、目の前に広がる美(少)女たちのスマイルフェイスなのだ。
 普人や獣人、森人や魔人、更には希少な種族の娘までもが俺のため(?)に笑ってくれているのだ。

 もうこれだけで、俺の人生の運の大半を使い果たしたしても満足して死ねるよ。
 ……もう凶運の俺に、そんな運が残っているかどうかは別としてな。


『──で、われはいつまでこの茶番を見させられなければならないのだ?』

「『……あ』」


 俺の後ろでずっと待っていた邪神、リオンがそうツッコむ。
 ……うん、すっかり存在を忘れていたよ。


説明中
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


食堂


「――というわけで、終焉の島からの脱出の目途がついたことを祝して……」

「『乾杯!』」


 やっているのは、今言った通りだ。
 リオンとあれからいろいろと話したが、彼女の神氣リソースが一定量貯まれば脱出できるとのことである。
 いやー、長かったね~。
 これで俺もようやくログアウトできるよ。
 ……俺の体の件については、レイたちに訊いといてあるから心配してないぞ。
 (いちおうではあるが、)大丈夫らしいし。

 そして現在、それを祝したパーティー中。
 普段はあまり出すことのない豪華絢爛な食べ物や、日本の文化が誇るネタ飯など、さまざまなフードを食堂に並べて祝っている。

 そして、もちろん俺は――。


「ほら、じゃんじゃん食べろよ。今まで溜めておいた食べ物も一気に解放してるんだからな! 欲しいのがあればいつでも作るから、好きなだけ食べてくれ!
 へい、イカ焼き一丁とたこ焼き一丁!」


 厨房に籠もって料理を行っている。
 "不可視の手"も眷属の一部も料理を手伝ってくれるので、あんまり疲れないな(眷属は交代制でやってもらっている。じゃないと食べられないしな)。
 俺は腹が減らない体質になっているし、今は食べないで良し!
 みんなの分を一気に作り、そのあとに余った時間で賄い飯でも食べるさ。


『メルス、少しいいのだ?』

「お、どうしたんだ? 葡萄飴ならさっき十本持っていただろう? あ、林檎飴の方が良かったのか?」

『それは貰うのだ……じゃなくて、われは本当に眷属のままでいいのだ?』


 うん、あれからリオンの眷属印を解除しようとしたんだけど……外れなかった。
 理由はほぼ分かっているから、別に俺は構わない。
 全て本人(神)次第の話ってわけだ。

 ――それより今は、目の前の少女の不安そうな顔をどうにかしないとな。


「その内大きくなって、独り立ちするまではここに居ろよ。小難しいことは、大人になってから考えるもんだぞ」

『われは子供じゃないのだ!』

「はいはい、分かってますよお嬢様。はい、新作のメロン飴。あ、でも子供じゃないならいらない『……欲しいのだ』はい、どうぞ。
 ま、心変わりがあったらすぐに言ってくれよ。そしたら解除するからさ」

『分かったのだ。でも、絶対にメルスをギャフンと言わせてからにするのだ!』

「はいはい、オッケーオッケー」


 さて、リオンもムキーッとか言えるぐらいには元気になったし、これでまた平和な日々が訪れるな。
 ……と、思ったんだが。


《主様……いつものです》

「……またかよ」


 運営は、イベントが大好きなようです。



「AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く