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山田 武

偽善者と『白銀夜龍』 その03



 目の前にいる銀色の龍は、圧倒的な力を放ち続けている。

 魔力を感知しようとすると龍の周りだけが塗り潰されるような感覚になり、鑑定を行おうとしてもいっさい視ることができない。
 これらの情報を、追加で放たれた息吹を躱し続けることで得ることができた。

 一体何度撃てば終わるんだよ!
 全然終わる気がしない。
 塗り潰される程の魔力ということは、それだけ膨大な魔力であるということだ。
 実際俺も、魔力を全解放すれば似たような感じになるしな。


『ふむ。少しずつ威力と範囲を広げておるのじゃが……お主、最初に使ったあの不可思議な技は使わぬのか? 異世界人など、むしろ儂に見せつけるように使っておったぞ』

「何度も使えないし、使っても対応策を取られるだけだろ。まあ、その内使わされるんだろうから、そろそろ話を聞いてくれよ」

『お主が儂の癪に障ることばかりしておるから悪いのであろう。逆鱗に触れるのと同様、イライラするものだぞ』


 ……いや、『さわる』違いだろう。
 対龍の策を考えるために情報を集めようとするのだが、「コイツ、マジツヨイ」ということしか分かっていない。

 まあ、それだけ分かればアリィの場合十分すぎる情報なんだけどな。
 大富豪を使えば倒せるんだし――射程的に問題がなければだが。

 おっと、今はその話については置いておこうか。


「何もしないで出鱈目に挑んだって、それは蛮勇や無謀の類いだろう。それじゃあ俺はただ死んで逝くだけだ。だからせめて、何か得ようと思っただけ……もう無理だからとりあえず諦めるし、話をしてくれよ」

『話は既にしておるし、それでもとりあえず・・・・・なんじゃな。……ふむ。良いじゃろう。儂も永い間話す相手もいなかったしのう。つまらない話だったらこちらから合図を送る……話してみよ』


 随分上からの発言で会話を許してくる。
 ……合図って、どうせ息吹なんだろうな。
 でも、どれだけ威力と範囲が向上するか分からないし、安全第一だな。


「感謝する。とりあえず、どう呼んでいいか訊いても良いか? さっきからずっと二人称が使えなくて面倒なんだ」

『ふむ。会話には確かに必要じゃな。儂に特に決まった名は存在せぬ。そうじゃな……今は『銀龍』とでも呼べばよい。様を付けても構わんぞ』

「それじゃあ、よろしく頼むぞ……銀龍様ってうぉわ! (――"転移眼")」


 再び銀龍の口から息吹が放たれ、俺が躱すというルーティーン作業イタチごっこが行われる。


『……うむぅ。お主に様付けされて少々龍鱗が立った。今のはその分じゃと思え』

「……鳥肌じゃないんだなって危なっ! (――"瞬脚")」

『お主も学習をせんのう』

「今のは俺が悪かった、すいませんでした」

『うむ。自らの非を認めるのは当然じゃな』


 いや、確かにさっきの発言は不味かったと思うよ。
 日本なら、野生のライオンに猫の話をするぐらいの危険性があるか?
 ……動物園にしかライオンはいないか。

 でも、だからって威力を上げた息吹を放たなくても良いじゃんか!
 銀龍の攻撃って多分全部死に直結するもんだよ、確定事項だろう。


「……じゃあ、話を続けるよ銀龍。
 俺は偽善者としてこの島に居た強者たちに会い続けた。時には契約を、時には解放を、時には救出を……ってな。一人一人会い続けていって、次は銀龍ってわけだ」

『ふむ。お主が何を成してきたかは理解できたぞ。じゃが……それが儂に何の関係があるのじゃ? 儂とも契約をしたり、ここから解放をしたり救出をしようとするのか?』

「いや、別にそういうことはしないぞ。俺は強者の願いを聞き入れているだけだ。死ねって願いはあまり聞きいれられないがな」


 眷属に勝手に死んだら怒られそうだしな。
 助かったとしてもその後がどうなるかが分からないし……やっぱり止めとこ。

 え? 全然願いを叶えていない?
 きっと今まで俺がやったことは、眷属が心のどこかで望んでいたことさ……メイビー。


「――何かないのか? 俺でも叶えられる願いなら、大抵はやろうと思っているけど」

『そうじゃのう……では、死ぬか儂に勝つかしてくれないか? 今までこの島の者達と邂逅して生きて来れたお主ならば、それなりの力があるじゃろうし……もしそうでなくても――死んでくれれば手間が省けるしのう』

「……いや、死にたくないと言ったんだが」

『全く、往生際が悪い奴じゃのう。儂に挑むということは、即ち生死を賭けた闘いをするということなのじゃぞ。ならばこそ、お主も命を賭けて儂を倒せばよかろう』


 ここで無理と言っても、多分お仕置きの息吹が飛んで来そうなので止めておこう。
 そもそも、もし肉弾戦になったら、という時のスキル進化である。
 完全に勝利間違いなし! というわけでもないが、銀龍が満足頂けるような戦闘にはどうにかできると思うぞ。


「……ギリギリまで頑張ってみるから、満足できたら生かしてくれ」

『うむ、了解した。儂が満足できる力を魅せてくれたならば……そのときは、儂も逝かしてやることを誓おうではないか』

「ん? 何か違うような……まあ、良いか」


 俺の生存アライブは確定したんだ。
 それならば、戦争デートし尽くそうではないか――銀龍が堪能できるコースたたかいを以ってな!



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